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番外575 歩いてきた道を

明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願い致します!




「あれがタームウィルズのお城……」

「こんな距離から見えるとは。想像を超える大きさですな」


 青い海原の向こうに王城セオレムの尖塔が見えてくる。俺達にとっては見慣れた光景だが、モルガン達やレンフォス達にはそうではないようで、モニターを見ながら歓声を上げていた。


「タームウィルズは久しぶりだが、改めて見ても相当なものだな」

「私は初めて訪れますが……あれは驚きですね」


 デメトリオ王は以前にタームウィルズを訪問した事があるようだが、コンスタンザ女王はやや遠方の国という事で今回の訪問が初めてらしい。モルガン達と共にセオレムを見てどこか楽しそうだ。


「タームウィルズに到着したらお城から迎えの者が来る事になっています。陛下はまず王城で歓待をしたいとの事です。僕達は……一旦フォレスタニアに戻り、明日以降所用を済ませてからまたお会いする事になるかなと。その際は、街中を案内しますね」

「それは楽しみだ。余としてはテオドール公にも休息して欲しいところだから、ゆっくりとで構わんぞ」

「確かに。テオドール公は大分あちこち奔走していましたからね。そうしてくれた方が私達としても安心でしょうか」


 と、楽しそうに笑うデメトリオ王とコンスタンザ女王、そしてうんうんと頷くバルフォア侯爵である。あー……うん。領地から出て活動していたからな。

 デメトリオ王達は為政者だ。外回りから帰ってくるとやる事が多い、という事情を分かっているからか、所用という言葉で大体の事を察してくれているようだな。


 俺にしてもアシュレイにしても、執務や決済で判断が必要なものは遠方からでも相談や承認をしたりと、対応できるようになっている。なので執務が溜まっていると言ってもそこまででもないのは確かだ。

 最初に王城で歓待するのは国としては正当な段取りではあるのだが……メルヴィン王はそうした俺達の事情に合わせて王城で歓待してくれているというのもあるだろう。デメトリオ王達もそうだが……そのあたりの厚意は有り難く受け取っておこう。


 そうして話をしている内にタームウィルズが近付いてくる。速度と高度を落とし、王城とタームウィルズの街並みをゆっくりとモニターで眺めながら造船所に降りていく。帰ってきた俺達を、タームウィルズの住人は手を振ったりして歓迎してくれているようだ。


 シリウス号を着陸させ、タラップを降ろす。造船所には既に、王城からの迎えの馬車が何台かやってきているようだ。ネレイド族にパラソルオクト達、深みの魚人族も俺達の訪問に合わせて転移門でこちらに来て、到着を待っていた様子である。里や集落の留守を預かる面々も残しておかなければならないので、何回か交代して遊びに来る、ということになっているが。

 みんなでシリウス号から降りると、使者がこちらに向かってお辞儀をしてお迎えに上がりました、と丁寧に挨拶をしてきた。


「では――また後日お会いしましょう」

「はい。また後日」


 というわけで俺達と一緒にやってきた面々とは一旦別れ、彼らは王城へ向かうこととなった。アルバートとオフィーリア、ヘルフリート王子とカティアも今日のところは王城でのんびり過ごす事になる。


「いやあ……。思い出深い新婚旅行になったな」


 と、アルバートがにっこりと笑う。


「戦いまであったし、アルには結局仕事も頼んだからな……」


 俺としてはアルバートとオフィーリアには申し訳なく思っているが。


「気に病む事はありませんわ。将来になって誇りに思えると確信できる程の、素晴らしい旅でしたもの」

「そうだね。テオ君のお陰で僕はここまで歩いて来れた。今回の旅は、今まで歩いてきた道を再確認できたような気がする。オフィーリアが僕をずっと支えてくれている事も。だから今回の旅は……テオ君に感謝しているんだ」


