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番外612 精霊と湖畔と

 父さんに貸してもらった馬車は、転移門での来客があった時に使って貰えるように用意したもの、との事で。明日ガートナー伯爵家の屋敷に帰る時に返せば良いそうだ。俺達としてももう父さんとの和解を隠す必要もないので、堂々と伯爵家の馬車を借りる事ができる。


 馬車が通りやすいようにと落ち葉がかき分けられた、森の細い道を進んで行けば母さんの家に辿り着く。

 やはりここでも落ち葉がかき分けられていて綺麗なものだ。

 母さんの家自体も紅葉で葉が色付いていて……俺にとっては安心する風景だったりする。


「おお……これが代行殿の母君の……」

「紅葉が美しい。フローリア殿の本体でもあるのだな」

「ええ、そうよ。のんびりしていってね」


 と、感動した様子のアルクスとヴィアムスの言葉にフローリアが笑顔で答えていた。

 御者役をしてくれていたハロルドは、そんなやり取りに笑みを浮かべて馬車を留めると、馬を馬車から外して予め用意してあった干し草の近くに綱を結わえたりと、色々と仕事をしてくれているようである。

 馬もリンドブルムにも動じないあたり、かなり訓練されているのが窺える。翻訳の魔道具でコルリス達が挨拶をしていた、というのもあるだろうが。


 ともあれ、道や家の前を綺麗にしてくれているのも当然二人の仕事だろう。馬用の干し草も俺達の訪問に合わせて準備したものだろうし。


「ハロルドとシンシアも、いつもありがとう」

「これが僕達の仕事ですから」

「けれど、喜んでいただけて嬉しいです」


 俺の言葉に、ハロルドとシンシアはそんな風に答えて頷き合っている。


「二人とも、今日の仕事は他にもあるのかな?」

「いえ。今日はテオドール様達がいらっしゃるということで、一通り先に済ませております。馬の世話をしたら手が空きますよ」

「そっか。手隙なら一緒に湖へ遊びにいったり、お茶や食事でもって思っていたんだ。この後他に用事があったりしなければだけど」

「うん。普段身の回りのお世話をしてもらっているから、二人が来てくれると私としても嬉しいわ」


 俺とフローリアがそう言うと、二人は嬉しそうな笑顔になった。


「それでは――ご一緒させて頂きます」


 それは何よりだ。というわけで手荷物を家に置いて、母さんの家の中を見て回り、軽く拭き掃除をしたり、フォレスタニアから持ってきた食材を台所に運び込んだりと、夕食の用意も含めて色々と準備を進めていく。


 今日はみんなでのんびりさせてもらおうと決めているので、アイスゴーレムも活用して食事の用意を進めながら、お茶を飲みつつの歓談である。

 みんなで料理をしたり、作ってもらった物を楽しませて貰ったりというのも良いのだけれど。


 少し腰を落ち着けたらみんなで湖の散策に行くのも良いだろう。リンドブルムやヴィンクル、マクスウェルは湖の上を飛び回るのが好きなようだし。


「ああ。マクスウェルには生活用ゴーレムの方を家に残しておいて欲しいんだけど」

「承知した。何かするべき事があるのかな?」

「料理をアイスゴーレムに任せてるから、味見役をして貰えたらなって思ってね。マクスウェル本体は一緒に遊びに来てもらうとして」


 完全にゴーレム任せだと味見だけはできないからな。


「そういう事なら承知した。役得というものだな」

「ん。便利」


 と、核を嬉しそうに明滅させるマクスウェルと、そんなやり取りに頷くシーラである。

 マクスウェルの場合、生活用ゴーレムと呼称しているがアルクスやヴィアムスのスレイブユニットと同様のものだ。五感リンクを利用しているので本体と距離が離れていてもこうして味見をしたりという事が可能なわけである。


