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番外587 デメトリオ王達の帰還

 休憩所には夕食の良い香りが漂っていて、空腹の具合も丁度良い感じであった。

 女湯から戻ってきたみんなも交えて夕食の席となる。タームウィルズと言えばやはり迷宮産の食材ということで、騎士団が今日の為にマンモス肉を狩ってきたらしいが。


 樹氷の森はすっかり騎士団の訓練スポット兼食材調達の場となっている気がするが……冬季訓練の場としてはとても有意義だとそんな風に言っていたっけな。

 まあ……隣接する区画も魔光水脈なので騎士団としても魚介類が確保しやすい転移先を持っているだとか、マンモスの肉が量もあって中々に美味いというのも無関係ではないかも知れないが。


 ともかく、王城の料理人達も惜しみなく腕を振るってくれて。マンモス肉のシチューであるとか、魚介類をふんだんに使ったパエリア、ツナマヨを和えた新鮮なサラダ。冷やしたパイナップルといった品々も用意されて、それにみんなで舌鼓を打つ。


 マンモス肉はナイフでなくとも簡単に切れる程に柔らかく煮込まれていて、まろやかで少し酸味を感じるシチューの味付けと相まって実に美味だ。人参、タマネギ、ポテトと、シチューの他の具材も定番の組み合わせであろうか。こちらもそれぞれの具材に合わせて程良く煮込まれている。


「ああ。これは美味しいですね」


 と、グレイスは笑顔で頷いてからじっくりと味を見ている様子であった。


 ツナマヨに関しては旅先で作った新しい物であるが、早速サラダに取り入れて貰えたらしい。米だけでなくサラダにも相性が良いということで、小気味よい歯ごたえと爽やかな味わいの中にツナマヨの旨味が食欲を増進させる。


 パエリアも絶品だった。米と料理の組み込み方についてはいくつかアイデアを出して王城の料理長であるボーマンに伝えたりもしているが、それだけを元にというわけではあるまい。

 米の栽培が順調な事で、王城の料理人も先々を見据えて色々と創意工夫をしているのだろう。食材は殆どが迷宮産だが、魔物由来の素材だからこそ美味いというか。魚介類の濃厚な旨味が程良い香辛料の風味と共に米に広がっていて……これがまた食の進む味というか。


「ん。魚介類は良い……」


 と、パエリアを口にして喜びに浸っているシーラであるが。


「美味しい、ソロン?」

「実に深い味わいです。陸の料理は絶品ですな」


 キュテリアに問われたソロンが満足げに頷く。その腕の先端というか出っ張りには銀色に輝くスプーンが握られていたりして。そんな光景にみんなも表情を綻ばせる。

 メンダコというとあまり耐久力の高い生き物ではない、という印象があったが……パラソルオクト達はかなり適応力の高い魔物のようだ。


 術を使っているのか陸でも平気で浮遊しているし、プールでは淡水でも普通に泳いでいた。グロウフォニカ王国の公館に滞在していた時も、普通に陸上の食事を口にしていたらしいしな。


 アクアリウムは基本に忠実にというか、かなり神経を使って環境を構築したが、海の民も種族によっては適応できる環境が広めなのかも知れない。もっとも、パラソルオクト達は陸上や淡水で活動する時は色々術を使っているようだが。


「迷宮産の食材か。料理人にとっては素晴らしい環境なのだろうな」

「そうですね。ホウ国からも腕の立つ料理人が一人、迷宮産の食材を扱ってみたいと、ヴェルドガルを訪れていますよ」

「東国の料理か……。興味深いな」


 デメトリオ王は俺の言葉にそう言って思案するような様子を見せた。コンスタンザ女王やバルフォア侯爵、それに料理長のボーマンも頷いているが。

 ふむ。みんな興味があるのなら、滞在中、コウギョクに料理を依頼してみるのも有りかも知れないな。腕前の方は折り紙つきなわけだしな。


 そうして、デザートとしてパイナップルをみんなで食べて喜び合ったりと……そんな風にして、火精温泉での夜は過ぎていったのであった。




 デメトリオ王達はフォレスタニアの居城に泊まり、明くる日は朝食の後に幻影劇場へと向かった。アンゼルフ王の幻影劇三部作を見たり、合間に運動公園で休憩したりといった具合だ。


