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番外580 工房の新しい仕事は

『ヘルフリート殿下用の魔道具の設計図が出来上がったからそっちに送るよ』


 と、カドケウスの通信機を通して前置きをしてから機械式時計の解説図と設計図。更にヘルフリート王子用の時計型魔道具の術式の書き付けを行い、迷宮核外部にそれらを記した紙をプリントアウト……というか書き付けた紙ごと合成する。


「掌ぐらいの大きさと聞いたけれど……とても細かいのね」

「魔力を動力源としないのよね。興味深いわ」


 と、設計図と解説図を見ながらステファニアとローズマリーがそれを興味深そうに眺める。


『実際に動かすとこうなる……予定。加工が難しそうな部品は完全に術式で作るのも視野に入れてる』


 時計が動いているところを幻術にしてみんなに見せる。

 最初に秒針、分針、時針が連動して動いているところを見せてから内部構造も明らかにしていく。

 巻きつけたゼンマイの元に戻ろうとする力で歯車を動かし、脱進機で力と速度を一定に調整。


「これは――すごいですね」


 アシュレイが目を丸くして、マルレーンもこくこくと頷く。

 どこがどんな役割を果たしているのか、解説を幻術の中で字幕として表示してやるとみんなは興味深そうにそれを眺めていた。


「ん。罠に使われている技術に似てる」


 シーラが内部構造の動きを見ながら言った。確かにシーラからするとそちらの方が馴染みがあるかも知れないな。機械式の罠にしても歯車を連動させて動かしていたりする。動力に関してはゼンマイ式の罠というのはまずないけれど。罠の場合、スイッチに触れると留め金が外れたりして動く、という感じだな。


『時計に関しては一先ずこんなところかな。シーラも罠に似ているって言ってるけど、工夫次第で他にも色々な仕掛けを施す事ができる』

「だとすると、罠に詳しい人は……仕掛けを作るのに向いているかも知れないわね」

「まずコマチはこれ系統の第一人者。それから罠繋がりだと、西区のギルドの人達」


 イルムヒルトの言葉に、シーラが言った。コマチは木の歯車だが絡繰りに関する仕掛けが得意だからな。西区のギルドは……つまり盗賊ギルドの事だ。確かに、罠の知識があれば機械式時計の仕掛けを考案するのにも向いているかも知れない。所謂鳩時計等も作れるだろう。


「雇用の創出としては良いかも知れないわね。得た技術や知識を活かせる場になるわけでしょう?」


 クラウディアが思案しながら言う。


『普及の為に技術協力の話を持っていってみるのもありかもね』


 といった所で……時計に関する話は一先ずこんなところだろうか。


『後は、珊瑚を入れる水槽について、少し下調べをしておくよ』

「わかりました。そちらも出来上がりが楽しみですね」


 と、通信機を尻尾で操作するカドケウスに向かって微笑むグレイスである。


 ……というわけで迷宮核内部の作業を更に進めていく。光る珊瑚については迷宮核もデータを収集していた。現地でウィズが記憶した水温、水質、光量等々……各種データを迷宮核に伝え、珊瑚の育成に最適な環境を模索する。模索……と言ってもグランティオスの環境を元にすればそれで大丈夫そうだが。迷宮核でシミュレートしてもグランティオスと似たような環境で問題なく育つ、という解答を返してくる。


 水温や水質の管理については……温室用の魔道具を水中用に少し手を加えれば問題なさそうだ。光珊瑚自体も魔力を受け取って活動しているので、給餌も水槽に設置した魔石から水槽内部へ魔力を送ってやるだけで育てられる。


 深みの魚人族の集落でイソギンチャクも貰ってきたが、これも魔力を与えてやれば懐く種族らしい。水槽の外側にある魔石に触れて魔道具に魔力を補給しつつ余剰分を水槽内部に送ってやるだけなので、世話をする事自体はそんなに難しくはないが……ふむ。