 そこに馬の世話を終えたハロルドとシンシアもやってくる。

 みんなで腰を落ち着けてお茶を飲みながら、近況についての話を聞いてみる。


「僕達が外壁の外で仕事をする事が多いので、武官や領民の方々で、心配してくれたりする方は多いですね」

「この近辺はヘンリー様も見回りを多くして下さいますし、もしもの時はテオドール様に頂いた魔道具もありますから。フローリア様も守ってくださいますので安心ではありますが」

「父さんも二人の事は信頼しているからね。それなら安心だ」


 ハロルドとシンシアもダリルやカーター達とも友人になったようだし。ガートナー伯爵領に住む人達も、良い方向に少しずつ変化しているのかな。


「後は……吟遊詩人の方とも何度かお会いしましたよ。境界公の御実家となるので、あまり森の奥まで立ち入りはしませんが、少し話をしました」

「街道から森の雰囲気を見たりすると、歌の内容や臨場感等が良くなりそうな気がするとか何とか」


 と、二人が思い出したかのように言う。


「吟遊詩人か。まあ……題材集めに熱心なんだろうね」


 という事は、題材も俺に関するものなのだろう。国内外の酒場や人通りの多い所で人気のある題材になっているという話は聞く。

 まあ……貴族と関わる事も多い彼らだ。題材にするに当たってはきちんと一線を引いてくれているようだし、悪意があっての行動ではないのならよしとするか。


 騎士家の次男、三男であるとか、戦いの為の魔法を得意とする魔術師といった面々は武功や腕前を売りにして立身出世を目指したりするものだしな。

 こうして吟遊詩人の題材にされるのは名誉な事という風潮がある以上は物申して自粛させたいわけではないので、俺としては何とも言えない。まあ、あまり気にしないようにしておこう。


 クラウディアは気持ちが分かるのか、俺の様子に苦笑していたりするが。

 ともあれ、父さんも言っていたがガートナー伯爵領は平和なようで何よりだ。




 そうして、お茶と雑談を楽しんでからみんなで湖に繰り出す。

 秋の森が湖面に映り込んで綺麗だ。

 到着すると嬉しそうな様子でリンドブルムやヴィンクルが空に。ティールが湖に向かってそれぞれ飛んでいく。


 俺達は四大精霊王の加護があるから平気だが、普通は泳ぐにはやや肌寒い季節であろう。

 だが元々南極暮らしのティールにはまだまだ暖かいぐらいだとは思う。湖面から飛び出したりして、楽しそうに泳ぎ回っていた。

 ヴィンクルもティールが湖面に飛び出す際のアーチを潜るように飛んで、楽しそうに互いに声をかけあう等……解放感を満喫しているようだ。


 ベリウスやコルリスはと言えば、泳ぐわけではなく、ハロルドやシンシアを背中に乗せてやったりして。ハロルドとシンシアも高くなった視点やその毛並みの手触り等に笑顔になっていた。


「ああ、ラヴィーネ。見つけて来てくれたんですね」


 と、アシュレイが尻尾を振るラヴィーネを撫でる。その口には冷凍保存されたキノコが銜えられていたりして。どこからか食用になるキノコを採ってきたようだ。

 そう言えば秋口だしキノコも美味しい季節だな。前にこの付近でキノコ狩りもしたが、その時の事を覚えていて、匂いで探し出してきたわけだ。


「少しのんびりしたら軽くキノコ探しに行こうか。量が多ければ一品増やして、少なければ明日の炊き込みご飯に入れて香り付けに使うのも良いかも知れないな」

「悪くないわね」


 と、頷くローズマリーである。薬の材料にもなるのでローズマリーとしては、キノコ狩りは歓迎なのだ。

 そんな調子で湖周辺を散策して畔に咲いている花を愛でたり、思い思いにのんびり過ごす。デュラハン達も桟橋に腰を落ち着けたりしてリラックスしてくれているようだ。


 話を聞いてみると精霊だから美しい景色は心が和む、のだそうな。アルクスやヴィアムスも分かる、というように頷いていた。

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