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番外553 戦いの後の懸念を

 宝物庫には金銀財宝以外の所蔵品もあるが、これらの中には当然海賊行為による盗品が含まれていたり、奪った金品を元手に入手した品々が含まれているというわけだ。

 目録と共に実際の所蔵品を一通り見てみたが、魔法がかけられた武器防具等はあっても例えば八卦炉のように殊更取扱いに注意しなければならないような危険な物品はないようだ。宝物庫の中身は証拠品でもあり、西方海洋諸国に返すべき盗品と、支払うべき補償金の原資になる物でもある。


 ガステルム王国としては、直轄地とした後に領地運営もしていかなければならない。インフラ整備に人件費等々……何かと入り用になるのは間違いない。

 出自の分かっている盗品は返還し、ここから資金を捻出して、税と貿易で得た収益を上げ、ガステルム自体には無理の出ないように補償を進めていくというわけだ。


 今までの蓄財でどの程度賄えて、どの程度まで補償が進められるのか。それらは精査しなければ何とも言えないが、俺のしなければならない事からはもう外れるか。まあ……自分から首を突っ込んだからにはその他の事で手伝いはするが。


 具体的には……首都から出払っているステルス船への対応。転移設備の建造、首都滞在中の重要人物の身辺警護あたりか。


「……証拠品集めと国庫の実情の確認についてはこんなところでしょうか。これから今後の方針を通達しなければなりません」


 宝物庫を出たところでコンスタンザ女王が言う。

 貴族と将兵達の処遇。それから住民達への今後の話か。

 今後の暮らしや治安にあまり影響が出ないようにすると通達するわけだから、住民達にとっては不安の払拭に繋がる話、で済むのだが……貴族や将兵達は反応を注視しておかないといけない。


 まあ……首都にいた兵力はかなりの数が船団で出撃し、テンペスタスの暴走や鎮魂の祈りの場に居合わせているので……エイヴリルの見立てによれば協力的な心情の者がかなり多いらしい。


「通達中は僕達で護衛に付きます。注意すべき人物もその折に見て行きたいところですね」

「それは心強いお話です」


 と、コンスタンザ女王は相好を崩すも、すぐにまた表情を真剣なものに戻して言葉を続ける。


「ああ。それともう一点、お話を詰めておきたい部分があります。色々事情をお聞きしましたが、まだ戻ってきていない隠密船に乗っている魚人族の方について懸念をしております」

「そうですね。今現在首都から出払っている隠密船は2隻、乗っている魚人族は計4人、というのが既に判明しています。公国についての情報がどこかで伝わると、彼らが逃走を図る可能性があります。補給無しでは逃走や海賊行為等々、続けていくにも限界があるとは思いますが……」


 その対応策、だな。戻って来るのをただ待つというのは運任せに過ぎる。


「投降しても任務であった以上は温情のある扱いを……と考えていますが、それだけでは確実ではないと思うのです」


 コンスタンザ女王としては、フォルガロの将兵や貴族の扱いを詳らかにする事で投降しても徒に命を奪うような事はない、と明確にしていく方針のようではあるが……それだけではな。彼らが任務中にフォルガロの情報を得られないような運の良い状況だとか、善性や保身から大人しく投降を期待する形になってしまって確実性が足りない。


「それについては対策も一応考えていました。今現在、隠密船に乗っている人員の名前や出自といった情報、その他触媒が揃えられる状況にあります。ですので、遠方から術式を飛ばして伝言を聞かせつつ、従わない場合は実力行使で攻撃を行うという事が可能です」


 俺の言葉に、エレナが静かに頷く。

 エレナはすぐに察しがついたようだが、要するに呪法だな。

 名前や出自と……後は本人の髪の毛等々、繋がりのある物があれば所在のはっきりしない相手に向けて呪法を飛ばす事が可能だ。


 逃亡中のスティーヴン達が、ザナエルクやディアドーラ達にされていたのと同じような方法である。


 勿論、今回は殺傷が目的ではないので、飛ばす呪法の内容も目的に即したものになるだろうけれど、これで出払っている工作員の逃亡や抵抗、証拠隠滅の為に深みの魚人族への攻撃を、といった行動を防ぐ事が可能となるだろう。