 第一部を見終わったところで休憩に運動公園へやってきたが、みんな興奮冷めやらぬといった調子で幻影劇についてあれこれと語り合っていた。


「グリフォンに乗った時の感覚が本物と見紛うばかりだったな」

「ふふ、昔を思い出しますな」


 と、デメトリオ王とバルフォア侯爵が笑い合う。


「魔法技術の活用の仕方としても……素晴らしいものだと思います」


 コンスタンザ女王もそう言うと、デメトリオ王達だけでなく、ネレイド族や深みの魚人族もしみじみと頷いていた。フォルガロの魔法研究がろくでもないものだっただけに、実感が篭っているというか。


「僕としては、伏せるべき部分を伏せ、明かせない部分を少し変えるなどして、サンダリオ卿のお話を幻影劇にしたいとも思っています。他国のお話も色々と題材として集めていたりもするのですが」

「それは良いですね」

「サンダリオ卿は真の武人ですからな」


 モルガンが笑みを浮かべるとレンフォス達も同意する。デメトリオ王も乗り気なので大筋が出来たら見せるという事で話が纏まったりした。


 しかし色々考えると……幻影劇場を拡張した方が良いかも知れないな。大型の映画館のように上映用のホールを館内に複数入れて、幾つかの幻影劇を別々のホールで上映するという方式にするのだ。正確な時計を開発中というのも、タイムスケジュールが分かりやすくなるので丁度良いだろうし。


 まあ……他の仕事を進めつつ、次の幻影劇を仕上げるのが先か。

 アンゼルフ王の話は、噂を聞きつけて遠方から足を運んでくる客がまだまだ多かったり、熱心なリピーターがいたりと、集客力に衰えが見えない。

 交通手段と情報伝達の速度の関係から言っても、暫く上映していて大丈夫だと思われるので、腰を据えて進めていけば良さそうだ。




 そうして――西方海洋諸国からやってきた面々はタームウィルズやフォレスタニアをのんびりと楽しんでいった。


 コウギョクの作った料理も大好評だった。コウギョク自身も迷宮産の食材とホウ国の料理文化を合わせた物を試してもらいたかったそうで。

 俺達の要請に二つ返事で応えてくれて、炒飯やワンタンスープ、春巻、青椒肉絲であるとか、様々なホウ国の料理を作ってくれた。それらもみんなに好評だったようで、東との航路開拓にデメトリオ王やドロレスが期待感を強めていた印象だ。


 そんな風にしてタームウィルズとフォレスタニアを堪能して、そうしてデメトリオ王達は国元へと帰る事になったのであった。フォルガロの後始末が色々と残っていたりして、あまり長い間国を留守にしていられないという事情もある。転移魔法ですぐに帰国できるから余裕を持ったスケジュールを組める、というだけで。


 出払っている元フォルガロのステルス船が戻ってきたら俺に連絡する、と約束してくれた。フォルガロの最後の工作員にも矢印がついているので外して誓約魔法を使ってもらう必要があるしな。


 そんなわけで、西方からやってきた面々でヴェルドガルに残るのは――カティア、ソロン、ドロレスにキュテリアといった顔触れだ。

 カティアの場合は、ヘルフリート王子と行動を共にすると言った方が正確だ。ソロンも同様で、カティアの近くで護衛役を続ける、との事である。


 ドロレスは予定通りだ。ブライトウェルト工房に身を置きつつ、航路開拓の仕事を進めていく。

 キュテリアは――火精温泉やフォレスタニアが気に入ったらしい。暫く滞在して身体を休めつつ、行く行くはネレイドの里に腰を落ち着けたいらしい。


 モルガンやアストレア達は歓迎すると言っていたが、キュテリアは「しっかり用心棒的な働きが出来るように冒険者ギルドに登録して腕前を鍛えて頑張る」というような事を言っていた。

 シグリッタもキュテリアの墨をただで提供してもらうのは悪いから迷宮で修業するのなら慣れるまで同行するとの事だ。イングウェイも相変わらず迷宮での修業中という事で、パーティーメンバーが増えるのは歓迎なようだし……そのあたりは色々と安心だろう。


 そんなわけで――俺達はデメトリオ王達を見送りに、転移港へと向かったのであった。

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