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番外568 新たなる船出

 中庭を一望できる大きなバルコニーがある広間に集まって――宮廷楽士の演奏や茶を楽しみつつ、デメトリオ王やコンスタンザ女王への紹介、交流を兼ねて前に起きた出来事や近況についての話をする。


 前に起きた出来事と言ってもホウ国の草原の王と聖王、八卦炉のように公の場で話せる部分、話せない部分が混在していたりするが……そこは各国とも上手く話題にできるように調整していたりする。


 近況については――各国とも一時の騒動や事件による混乱からは立ち直り、内政に力を入れているというものが多かった。

 ベシュメルクについては国内の制度を色々と変えているので、その関係でまだ調整しなければならない部分も多く、難航しているところもあるそうだが……。

 先王――ザナエルクの作った悪法である等級制度も廃止され、地方領主らもそれに協力的な事から全体的に見れば良い傾向とのことで。


「如何ともしがたい問題だけはテオドール公が解決して下さいましたから。我らとしてもここが腕の見せ所ではありましょう」


 そんな風にクエンティンが言うと各国の王達も「確かにな」と笑ったり、しみじみとした様子で目を閉じて頷いたりしていた。


 ユラ、リン王女、ペトラ、シオン達、スティーヴンのところの子供達といった年少組。アカネ、セイラン、レギーナという女性の武人組で、話題が合うのか仲良くなっているグループもあるようだ。近況報告が一段落すると、そういった仲の良いグループで集まって談笑したりもしていた。

 テスディロスとウィンベルグ、フォレストバードが楽しそうに言葉を交わしているのは俺としても安心できる。


 シャルロッテは……パラソルオクト達に挨拶に行った。握手をして回ってご満悦の様子だ。アウリアはエルドレーネ女王や御前、オリエ、モルガンやハーピーの族長ヴェラといった面々と何やら楽しそうに話をしていた。

 その横でパラソルオクトのソロンと青カラスのロジャーが挨拶をしていたり、マクスウェルとアルクス、アピラシアとライブラといった魔法生物組が言葉を交わしていたりと……中々異色の組み合わせもあったりするが。


 ちなみにライブラはドリスコル公爵領傘下の領主達にあちこち挨拶回りをしていたそうだ。その後戦力が出払ったタームウィルズ防衛の任務についたりと、今回の戦いでは裏方に徹していて参加できなかったが……オスカーとヴァネッサの護衛として宴会には参加している。


「ふふ……。こうして色んな国の皆さんが集まって笑顔になっているのを見るのは……テオとの旅を振り返っているようで楽しいです」


 と、そんな光景を見ながらグレイスが微笑む。


「んー。そう、だね。確かに」


 やや気恥ずかしくてはにかんで答えると、アシュレイがにっこりと笑う。


「そうですよ。近況も良いお話が聞けましたし」

「みんな元気そうで良かったわ」


 クラウディアも目を細めて、上機嫌な様子で頷いた。


「まあ……今回の旅も良いものだったわね。伯父や外戚のいる国に何かあっては寝覚めも悪いし」


 ローズマリーが目を閉じて言う。バルフォア侯爵とネレイド族か。確かにな。フォルガロを放置しておいたら……テンペスタスが暴走しなかったとしても西方海洋諸国がどうなるか知れたものではなかったし、サンダリオ――マルティネス家のルーツやバルフォア侯爵家との関係も判明したしな。フォルガロが事を起こして、被害が出た後でそれを知ったのではやりきれない。


 素っ気なく言ったローズマリーに、ステファニアやマルレーン、アルバートやヘルフリート王子がにこにことした笑みを向けると、ローズマリーは羽扇で口元を隠して明後日の方向を向いていた。


