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番外590 工房の新たな仕事

『――ふうむ。ではやはり、魔法生物を配置する、というのが良いのかも知れませんな』


 深みの魚人族の集落と水晶板モニターで連絡を取りながら、テンペスタス達の魔石についての相談をする。


「そうですね。あれだけの魔石ですと、他の方法で活用しようとすると相当色々な機能を盛り込んでも容量を持てあましてしまいますから。ただ……フォルガロの一件で魔法生物が集落の人達に忌避されているようなら、他の方法を取った方がとも思います」

『テオドール公のお育てになった魔法生物と、フォルガロの魔法生物はまた別物でしょう。我らの間でも相談の機会を設けましたが、テオドール公のお連れになっていた魔法生物の方々に対しては、集落の者達も好意的でしたぞ』


 水晶板モニターの向こうからレンフォスは朗らかに笑って首を横に振った。


「了解は取れている、という事ですか」

『そうなりますな』


 では、魔法生物で決定だな。


「関わった者からそう言って貰えるのは、嬉しいものだな」

「確かに。隣人として正しく在れたのかはまだ分かりませんが、知り合えた人達からそんな風に思って貰えるというのは嬉しいですね」


 マクスウェルが核を明滅させながら言うと、アルクスも笑顔になっていた。

 カドケウスはと言えば、猫の姿のまま、窓辺で寛ぐような様子だ。見た限りではいつも通りであったが、五感リンクでは皆がそう言って貰えているのは嬉しいと、俺に伝えてきてくれている。自分がではなく、仲間達が、というのはカドケウスらしいような気もするが。


 バロールやエクレール、アピラシアも揃ってうんうんと頷き、ヘルヴォルテも控え目ではあるものの口元に微笑みを浮かべる。アルファやベリウスはにやりと笑ってと、中々和やかな雰囲気があった。


「そうなるとやはり、アルクスと同じ方法と言いますか。防衛対象を安全な場所で守りながら、集落の方々と普段交流できるような……そんな魔法生物が良いのかも知れませんね」

『それは確かに』

『意思を持つのであれば、務め故に外に出られないというのは酷でしょうからな』


 と、レンフォスと共にヴェダルやブロウス、オルシーヴ達も笑顔で頷く。防衛対象――つまり瞳の事であるが。

 では、本体とスレイブユニットを備えるタイプの魔法生物という事で。

 瞳を防衛するために深みの魚人族とどんな契約魔法を結び、どんな能力を持つか。それらはこれから考える事になる。やはり海洋で力を発揮できるような能力が望ましいだろうが……。ふむ。


「みんなにも色々案を聞きたいな。まず防衛能力は空中戦と水中戦が可能なようにするとして」

「空中戦もできれば場所を選ばずに戦えますからね」

「ん。追跡や陽動、救出……。色んな状況を想定して動ける」


 グレイスが首肯し、シーラも同意してくれる。

 そうだな。完全に海中での活動に特化させてしまうと、それを逆手に取られてしまう可能性がある。

 防衛用という事を考えると、敵も突破するために色々と手を尽くしてくるというのが予想されるからな。

 であれば、何かに特化させるよりもハイスタンダードなオールラウンダー、というのが小細工や対策を取りにくくて望ましいと言える。そういう点で言うとアルクスも同様だったりするが……。


「けれど防衛拠点は海になるのは間違いないから、その点を利用しない手はないでしょうね。但し、海という環境を利用しつつもそこに依存はしない――というのが望ましいわね」

「確かに……水や氷を操る術は……深みの魚人族の皆さんが持っていますからね」


 ローズマリーが言うと、アシュレイも思案しながら頷いた。

 海という環境を利用しつつも依存しない。相手する側の対策を考えた場合でも、確かに深みの魚人族とは異なる手札、能力を持っている方が望ましい。

 海中であれば……どうしても海水に阻害されて攻撃や回避行動が遅くなる。海水を無視できるような性質の攻撃であれば強力だろう。例えば光や音、衝撃に雷撃であるとか……。


 そんな調子で魔法生物についての相談を重ねていく。戦闘に関する事だけでなく、瞳を守る為にどんな方法を取り、どんな契約魔法を構築するかについても話し合う。


「防衛対象にしても、魔法生物がその身の内に保管する形が良いかも知れないわね。但し、発動に関しては魔法生物自身の干渉ができないようにするとか」


 と、クラウディアが言って目を閉じる。

 魔法生物自体は防衛が主目的だから瞳を扱えないようにする、と。確かに……深みの魚人族の総意を以って瞳にアクセスし、彼らの意思で発動できるようにすれば……魔法生物を騙して懐柔する、という方法は意味をなさなくなる。

