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番外583 水槽の中の小人

「まだまだ製作途中で飾り気が少なく、殺風景ではありますが……珊瑚が順調に育ってこれらの石にも移ってくれれば、水槽の中も次第に賑やかになるかなと思います。様子を見ながら、相性のいい海藻や魚も入れていきたいものですね」


 と言いつつ、内部作業用の小さなゴーレムを水槽内部に投入しておく。チビゴーレムは水槽の端の方まで移動すると、レイアウトとして配置した石を背もたれ代わりに体育座りで腰かけた。因みにこのチビゴーレムも、水槽に魔力を送ればそれを取り込んで活動してくれる仕様だ。普段は省エネモードなのでああしてあまり動かずにいるが。


「その小さなゴーレムは?」


 と、アドリアーナ姫が興味深そうに尋ねてくる。


「主に内部の整備用です。置かれている物品の配置が崩れたり、水槽に汚れが付着したりした時に、人が一々手を入れると水質に影響が出やすいですからね」

「なるほど。安定させておくための手なのね」


 コルリスやティールが水槽の中のチビゴーレムに向かって手を振ると、チビゴーレムも体育座りしたまま手を振り返していた。いやまあ……少し遊び心というか何というかでこうした挙動を返してくれるように組んだりもしたが。


「ふむ。製作途中ということだが、これは経過や出来上がりが楽しみになってしまうな。してみると、今配置してある石は珊瑚礁になるのだろうし」


 と、デメトリオ王が完成予想図を想像したのか、笑みを浮かべる。


「珊瑚礁ができると……白い砂の海底部分と相まって綺麗そうですね」


 コンスタンザ女王も笑みを浮かべた。


「そうですね。時を置いて遊びに来ていただいた折に、変化を見て頂くというのも面白いかも知れません」

「それは楽しみだ」


 と、メルヴィン王も上機嫌そうに笑う。

 魚や小さい生き物の隠れ家になりそうな空洞やトンネルも用意して、と。こんなところか。

 水槽内部のレイアウトも決まったところで実際に水槽へ海水を注いでいくわけだが……これに関しても迷宮核にサポートしてもらっている。

 グランティオスで光珊瑚を育てていた場所や深みの魚人族の集落の水温、水質はリサーチ済みだ。光珊瑚の育成場で必要になりそうなだけの海水も採取してきているので後はそれを注げばいい。


 最初に水槽に入る光珊瑚とイソギンチャク……双方にとって理想的な水温と水質を迷宮核に予測してもらっている。その上で魔道具によって水温と水質を管理するわけだ。水質管理の魔道具の術式の調整も、迷宮核のサポートによるところが大きい。


「水槽に水棲生物を入れるにあたり、通常は水槽の水に慣らしていく時間が必要になります。これを怠ると、こうした限られた空間で飼えるような小動物にとっては、死活問題になります。僕達にとっての空気のようなものですので、水の質というのは空気と同じように綺麗でなくては困るということになりますね」

「ふうむ。それは確かに道理ですな」


 と、フリッツが感心したように顎に手をやって頷いていた。


 いや、まあ、これに関しては景久が聞きかじった知識によるものではあるのだが。水合わせ、と言うらしい。

 魔物の一種といっても光珊瑚はまだ幼体だしな。イソギンチャクに関してもできるだけ気を遣ってやった方が良いだろう。


 土魔法で作った容器に入っているのは、珊瑚を貰った場所で採取した海水だ。水温も既に合わせてあるので、後はそれを注いでいけばいい。

 底面の砂を濁らせないように、水魔法を使って静かに移し替えていく。規定の水位まで達したところで各種魔道具を起動すると、奥の水槽壁面に沿って酸素を含んだ泡が緩やかに吹き上がり始めた。


