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番外571 王子と海の娘の行く末に

「おめでとう、二人とも。心から祝福させてもらうわ」

「おめでとうございます……!」


 メルヴィン王の許可が出て婚約が成立したという事もあり、モルガンやドルシアの娘達が微笑み、俺達やレンフォスとヴェダル、その場に居合わせる面々から拍手が起こると、ヘルフリート王子の顔が赤くなっていく。


「あ、ありがとう。えっと……そんなわけで、その、カティア。これからもよろしく」

「う、うん。ヘルフリート。私の方こそ、よろしくね」


 ヘルフリート王子は祝福の言葉に礼を言ってから、カティアに向き直ると、改まったように言う。言われたカティアもヘルフリート王子の手を取ってはにかむように笑った。


「良かったですね、本当に」

「まあ、これで借りは返したというところかしら」


 と、そんな様子を見て微笑むグレイス達である。ローズマリーはそんな風に言って羽扇で口元を隠していたが、嬉しそうなのは傍目にも分かる。マルレーンがにこにことしているので少し咳払いなどしていた。

 何というか、二人の様子を見ていると微笑ましいというか、当てられてしまうところはあるが。……うん。そうだな。良かったと思う。


「先々の問題が表面化するまでまだ時間があるのは確かだが、何かしら手を考えておかねばならんな」

「そうですね。そちらの問題に関する協力は惜しみません」


 頷くと「心強い事だ」と笑うメルヴィン王である。

 メルヴィン王は……デメトリオ王に私的な話をできる場所を貸してほしいと相談して、この庭園を勧めて貰ったらしい。ヘルフリート王子の内心に気付いていたとするなら、こうして打ち明けやすい場を設けてくれた、という可能性も高いな。まあ、そうした気遣いを何もかも明らかにしてしまうのも野暮だからこの場では敢えて言わないが。


 そうしてそのまま、今回の旅を報告するという目的の席は、ネレイド族の秘密を知る者達で東屋に集まって盗聴防止の風魔法を用いつつ今後について相談する席へと移行する。ネレイド族の秘密を知らない面々は、庭園を見たり別の雑談をしたりといった具合で気を遣ってくれている。


「ヘルフリートよ。この場合、秘密を守るために王位継承権を放棄するという事を覚悟していると考えて良いのだな?」

「はい。元より僕はそのつもりです」


 メルヴィン王に迷いなく頷くヘルフリート王子。

 もしも何かの折にヘルフリート王子が王位を継承するような事態になっても、ネレイドとの約束を守る以上はその話を受けられない。幾つかの手立てや情報操作で誤魔化しても、流石に不老の王では誤魔化し切れないだろう。芋蔓式にネレイド族の秘密もばれてしまうから、王位継承権の放棄は最低限必要な事なのだ。本人が望まなくとも、誰かが担ぎ上げようとするという事だってあり得るのだし。


 もっとも……ヘルフリート王子はジョサイア王子を尊敬しているし、玉座に拘るような性格でもない。ジョサイア王子も王としての資質に問題のない人物なので、この場合この点は問題あるまい。ヘルフリート王子を担ぎ上げようという派閥も……ローズマリーがかつて作った派閥と一緒に消えて、今のところはないようだしな。


「ふむ。ではその点は問題ないか。ヘルフリートとカティアが安心して暮らすならば……まず考えつくのはネレイドの里か、その近辺で暮らしてしまう事であろうな。エルドレーネ女王に助力を求め、グランティオスを選ぶというのも手としてはある」

「そうですね。それは僕達も考えました」


 他には……フォレスタニアで暮らす、という手もあるだろう。その辺のどこでどう暮らすかについてはいくらでも対策が取れるし、カティアに合わせて海に移住するという理由も通るので問題はない。


 問題は――どこでどう暮らすにしても時間が経てば経つほど、老いなくなったヘルフリート王子は元々周辺にいた者達との交流を控えるようにしなければならないという点だ。いずれ……何十年か後には亡くなった等と偽装して公表したりする必要もあるだろうし。