 そうした考えをみんなで共有するとイルムヒルトとステファニアも笑顔になった。


「日常を一緒に過ごす以上は、深みの魚人族との交流もあるものね」

「もし打算で近付かれて裏切られたら、精神的に傷つけられる事になるものね。それを防ぐ意味でも良い案ではないかしら」

『あくまでも、力を正しく扱うのは我ら、というわけですな』

『過去のように族長の意思でなく総意であれば、誰かの野心で道を違える事もないでしょう』


 そんなブロウスやオルシーヴの言葉に、にこにこしながら頷くマルレーンである。見落としや間違いが起こらないか。総意を得られないような緊急時に瞳が必要とされた場合の対応や判断は、等々……色々な状況を想定して相談を重ね、契約魔法の内容を細かく詰めていく。


 更にそうした相談内容を実現する為に必要となる材料をリストアップ。

 魔法生物の身体の基本的な構造としては、ベリウスと同じ方向性で良いだろう。

 シルヴァトリアの黒ゴーレムに使われていた素材を疑似的に筋線維として使うというような方式だ。更に外部装甲を装備させれば、身体能力と防御面は相当なものになるはずだ。

 人格、意識、判断能力等々の根幹となる魔石については、テンペスタス達の魔石――これ以上は望めないという品が手に入っているので、最も難しい部分は最初からクリアしているしな。


 そうして魔法生物についての諸々が決まったところで、今度はドロレスも交えて話し合いを行う。


「外洋での補給拠点構築にあたり必要になると思われるものや、留意すべき点を覚え書きにしておきました」


 というわけで、ドロレスの覚え書きを見せてもらう。

 水に食料といった必需品に加え、航行に必要となる各種魔道具について。

 船内を乾燥させ、食料品を清潔に保つ事が病気の発生や蔓延を防ぐためにも重要である事等々……補足説明に色々と書かれていて、流石に押さえるべきところを押さえているという印象だ。


 ……長期間航行が続いた場合の疾病リスク――脚気や壊血病についても触れられているな。こちらは食生活の改善が予防策になるのではないかと、触れられているが……。


「この項目に関して詳しくお話をしても良いですか?」

「はい。船乗りの間で起こりがちな病気ですね。今は平和なので症例自体も少ないのですが……任務で長期間寄港できない場合に起こりやすいと結論付けています。武官よりも末端の兵士の間に起こりやすく……また貧困層でも同じような症状が見られる場合があり……そうした面々に共通する点を調べていって原因を消去法で絞り込んでいき、そうした結論が出たのです」


 なるほどな。外洋に乗り出すにあたり、そうした研究結果が必要になるだろうと、ドロレスは研究所の資料を下調べしてきてくれたらしい。グロウフォニカの将兵を大事にする気風もそうだが、ドロレス自身の着眼点も良い。


「そうだね。食生活が偏ると人体は段々不調をきたして病気になる。保存食だけじゃ補えないものがあるっていう事だね。これを防止するためには新鮮な果物や野菜を長期間貯蔵できる環境と、適切な調理の仕方が大事になる。栄養の中には加熱で変質してしまうものもあるから」


 そうした話をするとドロレスは真剣な表情で頷く。

 各種ビタミンの欠乏がそうした病気を招くのだと……大航海時代の船乗りとオレンジやレモンの話だとか、精米ばかりを食べた事で江戸に脚気の患者が増えたとか、そんな話を景久の記憶で小耳に挟んだことがある。

 重症患者に色々と与えていたらしいが、酸味が良いと誤解されて硫酸だか何だかを薄めて混ぜた物を与えたなんて、話も聞いたな。


 加熱でもビタミンは壊れてしまうので、やはりオレンジやレモンを船に多めに積んでおく、というのが対応策としては適切か。

 中継地となる島にもそうした物資を集積したり栽培したりしておけば……色々と安心だろう。


 そうして、魔人化解除の為に必要な触媒、瞳を守る魔法生物の為に必要な素材、外洋に乗り出す船と中継拠点に必要なもの等々、今後進めるべき事柄に必要なものをそれぞれリストアップしていくのであった。

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