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番外559 氷結要塞と魔石の行方

 転移門に呪法防御を仕掛け、貴族や武官、文官達の誓約魔法と面談も終えて……これで一通りフォルガロの首都でするべき仕事は終わったと言えるだろう。

 後は当面の間、城と街にハイダーを一体ずつ配置しておけば、こちらとしても安心だ。港に仕掛けた魚型ゴーレムに関しては、残り2隻のステルス船の一件が片付くまではそのままにしておこう。


「では、また……グロウフォニカ王国の王都で会いましょう」

「その時を楽しみにしておるぞ」

「はい。グロウフォニカ王国でお会いしましょう」


 オーレリア女王やイグナード王、それに各国の王達、援軍に来てくれたみんなと言葉を交わす。カルセドネとシトリアもスティーヴン達と笑顔で「また後でね」と挨拶を交わしたり、ブロウスとオルシーヴがウェルテス、エッケルスと握手を交わしたり。みんなそれぞれに思い思いの相手と一時の別れを惜しんでいるといった様子だ。


 さて。俺達がやるべき仕事の残りとしては……あちこちに転移門を建造しに行く、というものになる。

 まずは近場からという事で、深みの魚人族の集落、ガステルム王都に続いてネレイドの里、最後にグロウフォニカの王都という順番で回っていく予定だ。


 デメトリオ王も王都にみんなで集まって宴会をしよう、と呼びかけてくれた。なので、今までシリウス号に乗っていた面々にコンスタンザ女王達とキュテリア、ティエーラや四大精霊王達を加え、資材と建材をシリウス号に積んで転移門作りに向かう。


 キュテリアもネレイドの里であるとか、タームウィルズやフォレスタニアが見たい、とのことで。俺達と行動を共にするということになった。


「パラソルオクト達に会えるのが楽しみね」


 キュテリアは何やらソロンを気に入ったようで、そんな風に言いながら笑顔を浮かべていた。ソロンも目を閉じてうんうんと頷いているし……蛸系魔物のよしみという事だろうか。

 そんなこんなで割と和やかな雰囲気の中シリウス号に乗り込み、深みの魚人族の集落へ向かったのであった。




 シリウス号はもう姿を隠す必要もないので、首都から南方へと向かえば洋上に氷の要塞が見えてくる。

 氷の要塞は元々臨時の物だったので首都での仕事が終わったら解体するつもりであった。シリウス号を停泊させ、呪法を解除しようかとタラップを降りてみたのだが……。


「んー……」


 片眼鏡で見てみると、要塞の内外に顕現していない精霊達が沢山集まっていた。壁の縁に腰かけたり氷の上を腹這いで滑っていったり、何だか楽しそうだ。


「何だか、水の精霊達はこの場所を気に入っているようですね」

「風の子達もだねー」


 と、マールとルスキニアが微笑む。確かに……。ウンディーネとシルフ達の良い遊び場になっているというか。精霊達が歓迎してくれたおかげで、氷を維持するための呪法によって生じる歪み――俺の魔力負担も少なくて済んでいるのだが。


「この際、このまま要塞を残してしまう、というのも有りですかね。管理はお任せする事になってしまうかも知れませんが」

「ふうむ。それはそれで安心かも知れませんな」

「我らとしても心強いお話です」

「私としても異存はありませんよ。深みの魚人族とも友好関係を続けていきたいですから、海上で彼らと交流できる場所があるのは助かります」


 深みの魚人族の長老レンフォスと戦士長ヴェダルが頷き、コンスタンザ女王も同意してくれた。ふむ。それなら要塞を残しても問題ないか。


「呪法でそのまま維持するのもなんだし、ここに集まっている精霊達と深みの魚人族の間で契約魔法を結ぶ、というのが良いかも知れないわね」

「維持のための方式を変える、というわけね」


 クラウディアが目を閉じてそう提案すると、ローズマリーも首肯する。


「それなら、私達も祝福を与えるのが良いかも知れませんね」

「そうだね!」


 と、マールとルスキニアも乗り気だ。集落の者達にも通達しようという事でみんなを集めて話を通す。

 精霊の祝福があれば要塞を維持しながら周辺環境に影響を出さない、というのも可能だろうな。というわけで、暖かい海に氷の要塞というやや場違いなものがこれからも浮かぶ事になるが……まあ良いだろう。物珍しくて観光客も増えるかも知れない。


