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番外592 受け継がれるものは

「初期段階の構築は出来ていますよ」

「ありがとうございます、フォルセトさん」


 工房の一室にて、フォルセトに礼を言ってから対話用の魔法陣に腰を下ろし、テンペスタス達の魔石と向かい合う。


「よろしくお願いしますぞ」


 魔法陣の外からレンフォスが言うと、ヴェダル達も丁寧にお辞儀をしてきた。


「ええ。頑張ります」


 これから魔法生物の構築を行うという事で、連絡を入れたのだ。転移門を通ってレンフォス、ヴェダルとブロウス、オルシーヴが訪問してきている。これから長い付き合いになるのだから、誕生の場に居合わせないのも不義理だと駆けつけてくれた。


 魔法生物の雛型となるものはもう魔石に組まれている。この辺りは他の魔法生物達の人格、自意識を構築した時と同じであるが……。


 後は魔法陣を発動、維持しながら対話していくわけだ。魔法生物との対話は何度かしているが……アダルベルトの失敗やテンペスタス達の暴走を見た後だと、やはり責任重大だと感じるな。


 だからといって、魔法生物を不必要に怖がったり、押さえつけたりするのは違う。


 自分のやり方を過信するのは危険というのはその通りではあるのだが……今までの関わり方は、きっと間違っていなかったと、そう思う。

 今だってそうだ。カドケウス、ネメアとカペラ、バロール、マクスウェル、ジェイク、ライブラ、ウィズ、アルクス、アピラシア、イグニスにエクレール、ヘルヴォルテ、ベリウス、アルファ、ヴィンクル、アンブラムにハイダーやシーカーといった魔法生物組や迷宮出身の面々が、魔法陣の外で仲良く並んで対話の様子――新顔の誕生を見守っていてくれているのだから。自意識の強い者も弱い者も、そうして応援してくれている。


「主殿。我らの後輩をよろしく頼む」

「ああ。そこで見ていてくれると、俺も嬉しいな」

「はい。ここで見届けさせて下さい」


 マクスウェルの言葉に答えるとライブラもそんな風に言って頷いた。

 ライブラもまた、新しく後輩が誕生するかもという事でオスカーやヴァネッサ達と共に駆けつけて来てくれたのだ。

 みんな並んで、固唾を飲んで新しい魔法生物の誕生を見守っている。対話が長時間に及んだ場合でも魔力に余裕が持たせられるようにとウロボロスは俺と共に魔法陣の中だが、任せろというようににやりと笑って見せた。そんな魔法生物達の様子に、俺も口元に笑みが浮かぶ。

 グレイス達もまた頑張って、というように俺に微笑みを向けてくれる。


「それじゃあ、始めよう」


 魔法陣を起動させ、目の前の魔石に手を翳して対話を始める。

 目を閉じれば――意識だけが宙に浮かぶような感覚。小さな光がすぐそこにある。俺と魔法生物だけの世界に意識を没入させていく。


 目の前の光に対して初めましてと語りかければ、向こうからもやや戸惑いながら挨拶を返すような反応があった。

 次に幾つかの疑問が伝わってくる。あなたは誰で、自分は一体何者なのか? この場所は? 自分はどうしてここにいて、何をすればいいのか? 


 意識が繋がっているので、お互い考えている事が何となく分かる。

 それに、求めているものも。雛型を作るにしても、ある程度の原形は必要だ。魔法生物としては、目的を欲しがるのは本能のようなものだし、対話をするための意識と知識、知性も構築されている。これを高度に成長させるのがこの術式の役割だ。