 水流も生まれて、水槽内部の海水が循環を始める。これで……魔道具が時間をかけて継続的に理想的な水質に調整していってくれるわけだ。


「現場で採取してきた海水で水温も合わせてありますから、珊瑚の幼体が付着した石は――これで水槽に入れても大丈夫かなと。イソギンチャクの方は少し慣らしが必要ですね」


 念のために珊瑚の幼体が入った入れ物の海水と、水槽に移した海水をウィズに調べさせて比べてみるが、殆ど同じ、との解析結果を返してくれる。問題ないようなので水魔法を用いて珊瑚の幼体が付着したブロックを海水ごと入れ物から出して、緩やかに水槽の底面に降ろす。


 ライフディテクションの精度を調整しつつ見てみれば……生命反応の光はブロックにきちんと付着していた。水槽前面に取り付けた魔石に触れて、水槽内部に魔力を送ってやると生命反応が輝きを増す。


「どうかな?」


 そう尋ねるとマールは少しの間、水槽に耳を近づけたりしていたが、やがて笑顔で頷く。


「良いようですよ。意訳ではありますが、水が綺麗だとか貰える魔力の質が良いので喜んでいるようですね」


 良かった。これなら大丈夫そうだ。

 アクアリウムにそこまで詳しいわけではないので、ソロンを始めとしたパラソルオクト達もうんうんと頷いてくれているのに、謎の安心感があるというか。


 後は……イソギンチャクだな。水槽の上の方に入れ物を持っていき、普通のゴーレムを改めて作製し、下から支えさせるようにして固定。

 出力を調整した細い導水管で、点滴のように少しずつ水を交換して水温と水質の違いに時間をかけて慣らしていく、というわけだ。


 イソギンチャクの入っている入れ物に直接魔力を送ってやると、花のような鮮やかな色の身体をゆらゆらと揺らして反応を示していた。


「ふふ。この子も喜んでいるようですね」


 と、その反応を見てマールが微笑ましそうに笑う。


「イソギンチャクも大丈夫そうだね。水合わせが終わったら水槽側に移動してもらおう」

「それでは、水に慣れるまで動かないようにと伝えておきますね」


 マールがそう言って微笑む。ああ。それは安心だ。水槽が一先ず問題無さそうなのでティールがフリッパーをパタパタと動かしながら声を上げていた。


 水槽の上部に光る真珠も設置して、照明代わりにする。光珊瑚がいずれ発光するとは思うが光源の位置によって印象も変わるからな。


「もう少ししたら、珊瑚やイソギンチャクと相性のいい生き物を少し入れます。現地の海水を使っていますし、こうして光を当てていると海水に紛れていた藻がどうしても目に見えるぐらいにまで大きくなってしまいますので、それを食べてくれる生物が必要になってくるわけですね」


 これにより、あまり水槽の水に影響を与えないように掃除をすることが可能となる、というわけだ。

 生物の種類は藻を好んで食べる小魚、貝、蟹、海老……色々だ。光珊瑚、イソギンチャク等に互いに干渉しないのが最低条件なのだが、そこは様々な生物のデータを集積している迷宮核がめぼしい候補をリストアップしてくれている。


「なるほど……。小食であれば餌もいらないと。合理的ですな」

「タームウィルズも海に面していて、そういった海の生物も確保しやすい環境ですからね」


 と、バルフォア侯爵の言葉に笑って応じる。

 とはいえ構想の段階なので、藻の生育による供給と、生物の食事による消費といったバランスに関してはまだ何とも言えない部分があるのだが……。


 とはいえ、供給量の方が多い分には中に入れた生物が餓える事も無い。掃除が追い付かなければ内部に入れたチビゴーレムがいるからどうとでもなるのだし。様子見をしながら少しだけ入れておけば大丈夫なのではないだろうか。


 さてさて。水槽の立ち上げについては、今日のところはこんなものだろうか。歓待はまだ続くが、火精温泉や劇場など、楽しんでいって貰えたら俺としても何よりだ。アピラシアの小型模型部屋を見ていってもらうというのも良いな。

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