 契約魔法の内容としては――深みの魚人族の平穏を守るために要塞を使う事。要するに防衛用だが、魚人族からの提案で西方海洋諸国や同盟の危機にも使えるように、という条件を盛り込んだ。

 要塞は動かす事もできるが、目的に沿った使い方でなければ溶けて無くなってしまう。他者が要塞を乗っ取った場合は、そのまま内部も凍えさせてしまうという具合にするのがいいだろう。そうやって契約魔法の内容を取り纏めたところでクラウディアが尋ねる。


「契約内容に異存はないわね?」

「勿論です」

「小さな子達も大丈夫だって」


 と、クラウディアの言葉に大きく頷くレンフォスと深みの魚人族の面々。精霊達の代弁をしてくれるルスキニア。

 というわけで一旦呪法を解除する。そのままクラウディアがマジックサークルを展開。精霊と深みの魚人族の契約魔法を結び、マールとルスキニアが要塞に祝福を与える。


 無事に契約魔法が結ばれると、俺達の立っている所から要塞全体に光の波が広がっていき――辺りに強い精霊の力が満ちてくるのが分かった。精霊達の動きも活発になって、シルフとウンディーネが手を取り合って喜んでいたりと、随分と嬉しそうだ。要塞もその強固さを増しているようだな。これなら……維持も問題なさそうである。


 というわけで要塞に関しては問題なし。

 転移門についてはあちこち移動できるというのも問題がありそうなので、予定通り要塞ではなく集落側へ設置するということになる。


 シリウス号で海中に潜り、集落側へ移動。

 話し合いの結果、海溝の岩壁にある広場の更に奥を掘削して、そこに結界を張ったりしながら空気のある広間を作り、そこに転移門を設置、という事になった。深みの魚人族の集落に知らずに転移したらいきなり海の中というのも困るからな。


 深みの魚人族の皆が興味深そうに見守る中、建築作業を進める。

 壁をゴーレムに変えて掘り、構造強化で固めていく。海底神殿という雰囲気が出るように柱を建てたり床に刻んだ紋様魔法で海水を除けたりしつつ魔石やミスリル銀線を埋め込み、その奥に転移門を作る。


 柱の意匠は――そうだな。瞳の光を浴びて楽しげに笑う深みの魚人族。要塞の側で遊んでいる精霊達……というのをモチーフとして入れていくのが良いだろうか。柱の下の方にイソギンチャクやら魚やら、海のイメージを想起させる装飾を入れると全体的にバランスが良くなってデザインも落ち着く。


「良い意匠ですな」


 と、ブロウスも笑みを浮かべる。他の深みの魚人族達にも好評なようだ。これで転移門を起動させれば……後は深みの魚人族の集落でやっておくべき事と言えば瞳に関する事だけ、となるだろうか。ヴェルドガルと連絡を取る前に、この事は聞いておこうと思う。


「瞳の返還についてはどうしますか? このまま返還しても良いですし、対策ができるまでこっちで預かっていても構いません」

「そうですな……。では……今暫くテオドール公にお預けしていても大丈夫でしょうか?」

「分かりました。テンペスタス達が残してくれた魔石もありますし、瞳の防衛のためにあの魔石で何ができるか等も含めて、何かしらを考えてみたいと思います。案が纏まったらその時に連絡をしますので相談して決めて下さい」


 あの魔石も……瞳を守る為に活用した方が良いような気がするのだ。テンペスタスもそうだが……元を辿っていけば、深みの魚人族のかつての主が残してくれたものだと言えるのだし。

 そういった考えを伝えると、レンフォス達は少し驚いたような表情をした後で目を閉じて静かに一礼してくる。


「良いお話ですね」


 コンスタンザ女王もそう言って穏やかに笑みを浮かべていた。

 うん……。話も纏まったし、転移門の起動テストを行ったら、フォレスタニアの宝物庫に瞳を一時保管させてもらう事にしよう。

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