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番外556 首都での一夜

 そうしてコンスタンザ女王や各国の王、フォルガロの重鎮達を交えて誓約魔法の条件を色々と話し合う。


 誓約魔法というと……とある騎士が忠誠の誓いに背いた場合、命を落とす、とまで誓った事例が過去にあり、この話は物語のモチーフになっていたりもする。

 物語のように誓約に背いた場合、命を落とすという使われ方も確かにするし、そういった事例は他にないわけではないらしいが……誓約の条件如何では日常生活でうっかり抵触してしまう、という事態が起こり得る。


 条件を厳密にすれば抜け穴ができるし、曖昧過ぎると誤爆が起こるということで……そうした目的に沿わない事態を防ぐには、抵触した場合に発動する誓約魔法の効果を考えてやればいいわけだ。


 例えば抵触した場合、生命活動に支障のない範囲で身動きが取れなくなる、という方法。自分の抵触してしまった条項を、ガステルム国王かグロウフォニカ国王に包み隠さず申告し、許しを得ない限り動けない、といった具合だ。


 ローズマリーが誓約魔法を使った時は、抵触した場合にこれと似たような内容が発動する形だったが……。まあ、ローズマリーは俺と行動を共にしているからな。コンスタンザ女王と一緒に行動しているわけではないフォルガロの重鎮達にそのまま当て嵌めるというわけにもいかないので、多少条件を変える必要があった。


「申告ができなければ全く身動きが取れないというのもな。例えば1人で暮らしている場合等にそうなってしまったら、そのまま死んでしまうということも考えられる」

「では……そうした事態に陥らないように条件を付ける必要があるな」


 シュンカイ帝やヨウキ帝がそんな風に言葉を交わす。色んな事態を想定して詰めていく。

 そうして暫く話し合い、諸々の条件も纏まったところで、魔法が使えない者でも誓約魔法の宣誓を行えるよう魔法陣を描いていく。


 誓約の内容は――掻い摘んで言ってしまえば、西方海洋諸国の平穏や安定を乱す事に繋がるような行動、企てをしない事。また、そうした行動や企てをしている者を目にした場合や知り得た場合には、自身の身の安全を確保してから申告する事。判断に迷う場合も自身の解釈に頼らず、申告するべき相手に尋ねる事。これらの条件が満たせないような世情になった場合、法を順守して暮らす事、といったものだ。


「良く練られた内容となりましたな」


 と、内容を聞いたディエゴはそんな風に感想を述べていた。重鎮達も同意するように頷く。

 そうだな。誓約したからと言って自分から能動的に何かしらの行動をする必要がない。静かに暮らしていれば不利益はないし、そうした企てを周囲から持ちかけられて担ぎ上げられるような事も無くなる。


 長期的視野で情勢変化にも対応できるし、危険が迫った場合に身を守る事もできる。仮に生活が困窮したような場合にも、抵触しない範囲でならば自分の為に行動が可能というわけだ。


 そうした細かな内容を紙に書きつけていき、誓約魔法行使のための魔法陣も完成する。後は……紙に書かれた内容を魔法陣内で読み上げるだけだ。


 誓約魔法については何というか、本人の意思――決意や納得が重要となる術だ。拷問や隷属魔法で強制したり魔法薬で操って宣誓させたりしても効力を発揮できない、らしい。


 一説では誓約魔法が不当である場合、何かしら……自身の魂か、精霊や神霊のような存在がその不当さを感知して術の効果を薄れさせてしまうのではないか、等と言われている。

 確かに、精霊は悪魔等も含めて約束事や契約にとかく敏感だからな。不当な方法で強制された場合はその解除に力を貸すというのは分からないでもない。まあ……今回の場合は過去の事例に照らし合わせれば、その効力に関しては大丈夫だろうと思われるが。