 ああ。一つ一つ、丁寧に答えていくつもりだ。


 笑みを向けるようにしてこちらの意思を伝えると、頷くような気配があった。疑問は色々あるが、落ち着いているし怖がったりもしていないようだ。

 そうだな。まずは自己紹介からだろうか。自分の名前とこの場所の事を伝えてから、魔法生物――彼自身の事についても話をしていく。


 つい先程生まれたばかりである事。今は思考能力や判断能力を向上させる為にこうして対話をしている事を伝える。


 こちらの意識を読み取って、対話をしている横で色々と学習しているのが分かる。向こうがこちらに語りかけてくる言語も段々と明瞭、明確になっていく。


 何故ここにいて、今何をしているのかを伝える。残った魔法生物の疑問は……一体何をすればいいのかという生まれた目的についてだ。

 目的は――ある物を守ってもらいたい、というものではあるけれど。それより前の段階として、俺や陸の民や、深みの魚人族と友達になって欲しいというのがある。


 隣人として共に歩いて、同じものを見て同じ時間を過ごして笑い合う。そんな関係でありたい。それは――他の魔法生物達にも伝えてきた事でもある。


 他の魔法生物達との対話や、今までの色々な思い出を脳裏に思い描いて伝えると、目の前の魔法生物はそれに見惚れているように感じられた。すぐそこで魔法生物達や深みの魚人族の皆が見守ってくれているとも伝えると――嬉しいと頷いてくれる。


 そうして目の前の光――魔法生物の意識が何かを伝えてくる。それを魔法生物は、自分の中に最初からあった物だと伝えてきた。名前を聞くよりも先に、俺の姿だけは知っていたと、魔法生物は言う。


 温かくて優しくて、安心する。そんな大きな力のうねり。それはティエーラや精霊王達の力に似ている。

 集まって一つになっていく力。そして光の向こうにウロボロスを掲げる俺の姿があった。青い空と集まってくる幾条もの輝き。眼下に広がる海原と、祈るような姿を見せる皆の姿と――。


 とても大切に感じられて、温かで、嬉しいという気持ちがあって。でもこの光景が何なのか、その意味を自分は知らないと、魔法生物は言った。


 ああ。これは……鎮魂の祈りの時の……魔石から見た光景なのか。

 魔法生物自身は――テンペスタスやあの場にいた魔法生物達とは違う存在のようだけれど、魔石が構築されたあの時に、テンペスタス達の見た風景や感情が……記憶に近い形で魔石の中に残っていたのだろう。


 それなら、きちんと伝えなければならないだろう。どうして俺達はあの場にいて、彼の核となっている魔石が、どうして形成されたのか。

 グロウフォニカへの旅。サンダリオとドルシアの記憶。深みの魚人族の事。フォルガロとの戦い。テンペスタスの事。瞳を起動させた時に感じた事。一つ一つ最初から思い描いて伝えていく。


 魔法生物は――じっと俺の思い描く記憶を見ていたと思う。小さな子供が、物語に聞き入るような……そんな印象があった。


 テンペスタス達と戦わなければならなかった事を――魔法生物に伝えるのは酷な話だと思う。彼らをそういう風に育てた。そんな人間達がいるのも事実だ。


 だけれど。全てを話し終えた後に、魔法生物が伝えてきたのは……ありがとう、という感謝の言葉と、温かで穏やかな気持ちだった。

 目の前に浮かぶ魔法生物の輝きがどんどん力強くなっているように感じられる。


 ――自分を作ってくれてありがとう。テンペスタス達の事を想ってくれてありがとう。こうして、瞳やそれに連なる深みの魚人族の皆を守る為に、自分という存在を望んでくれた事が嬉しい。


 そう、言ってくれた。先程まで小さな光だったそれは眩いばかりの輝きとなっている。


 フォルガロの……アダルベルトのした事は確かに間違っているし、悲しい事だったと思う。だからこそあの時の想いを知っている自分が、こうして受け継ぐように瞳を守り、深みの魚人族と共に歩む隣人として一緒にいられる事が嬉しいのだと。そう魔法生物は伝えてくる。


 そう……そうか。そう思ってくれるのなら、俺も嬉しい。

 過去の誰かの想いを受け継いで、自分のしたい事が見定まる事とか。そういう気持ちは、俺にも分かるから。


 だから……そうだな。もっともっと、色々な話がしたい。

 俺自身の事やみんなの事。平穏な日々の記憶と、守りたい相手。大切な何かを守る為にはどんな知識や技術を身につければいいのか。

 そうして、一つ一つ丁寧に魔法生物との対話を重ねていく。時間はたっぷりある。だから、沢山の話をしよう。そう呼びかけると魔法生物もまた、嬉しそうに頷くのであった。

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