 そう言って……寄り添って微笑むアルバートとオフィーリアである。そんなアルバートの言葉にアシュレイとマルレーンや……みんなも嬉しそうに笑った。


「そっか……。それなら……。ありがとう、二人とも」

「うん。僕からもお礼を言う。ありがとう、テオ君」


 アルバートとオフィーリアがそう言ってくれるなら、俺も胸を張っていた方が良いだろう。


「お礼というのなら、僕もだな。僕とカティアがここにいるのは、テオドール公や……みんなのお陰だ。みんなの力を借りなければとてもじゃないがサンダリオ卿の心残りは解決できなかったからね。改めて、礼を言わせて欲しい。ありがとう」


 ヘルフリート王子の言葉に笑みを向ける。


「それを言うなら、ヘルフリート殿下がカティアさんと信頼関係を築き、重要なところを先に調べていて下さったからですよ」

「そう言って貰えると嬉しいな」

「ふふ、ヘルフリートは真っ直ぐな人だから」


 カティアが微笑んでそう言うと、ヘルフリート王子は顔を赤らめて頬を掻いていた。


「テオドール公が他の方々に敬われているのを見るのは……我が事のように嬉しいものですな。いや、無論我ら一族、テオドール公に深く感謝しておりますぞ」


 と、レンフォスが言うとマクスウェルやアルクス、アピラシアといった面々が「分かる」というように頷いていた。いや、そうやって同意しているのは魔法生物だけでなく動物組もか。うん……。魔法生物達や使い魔達からの信頼感もなのだが、深みの魚人族の面々に関してはこう、一族をあげて信頼を受けている感があるな。瞳も預かっているし、その信頼にはきちんと応えたいものだ。


「勿論私達ネレイド族やパラソルオクト達も皆、感謝していますよ」

「うむ。テオドール公は海洋諸国にとっても救国の英雄であるな」

「改めて、助けてくれた事のお礼を言わせてね」


 モルガンとデメトリオ王、キュテリアがそう言うと、コンスタンザ女王やバルフォア侯爵も頷いていた。

 そうして別れを惜しむように言葉を交わしてから、デメトリオ王達は馬車に乗り込み、王城へと向かって行ったのであった。


 人が減って、少し静かになってしまったが。


「私達も……帰りましょうか」

「そうだな。家へ帰ろう」


 グレイスの言葉に頷くと、みんなも穏やかな表情で頷く。馬車に乗って、ゆっくりと街中を進む。馬車の護衛というわけではないが、リンドブルム、コルリス、ベリウス、ティールが馬車の傍らに随伴しているので俺達が乗っているというのはすぐに分かる。まあ、ベリウスは強面なのを自覚しているからか姿を消しているのだが。

 沿道から子供が手を振ってきたりして、こちらも馬車の窓から手を振り返したりすると、明るい笑顔になっていた。


 コルリスやティールが手を振り、リンドブルムがにやりとした笑みを向けると、子供達は嬉しそうにはしゃいだりしている。うむ。




 そうして街中をゆっくりとした速度で進み、見かけた知り合いに帰ってきたと挨拶をしながらフォレスタニアへと戻った。

 フォレスタニア居城へと戻ってくると入口の広間にはセシリアやミハエラ、それに使用人達、ゲオルグやフォレストバード、テスディロスといった家臣団、ロゼッタやペネロープ、アウリア、ドミニク、ユスティア、シャルロッテ、ミリアムといった……顔馴染みの面々が俺達を待っていてくれた。


「おかえりなさいませ、旦那様」

「おかえりなさい!」

「ああ、ただいま」


 セシリアの言葉に、みんなの明るい声が重なる。


「報告は受けているけど、何か変わったことは?」

「フォレスタニアでもタームウィルズでも、大きな問題は起きていません。マギアペンギンの皆さんが時々遊びに来るぐらいでしょうか。雛鳥も、順調に育って大きくなってきているようですね」


 と、セシリアが笑みを浮かべて教えてくれた。

 ああ。それは何よりだ。というか、平和で結構な事である。まずは必要な連絡事項をセシリアやゲオルグを交えて終わらせてしまう。

 その後はそれぞれに親しい面々と言葉を交わし再会の挨拶をしてと、和やかな雰囲気だ。


「平和なものね。帰ってきたという自覚が湧くわ」


 と、そんな光景に小さく笑うローズマリーであった。うん。そうだな。我が家が一番、などというには些か大変な旅行ではあったが、みんなの顔を見て安心したのは間違いない。

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