 そうして諸々の用意ができたところで順々に宣誓して誓約魔法を成立させていく。燐光に包まれ、それが収まれば誓約魔法完了だ。

 重鎮達の誓約が終わったところで、ディエゴに話しかける。


「ディエゴ卿にお願いしたい事があるのですが、お聞き頂けるでしょうか」

「何でしょうか。私にできる事であれば良いのですが……」

「遠隔で魔法を飛ばす事で、隠密船の乗組員に撤退命令を伝えたいのです。彼らに同行している4人の魚人族は隷属魔法を受けていますから、上からの正当な命令であれば彼らも安全に動けるでしょう。準備があるので、今すぐにというわけではありませんが」

「なるほど。そういう事ですか」


 と、納得した様子のディエゴである。コンスタンザ女王も口添えしてくれる。


「私からもお願いします」

「分かりました。私でお役に立てるのなら」


 よし。術式の準備ができたら改めてディエゴに手伝ってもらおう。


「もう一点。転移港を作るのに適当な土地をご存知でしたら教えて頂けませんか?」


 転移港の役割等々についても説明する。


「これからのこの土地の安定や西方海洋諸国の発展に寄与してくれるでしょう。デメトリオ王も同意しておりますよ」


 コンスタンザ女王がそう言うとディエゴは納得したように頷く。


「城の近くに空いた土地がありますな。研究施設を増設したいと話を進めていた場所で……建材も手配されておりますよ」


 話を聞いていた宰相がそんな風に助言してくれた。


「では……その場所を使うというのは如何でしょう? 今となっては目的そのものも浮いてしまったわけですから」

「分かりました。明日から動いていきたいと思います」


 コンスタンザ女王の言葉に頷いた。うん。諸々何とかなりそうだな。




 そうして……フォルガロの主だった重鎮達に対する誓約魔法も終わり、今日のところは早々に休ませてもらう事となった。

 シリウス号の風呂に順番に入って、寝台にみんなで横になって寛がせてもらう。


「今日は……朝から色々と盛り沢山で大変でしたね、テオ」

「ん。そうだな。結構疲れた、かも」


 風呂で火照った体で寝台に転がると、疲労感も相まって中々に心地がいいが……何やら「こちらにどうぞ」と笑顔で促されて膝枕をしてもらっている状態だ。

 真上からにこにことしたグレイスに顔を見られているのでやや頬が熱くなってくるのが分かるが、そんな反応をまた楽しそうにしていたりして。


「今回は戦いだけで終わらなかったものね」


 と、クラウディアが苦笑する。


「ん。こうやってごろごろしていると心地良い」

「みんなと一緒なら尚更よね」


 シーラとイルムヒルトも寄り添うように抱きついてきたり、グレイスの隣に座ったアシュレイやマルレーンに髪や頬を撫でられたり。


「もう、傷は痛まないですか?」

「ああ……。それは大丈夫」


 アシュレイにそう答えると、マルレーンと一緒に嬉しそうに微笑む。


「明日からもテオドールは仕事があるものね」

「疲れが残らないように身体を休めておくのは重要ね」


 ステファニアやローズマリーが手足をマッサージしてくれる。テンペスタスとの戦いもあったから、みんなで労わってくれるというか甘やかしてくれているというか。

 膝枕を交代してクラウディアが耳掻きをしてくれたり、何というか至れり尽くせりだな。色々心地良くて脱力してしまうが。


 旅先だから、こうした夫婦水入らずの時間も大事にしたいものだ。俺もみんなの髪をそっと指で透いたり、頬に触れたりしながら……夜はゆっくりと過ぎていくのであった。




 そうして一夜が明ける。早い時間から床についたということもあり、目覚めの気分は良い。身体も思考も軽く、魔力も昨日かなり消費した割には好調だ。

 お祖父さん達がヴェルドガル側に向かい、転移門の建造を進めてくれたり、コンスタンザ女王と共にエイヴリルが面談を進めてくれたりするそうなので、俺は俺で自分のするべき仕事を進めていくとしよう。

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