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番外598 瞳の守護者

 ウィンベルグの魔人化解除に伴い、体調について暫くの間経過観察を行ってみたが……これがまた随分と安定している。

 ウィンベルグが得意としているのは飛行術で、変身した時も飛行に特化した形態だった。だから、魔人であった時程には自由には飛べなくなったそうだが、それでもどうしてなかなか。


「人間になっても……いや、戻っても、というべきなのですかな。それでも空を飛べるというのは嬉しいものです」


 フォレスタニアの居城にて……ウィンベルグはそんな風に言って笑顔を浮かべていた。

 飛行訓練に付き合っているのはテスディロスにヴィンクルやリンドブルム、アピラシアの兵隊蜂達という顔触れだ。

 パワーダウンしたらパワーダウンしたなりに技術で補って、今の身体に合わせて最適化しようとしているのが動きのそこかしこから窺える。

 テスディロスも訓練に熱心に付き合っている様子で、それに触発されてヴィンクル達も飛行訓練に参加したという形だ。


「さっきの動きだと、空中戦装備を補助的に使ってみるのも面白いかもね」


 俺がそう言うと、ウィンベルグは相好を崩す。


「おお……。それは素晴らしい。魔人化を解除したところでテオドール殿の技術をお借りするというのは、何やら象徴的な気がしますな」

「確かにな。動きが最適化できるまでは、訓練に付き合おう。俺としても先々の参考になるからな。まあ……仕事は疎かにできないから今日のように非番の時に、ということになるが」

「ありがとうございます、テスディロス殿」


 と、ウィンベルグとテスディロス。そんなやり取りを見たオルディアや、みんなも割合和んでいる様子であった。


 飛行訓練に一区切りつけて、呼吸を整える前後で体調を調べたりしていくが――。


「うん。異常はないね」

「それは良かった。結構力を使ったつもりでいるのですが、あれだけ飛び回って異常がないのであれば私としても安心です。きっと、ベリスティオ殿やヴァルロス殿も守ってくれているのでしょう」


 満足そうに目を閉じてうんうんと頷くウィンベルグである。

 そうだな……。それは確かに。

 ウィンベルグは思った以上に好調なようだし安定している。数日間注意を払っていたが、これ以降の経過観察については平常通りに戻していき、最終的にはスティーヴン達と同様、定期的に健康診断していく、というのが良いかも知れない。


 それにもう一点。魔人達の事、解除前後の事を調べている内に副産物というか、個人的に気になる事も出てきたが……まあ、そちらは深刻な問題に繋がるような性質のものではないので、追々余裕を見て研究なり検証をしていけば良いだろう。




 魔人化解除については俺の仕事だ。ヘルフリート王子の懐中時計が仕上がって、ビオラ達は手が空いたという事もあり、工房では新たな魔法生物の身体の構築、及びスレイブユニットの構築も同時進行している。


 骨格と神経をミスリル銀で代替。筋線維を黒ゴーレムの伸縮型素材で構築。基本構造はベリウスと同じだ。

 外装は白ゴーレムの魔力変換装甲。水中でも空中でも動きやすいように流線型を基調としている。


 魔力変換装甲については、装甲板が大きければ大きい程、変換の能力が高まる性質なので魔法生物のサイズだとシリウス号程の防御能力は望めない。だが、それでもダメージを魔力に変換して吸収できるというのは便利だし、かなりの強度を誇るのも事実だ。


 テンペスタス達の魔石は容量が相当なものだから吸収した魔力を潤沢に活用できる。

 変換や吸収が追い付かない程大きなエネルギーをぶつけて自滅させるという……装甲板の性質を利用した対策もあるが……そこは過剰なエネルギーを逃す事のできる――いわば電化製品のアースに似た機構を組み込む事で攻略法への対策とする。


