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番外610 秋の伯爵領

 ダリルの一件は一先ず本人達の様子を見るまで保留として……メルヴィン王にも話を通したので、早速迷宮核にてアルファの召喚術式の応用版を組み上げてシミュレートを行う。


 組み上げるというよりは本来の召喚術式の中に、念のための追記や補足事項を書き加える作業、というべきか。


 マルレーンが召喚魔法を使った時の魔力の動き。召喚対象がゲートを通る時の魔力の動き。それら通常の召喚魔法を土台に、術式の働きを一旦分解して一つ一つの要素を再構築。

 その中でシリウス号がアルファの身体であること。船の備品や積まれた荷物がシリウス号の所有物であることを定義付け、それら全てが召喚魔法の対象になるように魔力の動きにしっかりと指示を出す。


 更に……このままではシリウス号に乗っている生物や精霊、魔法生物といった存在は召喚魔法に含める事ができない。それらはあくまで別箇の個体だから術師と召喚獣の間にある契約の対象にならないのだ。

 転移魔法の応用を組み込んでやる事で乗組員ごと召喚魔法による移動ができるようにもなる……が、そうすると今度は消費魔力が随分と跳ね上がるな。


 マルレーンとクラウディアの魔力資質に近付けた魔石を用意して、これらの術式を刻み、更に波長を合わせ、相当な魔力を練り上げて術式を行使する必要がある。通常の転移魔法で同じことを行うよりは大分燃費が良くなっているか。


 迷宮核の外にいるみんなに通信機でその事を伝える。


『一応、転移魔法の応用術式を付け足すか足さないかで、船体だけの召喚と乗組員もまとめての移動を選択できると思う』

「魔力消費が大きくなるのは難がありますが……みんな乗ったまま召喚魔法で移動できるというのは、門を潜る以外にも使い道がありそうですね」


 と、マルレーンに抱えられたカドケウスを、楽しそうに撫でながら言うグレイスである。門を潜る以外にも、というのは魔界との行き来以外でも、という意味だろう。


「選択ができるのならどちらも、というのが良さそうよね。緊急時に召喚魔法で離脱する事もできるようになるし」

「そうね。それに乗組員を伴わない召喚なら、燃費を良くするだけではなく、密航者を簡単に炙り出す目的でも使えるのではないかしら?」


 と、ステファニアとローズマリーが言う。なるほどな。基本的な召喚魔法に同行者が含まれないのを逆に利用し、魔界に行く時と戻る時にこっそり船に乗り込んで密航しようとする者がいないかを見極めるのに利用するというわけだ。


「つまり……緊急時以外はきちんとみんなシリウス号を降りてから門を通過して、その先で召喚魔法を使えば良いわけですね」

「ん。その後、誰か取り残されていないか、きちんと確認して戸締り」


 アシュレイの言葉に、シーラがそんな風に言うと、イルムヒルトがくすくすと肩を震わせる。うむ。

 急ぐ必要が無い時には魔力を節約しつつ、セキュリティを高める為にも利用する、というわけだな。


『そうだね。シリウス号側にはあまり手を加えなくても良さそうだし、召喚の発動にも魔道具だけじゃ魔力が足りないから、手動で必要になる魔力の確保をするつもりでいるけれど』

「安全性が高くなって良さそうね」


 クラウディアが笑みを浮かべて頷く。そうだな。召喚は他でも使用可能とはいえ、あくまで魔界探索のための物だし、アルファとの契約やオリハルコンの魔力波長合わせが必要だったりするので、後世において他の方法では再現しにくいぐらいが丁度いい。

 一先ず術式は完成したので後は工房に持ち帰って魔道具作りを検討してみるとしよう。




 そうして執務や視察、訓練と並行して造船と魔道具作りで日々は過ぎていく。

 植物も赤や黄色に色付いて……すっかり秋も深まってきたという印象だ。それに伴い誕生日も近付いてきて、その前日になったところで予定通りに転移港を使ってガートナー伯爵領に出かけようという事になった。


