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番外560 ガステルム王国

 転移門を試運転し、問題がない事を確認してから、封印術を施した瞳を箱に収め、フォレスタニアの宝物庫に安置してきた。


「我らとしてはテオドール様達ならば何日でも逗留していって頂きたいところではありますが……グロウフォニカ王国での宴も決まっておりますからな」

「代わりと言っては何ですが、合流までに近海で漁を行っておきます。宴で使われる料理の食材になれば嬉しく思います」


 と、レンフォスとヴェダルが笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。楽しみにしています」

「こちらこそ。ではブロウス、オルシーヴ。しっかりとな」

「はっ」

「承知しております」


 ブロウスとオルシーヴは俺達に同行する。というのもフォルガロのステルス船が派遣されているのは2隻ともガステルム王国だからだ。ステルス船の乗組員に呪法が届けばそれで連中も撤退を始めると思うが、深みの魚人族にはグロウフォニカ王国やガステルム王国は味方だと伝えてあるからな。コンスタンザ女王も、国元を出発前に深みの魚人族を保護すると明言してくれているそうで。


 そこでブロウスとオルシーヴがいれば、ガステルムで彼らに会えた場合は安心してもらえる、というわけだ。ネレイド達の里を訪問した時に、サンダリオとドルシアに瞳についての報告もしたい、との事で。


「我ら一同、テオドール様達の道中の無事を祈っております」


 レンフォスの言葉に、見送りに来てくれた深みの魚人族が頷く。集落総出で見送り、といった様子だ。


「親切にしてくれてありがとう。捕まってからずっと不安で苦しかったけれど、この集落のみんなが優しかったから……本当に嬉しかった」

「こちらこそ……そう言って貰えるのは嬉しいわ」

「宴の席でも会えると思うけど……こっちにもまた遊びにきてね」

「ええ。必ず……!」


 と、キュテリアも集落にいる時にお世話になったという深みの魚人達の女性陣に、丁寧にお礼を言っていた。キュテリアに贈られた細工物もお土産としてもらったそうで。

 お土産と言えば……俺達も深みの魚人族の集落の特産品を貰っている。

 ホヤであるとか、イソギンチャク、巨大な発光真珠や貝柄のタペストリーといった品々だ。グランティオスでもらった光珊瑚同様、水槽に入れて運ぶ。


 そうして甲板から手を振って。沢山の深みの魚人族に見送られる形で、ゆっくりとシリウス号は海面に浮上していくのであった。




 ガステルム王国はフォルガロ公国の南に位置する。正確にはフォルガロ公国が元々ガステルム王国北部に相当する場所だったわけだが。


 フォルガロと隣接しているという事は、西方海洋諸国にとっては海の交易の要衝となり得る場所、という事でもある。そこでフォルガロは独立を果たそうと他の国々がガステルムへ向かう海域で海賊行為を重ねて治安を悪化させていたようだが……まあ、ガステルムの国力が落ちてからはそうした工作活動もある程度下火になってはいたようだ。


 シリウス号はガステルム王国王都へと、結構な速度で飛んでいく。もう姿を消して行動する必要もないしな。西方海洋諸国にも、というよりはガステルム王国にも話は通っているし。


「グロウフォニカ王国とガステルム王国は雰囲気としては少し似たところがありますね。歴史のある建造物が多いのです」


 艦橋に腰を落ち着けたコンスタンザ女王が教えてくれる。ガステルムもかつては隆盛していたが、フォルガロの工作で国力が落ちた国だからな。昔の建造物を大切にしている、ということか。


「それは……拝見するのが楽しみですね。これまで周囲の建築様式に合わせて転移用の施設を作ったりしていますので参考にもなります」

「転移用の施設も考えなければなりませんね」

「そうですね。普段は迎賓館も兼ねた施設にしているので、フォルガロで建築した施設程には大規模にはならないはずです」


 俺の言葉に、コンスタンザ女王は納得したように頷き、少し思案してから言った。


「でしたら……城の近くに丁度良い場所があります。そこを使ってもらうというのが良いかも知れません」


 うん。ガステルム王国の転移施設の建造も……割とスムーズに取り掛かれそうだな。


「私達の里でも、どこに建造してもらうか、今の内に考えておいた方が良いかも知れませんね」


 モルガンがカティアやドルシアの娘達に相談するように視線を向けた。


「集会所から真っ直ぐ進んだ所に土地が余っていたわね」

「迎賓館にもなる、ということを考えると……あのあたりは良いかも知れないわね」


 と、笑顔で話し合うネレイド達である。


「俺も……どんな建物を作るかは考えておかないといけないかな。魔物貝は無くても多分土魔法で似たような質感で作れるから、建築様式を合わせるのも難しい話ではないと思うし」


 ネレイド達の里というと、やはりあの貝の家が印象に残っているからな。


「そうなると貝をイメージした建物になるのかな?」

「それは……面白そうだね」


 アルバートやヘルフリート王子もネレイドの里で作る建物には興味があるのか、そんな風に言って笑う。


「やっぱりネレイドの皆様は、貝の家の方が落ち着くものなのでしょうか?」

「故郷を意識するものではあるわね。私は好きよ」

「なるほど……」


 オフィーリアが首を傾げると、カティアが笑みを浮かべて答える。カティアの言葉にヘルフリート王子は色々と思うところがあるのか、真剣な表情で思案していた。

 そんな風にしてイルムヒルトの奏でるリュートを楽しみながら、シリウス号はガステルム王国へと進んで行くのであった。




 そうして――水平線の向こうにガステルム王国の王都が見えてくる。海に面した都で、気候も暖かい方だからか、明るい陽射しに映える色合いの街並、という印象がある。白い壁だとか青い屋根だとか……。街のあちこちに椰子の木等も生えていたりして、海の青さとも相まって、南国風で開放的な感じがする。

 街の中心部にある王城は、堅牢で質実剛健な作りだ。コンスタンザ女王も堅実ながら堂々とした性格なので……城主のイメージとも合っているかも知れないな。


 高度と速度を落としつつ、王都に近付いていく。姉妹船がガステルム王国を訪問しているから、飛行船を王都の面々が見るのは初めてではないはずだが……ゆったりとした速度で近付いた方が安心してもらえるだろう。


 段々と王都までの距離を縮めていくと――王都側からも迎えが来るのが見えた。礼装に身を包んだ竜騎士達だ。


「護衛達と共に顔を見せてきましょう」

「では、僕も船の責任者として、ご一緒します」


 コンスタンザ女王が立ち上がったので俺もと同行する。

 甲板に出ると竜騎士達もそれに気付いたのか、飛竜達の背の上で敬礼を見せつつも高さと速度を合わせるように、旋回。並走しながらも改めて恭しく挨拶をしてきた。


「これは陛下。お帰りをお待ちしておりました」

「ただいま戻りました。こちらの御仁はフォレスタニア境界公です」

「初めまして。テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアです」

「おお……ご高名はかねてより伺っております。お会いできて光栄です……!」


 と、騎士達は驚いたような表情を浮かべて、それぞれ名を名乗ってきた。


「これより王城へと向かいます。飛行船には王城の近くに停泊してもらうつもりでいますので、皆にはそう伝えるように」

「はっ!」


 自己紹介が終わったところで、コンスタンザ女王の指示を受けた竜騎士達は王都へと戻っていく。

 そうしてコンスタンザ女王はこちらに向き直ると、王都を背後に笑みを浮かべて言うのであった。


「ようこそガステルム王国王都へ。歓迎しますよ、境界公」

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