 堅牢な骨格。柔軟な筋線維。外部装甲という三重の防壁を備えていて、一つ一つがかなりの強固さを持っているのだ。マジックシールドやプロテクションといった魔法的な防御術式、呪法の類への対抗術式、近接戦闘技能と合わせれば……防御面に関してはほぼ堅牢無比と言って良いだろう。非常時にはカーバンクルの固有術式を起動して情報の真偽を確かめる事もできるから、戦闘時の駆け引きにも有効かも知れない。


「ん。結構、テンペスタスに似てる」


 と、全体的な仕上がりを見たシーラが言う。そうだな。流線型の身体に白い装甲。それにやや長い前腕、そこからのブレードというシルエットは似ているだろうか。


 テンペスタスは牙も備えていて異形の魔獣という雰囲気があったが、この器に関しては……テンペスタスを元に騎士甲冑風にアレンジしたというのが正確なところだ。

 凶暴さよりは洗練されている印象だし、フォルムが似ていても異形とまではいかない。瞳の守護者として深みの魚人族と共にいるので、威圧感も抑えめにしてある。


「私本人としても彼の者を意識しているところがあります。対話の中で、マスターとの戦いを見せて頂きましたから……魔石の性質が似ているのであれば戦い方も似せた方が性に合っているのではないかと、お願いした次第です」


 と、話すのは魔法生物のスレイブユニットだ。アルクスと同じように本体と縮尺を合わせて小型化。ややデフォルメしている。感情に応じてバイザー奥の目の形が変わるのも踏襲している。こちらも本体同様、まだ完成というわけではないが、机の上に腰かけたままで会話をしたりというのには支障がない。


 攻撃面ではどうかと言えば――テンペスタスが俺と戦った時のものを下地に、水中でも空中でも問題なく使える術式、というのを幾つか魔法生物に伝え、その上で戦法を組み立てている。


 例えば掌底からの衝撃波。これは水中衝撃波の術式だが、少し術式の構成を弄ってやれば陸上でも問題なく作用する。ブレードの内側の間合いでの攻防を有利にするし、振動をブレードに通してやれば高周波ブレードとしても機能させられる。


 その他にも火魔法、土魔法を応用したオリジナル術式で……着弾と同時にテルミット反応を起こす弾丸を放つというもの。

 これはゼヴィオンの瘴気特性であるとか、ヒタカの忍であるイチエモンの奥義、屑龍を参考にしている。


 還元反応で生じる高熱を利用した術式なので水中でも問題なく作用するし、消火ができない。深みの魚人族を相手にするつもりで水や氷、雷の魔法を想定していた相手に、火と土で構成された魔法を叩き込むというわけだ。

 まあ……隠し技という位置付けだし殺傷力が高いので、滅多な事では使わないという方向で魔法生物とは話をしている。マグマを内包した岩塊を叩き込む高等術式――ヴォルカノンハンマーを小規模にしたようなものと考えれば良いだろう。


 隠し技と言えば……左手の爪も射出可能だ。爪にはミスリル銀線をより合わせたワイヤーが接続されていて、魔力糸の術式が展開できる。


 高速射出した爪を直接叩き込んだり、魔力糸の術式でワイヤーを操って切断や拘束に使ったり……。こちらは隠し武器ではあるが、ブレードより外の間合いへの応用範囲の広い攻撃手段として、有効活用してもらいたいところだ。動きが鈍くなる水中でも、高速機動できる空中でも立体的な攻撃は役に立ってくれるだろう。


「ふむ。これらの武装や術式に合わせて魔力光推進による高機動、ね。かなり強力なのではないかしら」


 ローズマリーが魔法生物の器をあれこれと確認して頷く。


「防衛役が防御能力に優れていて高機動なら、それに対応できるだけの真っ当な実力が強いられるからね。それだけで抑止力になる」


 方法論は色々だが、パラディン――アルクスは一つの理想形ではあるだろう。アピラシアのように質と量の両立というのもまた強いけれど、今回の場合は瞳を守る役回りだし。


 まあ、この分ならそろそろ本体に瞳を格納し、起動するところまで持って行けるだろう。暫くの間はスレイブユニットを通してみんなとの日常生活に慣れる期間を設ける必要があるかな。

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