「現状であればこれを応用し、隷属魔法の性質を利用する事もできますね。例えば船に乗っている深みの魚人族にも同じような方法で術式を飛ばし、今現在の彼らの最高指揮官に当たる人物の命令を伝えるわけです。それにより深みの魚人族は、隠密船に乗っている工作員達の命令を聞く必要がなくなり、彼ら自身の判断で帰還、或いはグロウフォニカ王国やガステルム王国に保護を求めるといった行動も可能となるでしょう」


 隷属魔法の性質を利用して行動の自由を与える。この方法は今ならば取れる手だな。指揮官に該当する人物の説得と協力、並行して伝言の確度を高めるための情報周知が必要となるが、この状況なら難しい事ではない。


 魔道具でやったように直接的に隷属魔法を呪法で阻害する事もできるだろう。

 但しこの場合、条件付けされた結界線に直接触れるというわけではないから、呪法の干渉力に違いが出るのがネックだ。

 呪法に関してはまだ覚えたばかりだが、発動条件を満たすのが難しいだとか、縛りがあるほど強力になったりするようで。後は術者本人の実力の他にも怒りや憎悪のような、呪うに足る動機があると効力を増す。復讐であるとか、正当性があれば更に歪みも少なくなるらしいが。


 まあ……いずれにしてもまだ隷属魔法から解放されていない4人――グロウフォニカで保護されている2人を含めれば6人だが――の深みの魚人族に関しては、フォルガロの船団を迎え撃つ準備が優先されたために対応をやや後回しにせざるを得なかったところがある。

 とはいえ、コンスタンザ女王も懸念を示してくれているしな。戦いに勝って目の前に迫っていた危険が無くなった以上は、より安全で確実性の増す方法を検討しつつも、早めに万全の対応を取っていくべきだろう。


 俺の説明を聞いたコンスタンザ女王は満足げに笑みを浮かべる。


「なるほど……。では、私にもできる事がありそうですね」

「はい。工作員の指揮者に該当する人物からの協力を求めるには、陛下のお力も借りなければなりません」

「勿論です」

「お二方のお心遣い……。感謝致しますぞ」


 そんなやり取りを見て、俺とコンスタンザ女王に頭を下げてくる長老と戦士長。


「力を尽くしましょう。これは私の果たすべき責務でもありますから」


 と、静かに微笑みながらも決意めいたものを感じさせるコンスタンザ女王である。


「ああ。それから……今後の事を考えると事務用の魔道具が入り用になるかと思います。それも陛下にお譲りしたいと考えています」

「事務用品、ですか?」


 と、目を瞬かせるコンスタンザ女王である。


「押印機や計算機といった品々ですね。書類の決裁や、収支の計算を補助する魔道具で……事務仕事や執務が効率的になるかなと」

「事務方用に少し数を揃えてお渡しした方が良いかもね」


 アルバートが言う。そうだな。戦後処理に携わるのはコンスタンザ女王だけではないし。


「あれは……良いな。実に良い」

「時間が空いた分、他の事にも手が回るからな」


 と、レアンドル王やイグナード王もしみじみと頷いていた。押印機や計算機について掻い摘んで説明すると、コンスタンザ女王が驚いたような表情を浮かべる。


「それは何とも素晴らしい……! いや、しかし、今後の我が国にとっては、実に心強いのですが、そんな素晴らしい品を対価も無く受け取ってしまうわけには参りません」


 また、コンスタンザ女王も義理堅い事だ。こちらとしては事件に首を突っ込んでおきながら戦後処理であまりできる事がないからとも思っていたのだが。まあ、気後れするというのなら、戦後処理に関わる事務方用の分は割安で売るということにするのが良いだろう。迷宮商会の今後の販促にもなるしな。

 そんな風に提案すると、今度こそコンスタンザ女王は表情を明るくして喜んでくれた。


「礼を言います。では――この後の通達に関しても気合を入れて参りますね」


 うむ……。コンスタンザ女王のモチベーションが上がったようであれば何よりだ。

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