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番外604 星々と精霊と

 島に建てたツリーハウスにはどれも上階に広めのテラスがついている。下からの照明を遮りながら夜空を見る事ができるように、というわけだ。


 みんなで幾つかのツリーハウスに分かれて泊まってその使い心地を確かめながら……テラスに寝転がって空を見上げながら循環錬気を行う。

 みんなの魔力と温かさを感じながら……夜空は相変わらず包み込まれるような満天の星空だ。小さな星々がはっきり見えるので、とても美しいと思う。


「やっぱり……綺麗ですね」


 と、テラスに寝転がるグレイスが目を細めて静かに言うと、横になっているマルレーンがこくんと頷く。


「あの光の一つ一つが私達の住んでる世界みたいなものっていうのは、不思議よね」

「どんな星があるのかしら。ルーンガルドのような星ばかりではないでしょう?」


 ステファニアの言葉を受けて疑問が湧いたのか、ローズマリーが尋ねてくる。循環錬気でリラックスしているからか、みんなの口調も静かな物で……。真剣な考察というよりは寝物語の一環といった印象だ。


「そうだね。恒星――太陽のように燃えていたり……太陽からの距離で極端に暑かったり寒かったり……雲の塊みたいな星もあるね。ルーンガルドみたいに環境の整っている星も、全体を見回せばそこそこある、のかな」


 何だか、みんなと星空を見ていると浪漫よりも科学的な話になってしまうことが多い気がするな。みんなとしては馴染みのない話が多いからか、興味深く聞いてくれているようなので、これはこれで楽しんでくれているように思うが。


「ん。という事は、どこかには私達と同じような生き物が住んでる?」

「どこかには、ね。かなり良い条件が整わないといけないから、簡単に行き来できる場所にはそういう星はないかな」

「月に行く時だって大変だったものね」


 シーラの疑問に答えるとイルムヒルトがそう言って……みんなもしみじみと頷いていた。そうだな。四大精霊王の加護やシリウス号の魔力光推進、月の船による航行用のデータがあったからこそ月に行くという選択肢が取れたわけだしな。


 衛星でこれなのだから、別の惑星となると……ハードルの高さはそれこそ段違いになるだろう。

 景久の記憶では、観測の結果として割と地球と同タイプで近い環境の星、というのは結構見つかっていたりするが、そこに実際に行く手段があるかはまた別の話だ。


「まあ、知的存在を探すだけなら……星の高位精霊もいるだろうけど」


 ティエーラと同じように、星々の精霊も存在しているのだろうから、他の天体に知的生命体を求めるよりは、そうした高位精霊の方が案外コンタクトしやすいかも知れないな。


「ああ。それは気になりますね」


 アシュレイが頷く。


「けど、ティエーラの話では生命が豊かじゃないと精霊も力を持ちにくい、らしいよ」


 イシュトルムが目覚めさせようとした月の精霊も活動的ではないらしいし、そうなると他の星々の精霊達も大体はそうなのだろう。

 だからこそティエーラは孤独を感じて……ルーンガルドで生まれた生命を子供のように大切に思っているわけだからな。いずれは自分も寿命を迎えるから、星から旅立つ者が出てくれば嬉しいと、生まれた命が力強く続いていってくれる事を望んでいるようだけれど……。


 つまりは……他の環境の良い星に移住と言う事になるか。地球ではコールドスリープであるとか、現地に到着してから所謂試験管ベビーや種子から作物を現地で作り、それを人工知能が教育するだとか……何十年どころか、数百年もの長期を見据えた惑星間移民計画の案が出ていたっけ。

 些かSF的な話だが、そうしたアイデアが実現したという事例も実際にあるのだし、全くの夢物語というわけではないのだろう。


 こちらの世界ではどうかと言えば……魔法があると言っても、やはりそれらの手段を実行に移すのは中々に難しそうだ。月の船でもそこまでの航行を行うのは大変だろうし。

 魔法的手段で星系間の移動を考えるなら……大規模長距離転移、という方法もあるか。真っ当な手段では魔力リソースが確保できそうにないが……。


 んー。天文学的に思考を巡らせても、星の精霊の事を考えても、やたらスケールが大きくなってしまうな。

 そんな調子でのんびりと循環錬気を行い、眠気が来るまで星の精霊の話だとか、彗星や日蝕といった天体の動きの理屈であるとか、明日造る水上コテージの話など……色んな話をしながら島での一夜は静かに過ぎていくのであった。




 明けて一日。今日は昨日余らせた余剰物資を使って水上コテージを造る予定だ。

 絶海の孤島ではあるが、年間を通して暖かいし転移門もあるからな。星球儀で確認すると、この島の周辺にも小さな無人島があり、島の周囲に遠浅の海が点在している場所もある。将来的にもっと航行技術が向上すれば、それらの場所を活用してのリゾート地としても使えるだろう。

 勿論、環境破壊に繋がらないように美しい環境や現地の動植物を大切に、という方向で喧伝してやる必要はあるが。


「では、海水を退けますね」


 と、アシュレイに海水を退けてもらって、海底に波対策の結界を張るのは昨日と同様だ。作業を終えて海水を戻す時に、精霊達が楽しそうに海底に跳び込むのも昨日見た通りであった。

 そうして砂浜から程近い場所に安全で穏やかな海を確保した上で魔法建築に移る。

 構造強化と耐水の魔法を用いた木材で桟橋を造り、その先に木魔法で水上コテージを造っていくわけだ。


 満潮の水位に合わせて柱を立て、床を張り、壁や天井を構築。コテージのテラスから直接階段を降りて海に入ったりできる構造である。


「見た目はどうかな?」

「良いわね。明るい海に合っている気がするわ」


 意見を聞いてみるとクラウディアが微笑む。ああ。それは良かった。

 木造なのは南国らしさが出ていて中々悪くはない……と自分では思うのだが、誰かに見てもらって意見も聞けた方が安心できるところがあるからな。


 そうして生活用水を精製する魔道具であるとか、照明、風呂やトイレ等々……各種魔道具を設置してやれば出来上がりだ。


「海水は――いいね。しっかり真水になってる」


 と、導水管から出た水を手ですくって味わったアルバートが表情を明るいものにする。

 生活用水精製の魔道具は――取水と排水周りに少し手を加えて、海に影響が出ないように工夫を凝らした試作型である。


 これはバラスト水対策であるとか、船上で海水を利用するために作ったものだが……ツリーハウスや水上コテージに設置しても上手い事機能してくれるだろうと今回持ち込んだのだ。導水管敷設の手間が少ないので水上コテージに採用してみた。


 取水時に塩分を分離して生活用水として使えるようにする。排水時は汚れた水の浄化をしながら取り除いた塩分、温度を合わせて放出、という具合である。

 これをタンクと導水管に繋げてやれば……海水を生活用水として使いたい放題だ。

 飲用水にも使うので水分は減る事はあっても増える事は無い。となると差分として余剰になる塩分が出てくるが、それは固めて排出してくれるので資源として利用可能だ。


 通常の水精製の魔道具より潤沢に水が使えるのがメリットで、複合型の魔道具なのでコストが高いのがデメリット、だろうか。


「とりあえず見本という事で」

「これの評判が良ければドリスコル公爵領やグロウフォニカ王国でも同じような建物が流行るかもね」


 と、アルバートが笑うのであった。

 この後は――そうだな。島の改造も終わったし、水着も持ってきているので海水浴や釣り等をして一日のんびりしてからタームウィルズに帰るとしよう。ヴィアムスにもみんなと一緒に遊んだりと、楽しい思い出を色々作ってやりたいしな。

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