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番外584 職人達の楽しみ

「いや、始めてみたら思いの外楽しくてですね……。少し先走ってしまった上に、やや凝ってしまった事は否めませんが」

「仕事以外の時間を当てていたので、趣味も兼ねてと言いますか」

「寧ろ……仕事や研究の良い息抜きになりましたね。私はお二人と一緒に作っている時は楽しかったですよ」


 と、ビオラが誤魔化すように笑いながら言うと、コマチとエルハーム姫も同意しながらも苦笑していた。アピラシアは感激しているのか、目の前に広がる光景に手を胸の前に組んだまま見惚れているようだ。

 アピラシアの小型模型部屋については鑑賞するのに丁度良い高さの机が幾つか運び込まれている。その上に色々と建造していく事が決まっているのだ。


 肝心のアピラシアの家本体に関しては、部屋の中央に城を建造中だ。

 アピラシアもアルバートとオフィーリアの新婚旅行についてきたのでまだ城は完成していないが、行く行くはかなり本格的な城になるのが窺える。

 既に出来上がっている部分だけ見ても蜜蝋で作られているとは思えない程精巧で、細かな部分までよく出来ているが……どうもアピラシアはフォレスタニアの居城に雰囲気をというか、建築様式を合わせている部分があるようだ。


 城がある程度形になってしまえば、ビオラ達としても街並みやそれに合わせた小物が作れるのだろう。

 ビオラ達が作ったのは――実際にアピラシアが使えるサイズの馬車だとか書棚や衣類箪笥、机や椅子、鏡台といった家具の数々であった。


「これは……良いわね。小さいのに装飾まで本格的で」


 と、ステファニアが小さな家具を見ながら表情を綻ばせると、マルレーンもにこにことしながら頷く。その隣でアピラシアも首をうんうんと縦に振って感動を示していた。


 作られたのは家具類だけではない。城に縮尺と雰囲気を合わせた民家が数軒。縮尺を合わせたばかりでなく、屋根が外れて家の中の間取りまで見て取れる。


 コルクシートの上に石畳風の石材を並べて貼りつけて、お手軽且つ簡単に道を延長していける、というアイデアを凝らしたものまで用意されていたりする。この大部屋いっぱいに街が広がっても……道は簡単に作れるな。


 更には――コマチ手製の跳ね橋というのもあった。コルクシートの道にデザインを合わせた石作りの橋で、たもとにある詰所の小さなハンドルを回せば、跳ね橋が開いたり閉じたりするというものだ。これは机と机の間に掛ける予定らしい。


「現実に即して考えれば……街並みのある机の上が陸上で、机と机の間が海や河に例えられるわけね」

「街の対岸に渡れる跳ね橋というわけですね」

「道幅や橋の幅も……アピラシアさん用の馬車に合わせてあるあたりが良いですね」


 ローズマリーが言うとグレイスとアシュレイがそう言って微笑んだ。


「凝ってるな……面白い」


 勿論、部屋を見学する面々としては机の間が巡回用の通路になるわけだから、その間に橋をかけるわけにもいかない。

 しかし跳ね橋ならディテールとデザイン性、見学の為の実用性を両立できるということで。これもよく考えられているな。手すさびでミニチュアの跳ね橋を作ってしまうあたりは流石という感じがするが。


「この街灯も――普通に魔法の明かりが灯るのね」


 クラウディアが街灯の模型を点灯させて表情を綻ばせる。魔法の明かりが灯せる仕掛けであるが……これはドラフデニア王国の魔術師、ペトラの手によるものだ。

 というのも、ペトラとしてはヴェルドガルへの留学にあたり、ペレスフォード学舎に通いながらヴェルドガル式の魔法を学びつつ、魔道具作製の基本も学んでいた。


 まずヴェルドガルでの生活基盤を整えつつ、魔法技師としての技術を身に着けてから工房で手伝いをすれば、工房としても助かるし両国間の魔法技術の交流もできる、というわけだ。


 ペトラが最初から工房に来なかったのは、魔法技師としての技量が半端で迷惑をかけるわけにはいかないから、という事らしい。まあ、それでもドラフデニアでは宮廷魔術師の弟子だっただけあって元々の魔法の腕も確かだ。これまでも、忙しい時期にはちょくちょく手伝ってもらったりもしていたしな。