「ん。しかも深みの魚人族の食材は凄かった」

「特に美味しいものを集めてきてくれたみたいね」


 ブレないシーラにイルムヒルトがくすくすと笑って答える。


「宴会、楽しみだね!」


 と、明るい笑顔のセラフィナに、オフィーリアやカティアも笑顔で頷くのであった。

 そうこうしている内に料理も段々と出来上がってきたようで、良い匂いが広間に漂ってくる。


 中庭にも酒樽が運び出されて、俺達の宴と共に将兵達の酒盛りの準備も着々と進んでいるようで。


 空が夕焼けで赤くなる頃合いになって、グロウフォニカの重鎮達や西方海洋諸国の大使達、それに連なる関係者も広間に姿を現す。デメトリオ王によると、西方海洋諸国には色々と根回しをしていたそうで……それも俺達の勝利を確信しての次の手だと言うのだから恐れ入る。

 中庭には将兵達。広間に料理が運び込まれてきたタイミングで、宮廷楽士達がファンファーレを吹き鳴らして合図をする。


 にこやかに談笑していて賑やかだった広間も、それで一旦静まる。宮廷楽士達が高らかに響く旋律を奏でる中、デメトリオ王が皆の注目を集めるように歩を進めた。

 広々としたバルコニーには演説用なのか、広間と中庭から視線をあつめられるように数段高くなっている場所がある。そこに登ったデメトリオ王が両手を軽く広げると、みんなから歓声と拍手が起こった。


 それらの声に笑顔で応えるデメトリオ王。声が少し落ち着いたところで満足げに頷くと、朗々とした明るい声を響かせる。


「皆の者! 今宵は特別な夜である! グロウフォニカが――そしてこの海に名を連ねる諸国が長年に渡って抱えてきた因縁と火種が解消した事は諸兄らも聞き及んでいよう! その解決の為に知勇を貸してくれた高潔なる英雄殿と、その英雄殿と志を共にする各国の王、女王、部族、戦士達が一堂に会した――これはまさしく、歴史的な日と言えよう!」


 デメトリオ王の口上にまたも拍手と歓声が起こる。デメトリオ王はにこやかに笑って、拍手が収まるのを待って更に言葉を続けた。


「これは我ら海に連なる国々にとっても、新たなる船出の日に成り得る契機であると、余は考えている! 海に暮らす我々と、東の同盟と。互いに笑い合い、手を取り合えるように! 新たなる関係を築いていきたいと、そう思うのだ!」


 そう言ってデメトリオ王は広間にいる者達を――中庭に居並ぶ将兵達を見回す。各国にも色々と根回しをしていたと言っていたが、西方海洋諸国の大使達も静かに頷いていた。

 元々西方海洋諸国が東の国々との親交を避けていたのは、フォルガロが西の海で主導権を握るために圧力をかけていたものだからな。フォルガロが失墜した事で、そうした枷も外れた、か。


「我らはかつて、この青い海に覇を唱え、互いに相争った宿敵同士。しかし先人達は共に手を取り合う事を選んだ。――余は思う。時を経て、かつての宿敵達は、今や同じ船に乗るかけがえのない友となったのだと……! だからこそ、我らが力を合わせれば、新たなる未知の海を越えていく事も出来よう! その為の宴をここに開こう! 今宵は皆存分に飲み食いし、新たなる友との絆を深めようではないか!」


 そういって酒杯を掲げるデメトリオ王。


「我らの新たな船出に!」

「我らの新たな船出に!」


 デメトリオ王の言葉に沢山の人々の声が重なり、居並ぶ面々がデメトリオ王と同時に杯の中身を飲み干す。

 数瞬の間を置いて、それまでよりも大きな歓声と拍手が巻き起こった。デメトリオ王やコンスタンザ女王、海の連盟と陸の同盟を称賛する声。それに混じって俺の名も、という感じだが……いやはや。


 宴の開催の宣言と同時に、王都の街中でも酒と料理が振る舞われる事になっているそうだ。城も街もお祭り騒ぎというわけだな。

 グロウフォニカ王国での宴会が終わったら、デメトリオ王やコンスタンザ女王、ネレイド族や深みの魚人族をタームウィルズにも招く事になっている。

 当分はお祭り騒ぎだな。俺も対フォルガロで色々と動いたし、のんびりと羽を伸ばさせてもらうとしよう。

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