 ヘルフリート王子は既にその辺も覚悟の上なのだろうけれど、それはそれでメルヴィン王やグラディス王妃としては寂しいものがあるのではないだろうか。

 そういった諸問題がある事を説明しつつ、考えている解決策を提示する。


「見た目による他者との交流の問題に関しては、幻術を組んだ魔道具で多少は何とかなるかなと思っています。継承権を放棄すると言っても、それまでの人間関係や立場がなくなるわけではないですから、完全に没交渉というわけにもいかないでしょうし」

「ふむ。確かにな。転移門もある以上は人前に全く姿を現さないというわけにもいくまい」


 メルヴィン王が思案しながら言う。そうだな……。転移門は普段は便利だが、こういう場合、遠方なので没交渉になっている、とは言えなくなってしまう。


 それを何とかしようと思うのなら……やはり後々、見た目に関する対策をする必要がある。


 老いに関しては……幻術と変装で多少の誤魔化しは利くだろう。歳を取った時の年齢を迷宮核にシミュレーションさせ、それを幻術に反映させるという案を考えている。

 今のヘルフリート王子の容姿に肉親――メルヴィン王やバルフォア侯爵の容姿を参考に重ね合わせて、歳を取った時の容姿を迷宮核に組んでもらうのだ。


 つまりは――腕時計か懐中時計のようなものに幻術の内容を記録させて、時間と共に徐々に幻術の内容が変化していくような代物を作る。魔道具を展開すると自然に歳を取ったように見せかける幻術を薄く纏う。そうする事で、かなり自然で真に迫ったものが出来上がるのではないだろうか。


「時間と共に内容の変化する幻術を組もうと考えています。そう、ですね。身に着けられる時計のような物品と、幻術とを連動させるというのが望ましいでしょう」

「それは面白いな」

「そうなると、僕や工房の出番でもあるね」


 俺の考えを聞くと、メルヴィン王とアルバートが共に笑う。

 それならかなりの長い間、人前にも出られるからな。それと合わせて……幻術が解けている所を見られてしまった場合のカバーストーリーも考えておいた方が良いだろう。

 幻術で遊んでいただとか、一時的に若返る術があるだとか。つまり「若返っている方が特別な状態である」と言い張ってしまうわけだ。想定される状況ごとの言い訳も、幾つか考えておけばボロが出にくい。


 ある程度年月が経てば……ヘルフリート王子本人ではなく息子なのだと名乗る事も可能かも知れない。その場合も、ヘルフリート王子は王位継承権を放棄しているので問題は起こらない。


「後は、水中で活動するための術、魔道具等々を用意しておけば大丈夫かなと」

「これなら何とかなりそうですわね」


 と、オフィーリアが微笑む。


「……あっという間に解決策が出てきて……すごいな。テオドール公には感謝している」

「ありがとう……!」


 ヘルフリート王子とカティアが揃って礼を言ってくる。


「いえ。僕としても他人事ではないところがありますから」


 他種族との婚姻というのは俺もそうだ。そういう意味でもヘルフリート王子とカティアの結婚は上手く行って欲しいし、ネレイド族も穏やかに暮らしていって欲しいと、そう思う。


「さて。ヘルフリートの件に関してはこんなところか」

「では――今回の一件の報告についてでしょうか」

「そうさな。それも楽しみではあった。テオドールの報告となると、幻術も交じえるからな」


 そう言って楽しそうに笑うメルヴィン王である。

 それも、というメルヴィン王の言葉のニュアンスからは、やはりヘルフリート王子の相談事を想定していたのかも知れないな。

 ともあれ、俺としてもそうした期待には沿いたいところだ。にこにこと微笑むマルレーンからランタンを受け取り、庭園を見て回っていたレンフォス達にも声をかける。そうしてどうやって話を進めようかと思案を巡らせるのであった。

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