「ビオラさん達とは違って、私は簡単な魔道具部分だけの担当なので、何かしたというには恐縮ではありますが」


 と、ペトラはそんな風に言って畏まっていたが、小さな魔石にきちんとした術式を刻むというのも技量の見せ所ではある。


 風車の模型もあるが、こちらは風がなくても回る仕様で、小さいものではあるが、実際に小麦を製粉する事も可能らしい。こちらはタルコットとシンディーの手による作品でもあり、魔道具と模型部分、両方とも二人で作ったそうだ。タルコットはまだ習作とは言っていたが、中々のものだ。


 模型部分は純然たる細工ではなく、土魔法によるものだ。造形にも力が入っているのは、工房での仕事をするからにはそういう作業もできた方が良いと考えたからだろうか。或いは……俺が魔法建築の度に模型を作っていた影響もあるかも知れない。

 いずれにしても、タルコットが本気で工房の助手として魔法技師を目指しているのが窺える出来である。


「凄いな……。それに。この小さな模型や家具、普通の大きさにしても人気が出そうな気がするね」

「確かに良い雰囲気だわ。この鏡台とか素敵よね」


 ヘルフリート王子とカティアが、楽しそうに家具を見ながら笑う。


「ドワーフの親方達に発注して、実物大を作って貰ったりするのも良いかもね」

「それはいい案ですわね。アピラシアにちなんだ品として、蜜蜂の意匠を入れて貰ったりするのも良いかも知れません」


 アルバートが言うとオフィーリアも微笑む。蜜蜂の意匠か。確かに、巣を作ったり蜜を溜め込んだりする性質から繁栄や豊かさの象徴とされたりするからな。家具に入れる意匠としては縁起がいいかも知れない。


 新婚の二人と晴れて婚約者になった二人……。新しい暮らしや新居について考えを巡らせる事もあるだろう。メルヴィン王はそんなアルバートやヘルフリート王子達を見て、穏やかな笑みを浮かべる。


「これを見るだけでも工房の皆さんが素晴らしい技量である事が分かります。……ああ。これ程の工房で一緒に働けるだなんて……」


 と、ドロレスも小さな家具や模型を見て感動している様子だ。ドロレスはグロウフォニカの造船に携わる技術者だからな。職人の技量というのは作品を見れば分かるのだろう。ましてや今後の同僚になるとあれば。


「ドロレスさんも時間が空いた時、一緒に作ってみますか?」

「良いのですか?」


 コマチに尋ねられると明るい表情になるドロレスである。


「勿論です。息抜きと言いましたが細かい装飾をする分、技術力も上がりますし」


 ビオラが言うとアピラシアもよろしくお願いします、と丁寧に頭を下げる。


「それは素晴らしい……。わ、私としてはやはり船を作ってみたいのですが……!」

「ああ。それは楽しそうですね」

「では港も作らないといけませんね」

「どのように表現したものでしょうか」

「私としては机の端に砂浜を作ってですね――」


 職人達は意気投合したようで、そんな風に構想を練りつつ盛り上がっていた。ビオラ達とドロレスも上手くやっていけそうで何よりだな。

 当人であるアピラシアは私も頑張ります! と気合を入れ直している様子だ。色々作ってもらったからな。テンションが上がるのも分かろうという物だ。


 そうして――フォレスタニアの模型部屋の他、城内を見学したりしている内にいい頃合いになる。


「ヘルフリート。婚約の発表についての段取りは分かっておるな?」

「はい、父上」


 メルヴィン王の言葉に、ヘルフリート王子は真剣な表情で頷く。

 ヘルフリート王子とカティアに関しては――今回の歓待で婚約を発表するというのも予定の内に入っている。


 西方海洋諸国からデメトリオ王とコンスタンザ女王が訪問しているという事もあり、西方に繋がりを持っている、或いは持ちたいと思っている貴族達もタームウィルズに集まっていて、境界劇場に客として招待を受けているのだ。こうした機会に婚約について公表しておくのは中々良いタイミングだと言えるだろう。


 ヘルフリート王子とカティアの将来を考えた場合も、ネレイド族に協力してもらうのは既定路線である。当然、西方海洋諸国とも結びつきが強くなるだろうからな。

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