「では、残りの歓待の準備は私達で進めておきます」


 と、セシリアが微笑んで一礼してくる。


「うん。何かあったら通信機に連絡を入れてくれれば対応するよ」


 各地からの客を迎える準備も万端である。

 とはいえ先代ブロデリック侯爵のように、こうしたパーティーが増えて家計や財政を圧迫してしまうのはあまり良くないと思うからな。

 訓練も兼ねて自分達で迷宮のあちこちに出かけて食材を確保したり、自前で出し物を用意したりといった方法で、実益と節約も兼ねながら楽しんで貰えるような内容を考えつつ、色々と手筈を整えたというわけだ。


 誕生日を祝いに来てくれるみんなも特産品やお土産を持っていくと言っていたので、そのへんは楽しみだな。


「代行殿の生家を見るのは楽しみです」

「確かに。マクスウェル殿からは景色の綺麗な場所と聞いていますから」


 アルクスとヴィアムスはガートナー伯爵領に行くのは初めてだからな。マクスウェルから少しだけ話を聞かされていたらしく、訪問を楽しみにしていたらしい。

 そんな二人の横でマクスウェルの日常生活用ゴーレムもうんうんと頷いていたりするが。


 ヴィンクルも西方海洋諸国に出かけた時は留守を預かっていたからな。今回は気兼ねなく同行できる場所という事で、かなり上機嫌そうだ。


「それじゃ行きましょうか」

「行きましょー!」


 と、上機嫌そうなフローリアと、その肩に座って楽しそうに拳を上げるセラフィナの様子に、みんなも微笑ましそうに表情を綻ばせていた。

 母さんの家に行くという事でフローリアも嬉しいのだろう。

 というわけで使用人の皆やゲオルグ達に後の事を頼んで、馬車に乗り込んで転移港へと向かう。


 連絡を入れてガートナー伯爵領へと転移港で飛ぶ。光の柱が収まると――そこには父さんとダリル、キャスリン、それから墓守の兄妹であるハロルドとシンシア……それから以前集団家出騒動を起こしてまで俺に謝ろうとしてくれた街の少年達……カーターを始めとした5人の子供達が迎えに来てくれていた。


 国内の転移門設備はそれぞれの領主の屋敷や居城の一角、或いはそうした領主の住居に程近い、警備しやすい場所を選んで造ってある。ガートナー伯爵領の場合は屋敷の一角だ。転移門の意匠は――母さんの家である木の家と湖をモチーフにしたものだな。

 転移門については転移元と転移先、お互いの管理責任者の了承があれば起動できる、というものなので、防犯上の観点から各地の門も普段は起動していない、というのが基本的な状態だ。


 まあ、通信機があるので、これから向かうという旨の打ち合わせをして、こうしてスムーズな行き来と出迎えができるわけだが。


「こんにちは。みんな元気そうで良かった」


 と、フォレスタニアの領主としてではなく、やや気軽な調子で挨拶をすると父さん達も心得ているというように笑みを浮かべて応じてくれた。


「テオこそ、元気そうで何よりだ」

「西方じゃまた色々あったみたいだけど……無事に帰ってきたみたいで良かったよ」

「ご無沙汰しております、テオドール様」

「お久しぶりです」

「テオドール様、お久しぶりです……!」


 と、父さんとダリルが言って、ハロルドとシンシア、それにカーター達も嬉しそうに微笑んで挨拶してくる。


「ご無沙汰しております」

「奥方様も息災そうで何よりです」


 キャスリンは俺に遠慮があるのか、少し遅れて控えめながらも静かに挨拶をしてくるのでそれに応える。色々あって、少しやつれて顔色も悪かった印象があるが、今は割と血色も良くなって、前よりは健康そうになっている印象もあるな。


「ダリルもハロルド達も……みんな結構背が伸びたね」


 そう言うと、ダリルとハロルドが揃って頷く。


「そう言うテオドールこそ。ああ……。僕の方はハロルドやカーター達とも結構仲が良くなったよ」

「お陰様で、ダリル様にも懇意にして頂き、元気に過ごしております」


 そうか。ダリルが彼らとも仲良くしているというのは良い情報かも知れないな。静かに笑って二人の言葉に頷いた。


「茶の用意もしてある。テオ達にも予定はあるのだろうが、少し屋敷で寛いでいくと良い」

「ありがとうございます、父さん」


 父さんの提案に軽く笑って応じる。ガートナー伯爵領の知り合いと会うのも久しぶりだからな。のんびりとさせてもらおう。

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