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番外601 海の民との絆

 食事と音楽を楽しみながらのんびりと遊覧船でフォレスタニアの湖をクルージングし、そうして宴は終了となった。

 その後はフォレスタニアの居城にみんなで集まり、サロンで雑談したりカードやチェスに興じたりといった具合だ。

 ゲームも割と盛り上がったが、工房の仕事に関する話題が上がると、みんなもそれに興味を示していた。


「では――次なる工房の仕事としては海の拠点作りと外洋航行船の建造ですか」

「そうですね。島全域とその周辺海域の模型の構築はテオドール公が進めて下さいましたから、それを基に計画を進め、資材を用意しています」


 と、レンフォスの質問にドロレスが答える。


 今回の宴に参加した面々は海の民が多いからな。航路開拓の仕事が残っているので海の民としては気になっているのだろうと思う。

 島というのは――ティールと初めて出会った南方の島だな。基本的に中継地点としての補給能力や、船員の体調を維持……宿泊施設や医療関係の機能が求められるだろうか。

 木材、石材、珪砂、転移門用の資材、各種魔道具用の魔石等々……。資材の手配は進んでいるので、必要なものが揃い次第、造船や現地での魔法建築、という事になるだろう。


 所謂GPSのように船の現在地点が分かる魔道具の開発も必要だったのだが、そのあたりは割とあっさりとアルバートと進める事ができた。通信機の応用でそうした魔道具が作れるので下地はできていたのだ。契約魔法を魔道具に組み込む技術も大分向上しているしな。


 船の現在位置、中継地点となる島、避けるべき魔力溜まりのある海域、目的地となるヒタカノクニとホウ国の場所。それらの位置関係が分かる魔道具。

 船、中継地点、目的地の三点間に魔道具を設置して契約魔法でペアリング。三点での現在位置が特定できれば、後は魔力溜まり等の、近付くべきでない危険地帯の位置を入力しておけばいい。これは星球儀で得られた地形データを参考にするだけの話なので問題はない。


「まあ、基本的なところはもう準備が出来ているし、見通しも立っている。残る問題は……外洋を航行する船員についてかな」


 これは同盟各国からの推薦で選ばれる事になるか。船乗りとしての知識や経験だけでなく、しっかりとした人格や良識が求められる。

 例えば――軽率に生態系を壊されるような行動は困るし、旅の途中で他の種族や人種と出会った折に、上からの目が届かないのを良い事に略奪したり騙したり、搾取したりするような輩では困る、という事だ。かといって、逆に襲われそうになった時、騙されそうになった時に対応できないようでも困るのだが。


 まあ、つまりは地球で言うところの大航海時代の負の側面……。そういったものがルーンガルドで再現されるような事態を避ける為に、事前に手を打っておこうというわけだ。

 地球云々の部分は抜きにして、将来に禍根を残すような事はするなと、そうした俺の考えを説明すると皆は真剣な表情で頷く。


「テオドール様は――何か対策はお考えなのでしょうか?」


 モルガンが尋ねてくる。


「まず航路開拓に携わる者が守るべき規則の策定と、その理由を含めての周知でしょうか。そうした規則――線引きが明確にしてあれば、船員の気を引き締めて秩序を保つ事ができますからね」

「理由が明確なら……処分を受けたとしても、妥当性、正当性が成り立って不平不満も減る、というわけね」

「そのあたりは、現場の判断にも関わってくるでしょうね」


 ローズマリーが羽扇の向こうで思案しながら言うと、クラウディアも目を閉じて頷く。

 そうだな。例のバラスト水の問題等も……理由を明確にしながらこの辺の規則に組み込んでしまえば良いのだ。


「それから……他の方法としては、新たな航路開発は公共性が高いので、それを理由として船に乗る人員を多国籍、多種族で構成する事ですね。理念への理解を深めると共に、軽率な行動への抑止にもなります」


 実際、航路を開拓するのなら海の民もかなりの力を発揮できるだろうと、エルドレーネ女王はグランティオスから人員の選出をしてくれている。

 これがもう少し大規模になると他の問題も生じてくるのだろうが、最初から厳選されたメンバーで一つの船の中、中継地点、といった小規模なコミュニティであるなら他種族も個性という括りになってくる。勿論、実際の航行を行う前に訓練等を通して相互理解を深めておく事も必要になってくるだろうけれど。


「そういう事でしたら我々もお役に立てるかも知れません」

「そうですな。フォルガロとの関わりの中ではありましたが、陸の民の航海方法は学んでおりますし、海を舞台にするのならばテオドール公のお力になれるかと存じます」


 ヴェダルがそう言うと、ブロウスも頷いた。


「ああ。それは助かる。けど、外洋航行は結構時間がかかるからな。折角家族といられる時間が増えたのに、頼んでしまってもいいものかと思ってね」


 深みの魚人族の俺への感情も考えると、頼むと言ってしまったら喜び勇んでというのが想像に難くないというか。


「お気遣いは嬉しく思います。ですが転移門もありますから。テオドール公のお力になりたいと考える者は多いと思います」


 そう言ってオルシーヴが笑う。

 そうか……。グランティオスの面々に加えて深みの魚人族もとなれば、海では本当に心強いのは確かだ。


「無理をしていないのなら、こちらとしても有り難いな」

「では、集落に持ち帰って皆とも話をしておきましょう」


 レンフォスはそう言って頷いていた。


「私達は――あまり表舞台には出られませんが、一族の術を利用した魔道具作りなら協力出来る事もありそうですね」

「それは……心強いな。追々相談させて貰えると嬉しい」


 モルガンの言葉にアルバートがそう答えると、カティアやアストレア達も嬉しそうに微笑む。

 そうだな。ネレイド族は秘密があるし船に乗って航路開拓、というわけにはいかないだろうが、表舞台に出られないなら出られないなりに、そういう方向でバックアップしてくれるというのは助かる。


 宴の夜の雑談は期せずしてこれからの仕事の話になってしまったが、中々有意義な内容になったと思う。そうして和やかな雰囲気の中、夜は更けていくのであった。




 そうしてささやかな宴も終わり、また日常が戻ってくる。

 俺が今いる場所は――術式の海だ。迷宮核内部の仮想空間に意識を置いて、並行世界干渉の為に必要な準備を整えていく。

 これらに関しては、必要な術式は全て俺の記憶の中にある。表に出して良い技術ではないので、迷宮核と共に進めなければならない仕事でもあるが……。


「――よし。これで良い」


 迷宮の余剰魔力を少しずつ集めて時間をかけて蓄積する事で、干渉の為のゲート構築に必要な魔力を確保する下準備を行う。

 干渉に関する仕事は一朝一夕でできるものではないので、時間がかかるのは致し方ない。長期的な計画で進めていく他ないだろう。


 時間がかかると言えば竜輪ウロボロスの作成に関してもだが……こちらもまあ順調だ。ヴィンクルに許可を貰った上で迷宮中枢部の一角――ラストガーディアンのテリトリーに魔法陣を敷き、良質な魔力を浴びせて寝かせる事により、素材としてより高品質な物になるように……こちらも準備を整えている段階なのだ。


 というわけで今俺が出来る事はどちらも待つ事だけだったりするのだが……竜輪ウロボロスの作成は個人的には楽しみだ。

 竜杖ウロボロスには長い事相棒として世話になっているからな。並行世界の俺にも愛用してもらえるように、気合を入れて作成したいものである。

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