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番外554 コンスタンザ女王の想い

 宝物庫の中から、隷属魔法の魔道具だけは回収してきた。やるべき事を考えれば色々あるのだが……まあ、まずは予定通り諸々の話を聞いてもらうことから始めよう。


 城から出て、みんなでシリウス号に乗る。そうしてセラフィナの力を使い、首都に声を響かせた。


「これより今後の方針の通達を行います。魔法で声を響かせ、空に我々の姿を幻影として大きく映し出しますが、危険はありません。驚いたり騒いだりする事なく、そのまま聞いて下さい」


 そう言うと、首都のあちこちから様々な層の人物が顔を出す。貴族、騎士、兵士、使用人、それに研究者といったフォルガロの関係者。それから首都に住む人々。あちこちから訪れている商人や冒険者達……。いずれも家屋から顔を出し、どんな話がされるのか固唾を飲んで見守っているという印象であった。矢印がついている者もいるな。


 マジックサークルを展開。光魔法で飛行船の上に俺達の姿を大写しにすると、おお……というどよめきが起こる。


「では――まず自己紹介をさせてください。僕はテオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニア。東にあるヴェルドガル王国から、アルバート殿下の新婚旅行に同行する形でグロウフォニカ王国を訪れました。旅の途中……僕達はグロウフォニカ王国南方の島にて、不審な者達と不意に遭遇。危うく同行していたヘルフリート殿下やその友人を人質に取られそうになり、交戦する事となりました」


 詳しい事情は伏せるまでも、ある程度は順序立てて話をしないと、そもそも何故俺達や同盟がここにいるのか、という話になってしまうからな。こちらの正当性をはっきりとさせるためにも、話はそこから始めなければならない。


「結果から言うなら、彼らの正体はこの国の特殊部隊。乗っていたのは姿を消す事のできる魔法の隠密船です。問題は――彼らと共に海の民がいた事ですね。彼らは人質を取ったり魔法を使ったりする事で、海の民に無理矢理命令を聞かせていました。海の民ならではの水を操る術を使わせ、海賊行為を始めとした様々な非合法活動を……独立以前からの長年に渡って行っていたわけです。僕達がこの国を訪問したのは……それを知ったことが理由です。既に戦場で相対したフォルガロ公国の将兵方には伝えてあるので、事情を耳にしている方もいるかも知れませんね」


 そこまで言って、街中の反応を見回す。俺達の背後に長老や戦士長達もいるからな。

 驚いて顔を見合わせる者、憤りを露わにする者、視線を向けると気まずそうに逸らす者、反省したように俯く者……反応はそれぞれの層で微妙に違っていたりするが。


「そうして僕達はグロウフォニカ王国や東の同盟と連携して、囚われている海の民を救い出す作戦の準備を進めました。首都に密かに潜入し、姿を消す事のできる隠密船に魔法を仕掛けたり、海の民の皆さんを解放する手段を手に入れたりしました。今も停泊しているあの矢印のついた船は……仕掛けられた魔法の結果です。乗組員にも効果を及ぼしていますが、彼らの矢印は直に取る、とお答えしておきましょう。船に関しては二度と使用できないよう、そのままにしますが」


 そう言うと、矢印達は安堵したような表情になっていた。まあ、矢印が取れたから放免というわけではない、というのは彼らも分かっているとは思うが、それでも頭の上に矢印が付いたままなのは嫌だということなのだろう。


「そこからの経緯は皆さんも見ているでしょう。公王は背後にある国々の動きや海の民の解放を察知したらしく、魔法研究によって作り上げた魔法生物――守護獣と首都の戦力を投入し、まず足元の憂いを解決しようとしたのか、海の民の制圧に乗り出しました。結果として自我を与えられていた魔法生物が暴走、反乱を起こしたのが今日の事件です」


 そして暴走に巻き込まれたアダルベルトがテンペスタスに斬られて命を落とした事。

 駆けつけた同盟、グロウフォニカ、ガステルムが共に対処に当たったこと。戦いの後の……魔法生物達への祈りについて。諸々を説明すると人々は魔力や魂が集まっていく光景を思い出したのか、目を閉じたり俯いたりと、神妙な雰囲気になっていた。


 そこまで言ってから、コンスタンザ女王を紹介し、その場を引き継いでもらう。コンスタンザ女王は静かに頷くと一歩前に出る。そうして軽く両腕を横に広げ、朗々と声を紡いだ。