 魔力が水質に与える影響も迷宮核でシミュレートしておこう。魔力を与えすぎて水質に出る影響……というのは……どうやら迷宮核のシミュレートによれば大丈夫なようだ。

 魔力溜まりのように、魔力の性質によっては凶暴化というのも有り得るが、他の生物を介した魔力については、悪意を込めた魔力でない限りは安全ということになる。これはノーブルリーフでも実証されているからな。


 それと……アクアリウムについてはなるべく水槽内の生態系を自然環境に近付けて、一度安定したらそのままできるだけ手を加えず、水槽内の生物のみで維持できるものが理想的、という話をどこかで聞いた事がある。

 給餌や水位の管理以外に極力手を加えずに維持できるというのは、水槽内の生物にとって暮らしやすい環境が構築できているという事なのだろう。


 では――できるだけ安定した環境を作るにはどうしたらいいのか。予想される諸問題とその解決策は。そういった内容を迷宮核と共に下調べしていくのであった。




 そうして、諸々迷宮核での仕事を終えてから俺達はブライトウェルト工房へと向かう。


「やあ、テオ君」

「こんにちは」

「おかえりなさい」

「みんな無事で良かったです……!」


 と、アルバートとオフィーリア、それにビオラやコマチ達……工房の面々が挨拶をしてくる。ドロレスはタームウィルズに到着したばかりで王城での歓待中ではあるからまだのようだが。

 それとアドリアーナ王女も遊びに来ていて、ステファニアと再会の挨拶をして喜び合っていた。


「ああ、ただいま。執務や視察も一段落したから、他の仕事もしてきたんだけどね」


 と言いつつ、機械式時計の設計図をビオラ達に見せる。


「これは……!」

「何というか、とても興味をそそられる図面なのですが……っ!」


 と、設計図を見た瞬間にビオラ達の顔色が変わったのが分かった。


「ヘルフリート殿下にお渡しする魔道具の設計図だね。機構部分の完成品は――こんな感じ」


 幻影を使って時計を見せる。


「時計……ですね。この大きさに先程の歯車が収まっているとなると、とても精巧なものという事になりますか」


 エルハーム姫がそれを見て興味深そうに言った。


「そう。短い針が一周した時、半日経過。二周で一日分だね。長い針が一周で一時間に相当する。特徴としては魔道具として組み込んである魔石を除けば、時計の動作そのものには魔力を一切使っていない事だね」


 幻影を使って内部構造も解説していく。


「これはまた……すごい物を……」

「ああ……何て芸術的な……!」

「これをここに持ってきたと言う事は……」

「うん。皆に作って欲しいって思ってる。すぐさま必要というわけじゃないけど、今後どうしても必要になるものだから。とにかく精密さが求められる分野でもある」


 そう言うとビオラ達は顔を見合わせてから嬉しそうな表情で頷き合う。こうした精密な機構というのは職人として腕が鳴る、ということなのだろう。


「これは魔道具の幻術用の術式だね。こっちは――金属加工用の術式かな?」


 と、アルバート。ヘルフリート王子やメルヴィン王との相談の場に居合わせたからな。アルバートは魔道具の内容を知っているが、精密部品形成用の術式も見ただけで用途がわかるあたり、流石といったところだ。


「そうだね。かなり細かくて精密さが求められる部品があるから、そこだけは魔法で形成できるように術式化もしておいた」

「加工が難しい部品が必要な時はドワーフも土魔法で作ってしまうこともありますが……そうした術式は殆ど秘伝扱いですね」


 ビオラが真剣な表情で言う。そうだな。そうした部品は核心部分に使われていたりするので、術式が流出すれば技術が盗まれたのと同義だ。厳重に管理されるというのは分かるが……まあ、流通させていきたいから迷宮商会お抱えの専属職人には開示しても構わないが……。


「それから、こっちが水槽用の魔道具の術式だね。温室用の魔道具に少し手を加えればいけそうだ」

「水槽か。あれも早く作ってやらないと珊瑚達が待っているよね」


 俺の言葉に術式に目を通したアルバートが言う。


「そうだね。こっちは急ぎかも知れない。水槽用の魔道具を作りつつ……魚人族から預かってきた瞳と魔石についても相談を進めていきたい」


 そう言うと、工房にいる面々は真剣な面持ちで頷くのであった。

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