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番外581 植物園の新たな仲間達

 工房で今できる準備を諸々進め――そうして明けて一日。今日はかねてからの予定通り、デメトリオ王達、西方海洋諸国から来た面々の歓待だ。

 昼を少し過ぎた頃合いになったらミシェル達と合流。そうして王城へと迎えに行くと、昼食を済ませた面々が俺達を待っていてくれた。


「昨日はゆっくり休めたかな?」

「宴の席も挟んだので戦いや旅の疲れもあまり残ってはいませんでしたからね。執務を進めましたが、留守中に溜まっていた分の大半は片付きましたよ。皆と領地の視察もしてきたので、昨日は中々充実した一日になりました」

「それは何よりだ。領民としては幸福であろうな」


 挨拶を交わしてからデメトリオ王の質問に応えると、そう言って笑みを浮かべる。コンスタンザ女王やバルフォア侯爵もその言葉に首肯していた。

 というわけで今度は西方からの面々と共にあちこち見て回ろうという事になった。メルヴィン王やジョサイア王子も一緒だ。勿論、カティアが同行しているのでヘルフリート王子も。


 メルヴィン王の話によれば、既に宰相や宮廷魔術師といった重鎮にはヘルフリート王子とカティアの婚約の話を根回ししているらしい。正式なというか、公への発表は今夜あたりになるだろうか。


 馬車に分乗し……車列を護衛が守りつつ、タームウィルズの区画をあちこち見て回る。リンドブルムやコルリス、ティールといった面々はやはり車列の脇を固めて護衛役だ。

 一方のパラソルオクト達は逆に身体が小さいので大挙して2台程の馬車にみんなで入り込んだりしていたが。

 タームウィルズの視察というわけだが、北区から反時計周りで、西区、南区と回り、最後に東区に向かい、中央区に戻るというルートだ。




「造船所はテオドール公の魔法建築によるものでな。ヒュージゴーレムを使って一気に地形を整えていく様は……中々に圧巻であったな」

「ああ――。分かるような気がします」


 西区――造船所の見学をした折にメルヴィン王がそう言うと、コンスタンザ女王はそんな風に答える。デメトリオ王達は女王の言葉に目を閉じてうんうんと頷いていた。


「いやはや……。ここで飛行船が造られていくというわけですか」


 ドロレスはと言えば、飛行船と通常の船舶という違いはあるものの、造船所は造船所という事で色々気になるのか、感心したようにあちこち見回したり、飛行船を見上げたりしていた。


 既に完成して停泊しているシリウス号や輸送船のカイトス号もあるし、更に同盟各国に飛行船を建造していく予定だ。その絡みで資材も集積されていたりと、造船所は色々と賑やかになっているからな。ドロレスにしてみれば見所は多いのではないだろうか。


「造船所は港にも出られるように造っていますし……航路開拓用の船もここで開発を進める可能性は高いですね」

「おお……。それはまた……素晴らしい」


 と、ドロレスは天を仰いで何かに感じ入っている様子であった。

 造船所を見たら続いては南区。職人達が工房を構える区画だが、こちらもやはりみんなの興味を引く場所のようで。

 タームウィルズの冶金技術は国内にドワーフが多くいるので、水準としてはかなり高い方だ。迷宮があって珍しい素材が手に入るためにドワーフ達もタームウィルズに集まったりするしな。


「ドワーフの職人の方々は裏方に徹する事を好み、こうして耳目を集めるような表舞台には中々出てきてくれない気質なのですが……。こうした装備品も南区の工房で作られたものになります。参考になれば幸いです」


 と、護衛の騎士の一人が、兜や盾を持ってくる。

 無骨になりすぎないよう、威圧感を出し過ぎないように装飾が施されつつも実用性を阻害しない。そんな品だ。


 見た目で敵兵を威圧できるように厳つい装備品を作るという考え方もありなのだろうが、それはヴェルドガルの重ねてきた歴史や国風にはそぐわないだろう。


 ドワーフの職人は実用性のないものは嫌う傾向にあるから、あまりデザイン優先ということはしないらしいが、装飾に関しては己の腕の見せ所なのだろう。その上で実用性をきっちり確保してくるあたり、ドワーフらしい。


「平時にあっては誇りある武人として他の模範となり、民から尊敬や憧れを集められるように。そんな考え方に賛同してくれる職人がいてくれたからこそです」


 という騎士の言葉に、王達は勿論、レンフォス達深みの魚人族も武人気質の者が多いからか、感心したような表情であった。実際に見てもらう品として防具を選んだのはまあ、客層を考えれば当然の配慮ではあるだろうか。




 南区を見た後は東区へ。ペレスフォード学舎やブライトウェルト工房に迷宮商会が見所として紹介されるが、近場にあるからか俺の別邸も見学対象になってしまう。


「この家もやはり、魔法建築でお造りになったのですか?」


 と、尋ねてくるモルガン。


「元は二つの家だったのですが、人が増えて手狭になってきたので建て直したのです。初めは物置を造って魔法建築の練習などしていましたね。今は使用人のみんなが利用していたり、僕達も工房の仕事が遅くなった場合に別邸を使ったりもしています」