「ガステルム王国の女王、コンスタンザ=ガステルムです。此度の騒動を聞き、この地を訪れました。フォルガロ公国にまつわる一連の話が事実であれば、公国は西方海洋諸国全てを敵に回すことになります。故に事実を確認した上で、然るべき対処をする必要がありました。西方海洋諸国間での不和や混乱――もっと言ってしまえば戦乱を避けるには、かつての主家であるガステルムでなければ事態を収拾できないと判断したからです」


 そうだな。その情報は、間違いなく反感を抱いている将兵や貴族達に対する楔となるはずだ。

 こちらの掲げる方針を拒みたくとも、虎の子であるテンペスタス達が失われた以上、西方海洋諸国や同盟を相手取るような武力が既にフォルガロにはない。彼我の戦力差は、嫌という程に昼間の戦闘で見せつけられているわけだし。


 そして……事態を収拾して話をつけられるのがコンスタンザ女王だけである以上、彼らには話を拒む選択肢がない、という事を意味している。その上でかなり温情のある対処をしようと考えているのだから、否応もあるまい。

 ここで弓を引けば、今度こそ一族郎党処断されて公国の土地も切り取り放題、などという事態になり得る。


「私達は城を調査し、過去の行いに関する証拠も見つけています。公国の独立そのものの正当性も失われるでしょう。しかし……はっきりさせておきたいのは、私も含め、ここにいる方々は皆、報復や混乱を望んでいるわけではない、という事です。咎に対する罰は必要な事ですが……。貴方がたも目にしたでしょう。あの、魔法生物達への鎮魂の祈りと魂の輝きを」


 コンスタンザ女王は悲しげな表情を浮かべた。


「暴走した魔法生物達は……作られた目的が戦いであったが故に残酷で好戦的でしたが……それは純粋さ故に、だったのだと思います。人の身勝手で作られ、間違いによって暴走し、そして私達と相容れない性質であったが故に戦いとなりました。境界公はそんな魔法生物達を憂い、魔法生物達の鎮魂を祈った」


 そう言って、何かに触れようとするように宙に手を伸ばすコンスタンザ女王。あの時の光景が……脳裏に浮かんでいるのかも知れない。


「しかしあの光を目にして……過ちを悔やみ、魔法生物達を悼んだ将兵がいた事も、私は知っています。この目で見てきました。ですから……徒に未来を断ち、事情を知らぬ妻や子、友人達が悲しむのを見るのは――忍びない。後の禍根とならないようにする手段であれば、幾つかの手立てがあります。何も血で贖う事ばかりが全てではないはず」


 コンスタンザ女王の言葉に、俯く騎士や貴族、研究員といった顔触れ。コンスタンザ女王がどういう思いから温情をかけようとしているのか、それは伝わっているだろうか。


 コンスタンザ女王は遠くを見ていた視線を正面に戻す。首都の皆を見据えて言葉を紡ぐ。


「公国の体制は……きっと今のままではいられないでしょう。主君の死を悼む気持ちや、体制の変化を不安に思う気持ちも分かります。しかし私の考えは先程も言った通り。首脳陣の行いを知らずに暮らしてきた民にも咎はありません。故に、民に関しては今までの生活が大きく変わるような事は避けようという考えで動いています」


 一旦言葉を切って、目を閉じる。そうして再び目を開くと、女王は言った。


「人の心は弱いもの……。時に揺らぎ、流され、魔が差す事もあるでしょう。確かに過ちはありました。それを見逃し、甘受してきた者がいるのも、傷付いた者がいるのも事実です。しかし……平穏を愛し、隣人を慈しみ、公正を願う。そんな気持ちはきっと誰の心にもあるはず。ですから……私が今日見た物を、信じさせて下さい。かつて同じ旗の下に集い、一度は袂を分かった我々ではありますが、これからの日々を平穏の内に、共に過ごせる事を望んでいます」


 コンスタンザ女王からの言葉はそこで終わる。やがて貴族や将兵達の間から、跪いて臣下の礼を示す者が出てきて……恭順の意を示していく。

 民衆達も女王の話を聞いて感じ入るものがあったのか、祈るような仕草を見せたり、貴族や将兵達に倣って跪いたりと……首都の者達にはこちらの方針は受け入れられたように思う。

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