「地下室も物置を造った頃だったかしら」


 そんな説明に目を閉じて、少し懐かしそうに言うクラウディアである。そうだな。地下室に関してはクラウディアが秘密裡に家に訪問できるように造ったりしたわけだが。

 まあ、その後も魔法建築はテフラを祀る儀式場に始まり……造船やら要塞造りやら、色んな場面で役に立っているからな。振り返ってみると始めて良かったと言える。


 東区も色々見て回ったが、迷宮商会等は後から来てじっくり見たいという意見が多かった。東区に隣接する温泉街――火精温泉も夜になったらまた来るから今は割愛だ。


 そんなわけで植物園を見に行く。フローリアと花妖精、ノーブルリーフ達が俺達の来訪を待っていて、笑顔で出迎えてくれた。


「待っていたわ。みんなも会いたかったって」


 と、フローリアが言うと、花妖精とノーブルリーフ達がこくこくと頷く。


「ただいま、みんな!」


 セラフィナが嬉しそうに飛んでいくと、花妖精達も笑顔で迎えて空中を舞うように踊る。そんな光景にコンスタンザ女王も微笑ましそうな様子だ。


「花の妖精にノーブルリーフ……。どちらも海にはいない種族だから珍しく感じるわ」


 キュテリアが目を丸くしながらも手を差し出すと妖精やノーブルリーフが代わる代わる握手に来て……それを受けて笑顔になっていた。ソロンを始めとしたパラソルオクト達も丁寧に挨拶と握手を交わす。


「久しぶり、みんな」


 ミシェルやオルトナも植物園の面々にはかなり懐かれている。花妖精やノーブルリーフに囲まれて抱きつかれたりして、嬉しそうな様子だ。祖父であるフリッツもミシェル同様歓迎されて、苦笑しつつも楽しそうな様子であった。

 俺達のところにもやってきて、肩に乗ったり、スカートの裾を摘まんでカーテシーの挨拶をして来たりと、随分と賑やかだ。


 そうしてフローリア達に温かく迎えられながら植物園の中へと入ると内部の気温や湿度が変わったことにみんな気が付いたようだ。


「各区画で、植物に合わせて気温と湿度を魔道具で調整しているわけですね」


 と、説明をしつつあちこち見て回る。俺達が不在の間、ベシュメルクから貰ってきたバロメッツの世話も植物園でされていて、鉢植えになったバロメッツの木には……何やら大きな実が生っていた。

 俺達が近付くと、何やら果実の中から羊の鳴き声が聞こえる。翻訳の魔道具ではおかえり、と言っているようだ。どうやら実の中からでも何らかの感知手段を持っているようだが。


「ただいま。植物園はどうだった?」


 そう尋ねると、果実が左右に震えて羊の鳴き声が帰ってくる。みんな親切で温かくて居心地が良い、と……フローリアや花妖精、ノーブルリーフ達には感謝しているそうだ。


「この植物は……一体何ですかな?」


 目を丸くしている一同の中から、レンフォスが尋ねてくる。


「バロメッツという、羊の生る植物ですね。植物系の魔物の一種ではありますよ」

「羊の……。いや、陸の植物は奥が深い……」


 と、何やら感心している様子であった。まあ、海の民でなくてもバロメッツが物珍しいのはデメトリオ王やコンスタンザ女王、バルフォア侯爵が驚いているのを見れば分かるのだが。


「とまあ、また新しくここに作物が増えるわけですね。今日は植物園見学という事でカカオの植え付けを行っていこうと考えていたわけです」


 というわけで貰ってきたカカオの実を取り出すと、フローリアが早速カカオとの交渉というか……どんな環境が好きかを尋ねたりする。


「日陰が好きで……いつも温かくて雨が多い場所がいいのね? それと……うんうん」


 といった調子で、カカオから色々と好ましい条件を聞くフローリアである。


「なるほど……。木の精霊ならではの能力ですか。心強い味方ですな」


 バルフォア侯爵がその光景に顎に手を当てて感心したように声を漏らす。

 カカオの栽培方法は一応聞いているが、フローリアが確認してくれるから間違いが起こらないというのは心強い。


「うん。色々分かったわ。色んな子がいて賑やかで嬉しいとも言ってる」

「そっか。それじゃあ、よろしく」


 と、カカオに声を掛けておく。フローリアはにこにことしながら俺の言葉を「通訳」してくれた。


 フローリアの聞き取りやコンスタンザ女王からの情報提供で判明した結果としては――酸性の土壌、温暖湿潤。更に日除けになる他の植物が必要ということだ。


 現地ではカカオよりももう少し背の高い、他の作物と一緒に植えたりされているようだが……植物園なのでそこまで植物を密生させているわけではない。となるとバナナ等と一緒に植えつつ、適度な日陰になるように低めの部分に日除けを作ってやるのが良さそうだな。

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