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番外552 公国の宝物庫

「重点的に探す場所としては――寝室や書斎のような公王に関わりの深い生活空間。それから執務室と宝物庫かな。魔力反応……魔法の罠があるかも知れないから、最初に俺とコルリスでざっと調べてから機械的な仕掛けを探していこう」


 城の中を移動しながら俺がそう言うと、コルリスは鼻をひくひくとさせながら頷いた。


「コルリスは魔力を嗅覚で感じられるのです」


 と、同行しているコンスタンザ女王に説明をするステファニアである。


「そうなのですか。ベリルモールのお話は聞いたことがあるのですが、何分海洋国家ですので、本物を見るのは初めてです」


 コンスタンザ女王は興味深そうにコルリスの背中に触れたりしていた。


「魔法研究棟にも魔法の罠が用いられてはいたようじゃがな。侵入者の検知と連動した警報装置が主体であったようじゃ。まあ……魔法生物が暴れた時点でそれも意味のない物になってしまっておるわけじゃが」


 先行して城を調べていたお祖父さんが教えてくれる。やはりその手の罠があったか。シーカーに無理をさせなくて正解だったとは思う。


「研究棟からは証拠となる資料の他にも、魔法の触媒や魔物の素材も中々のものが見つかっておりますぞ。買い取り先が必要ならば、我ら賢者の学連もそうですが冒険者ギルドからも需要があるかと思います」

「売却処分の折には、冒険者ギルドにも声をかければガステルム王国との関係も良くなりそうではあるな」


 七家の長老――エミールの言葉にレアンドル王が相好を崩す。


「良いお考えですね。状況が落ち着いたらそのように通達をしたいと思います」


 と、コンスタンザ女王も笑みを浮かべていた。


「触媒や素材は信用できる相手に売るのが良いとして……調度品や美術品に関してはあまり利用法に関する心配もありませんから、競売にかけるというのも良いかも知れませんね」


 俺がそう言うと……面白そうだと王達も頷いていた。金を持つ者が足を運んでくれるのなら付随して経済効果も見込めるだろう。

 そうして、先程挙げた重要ポイントをあちこち調べて回っていく。隠し部屋等々も見逃さないようにと、旧マルティネス邸を調べた時のようにウィズに立体地図も作成してもらう。これなら不自然な空間があれば判別がつくからな。


 そうして調べていくと、公王家が避難する際に使うと思しき隠し通路やらも見つける事ができた。まあ、こうした秘密の通路やらは城には付き物ではあるとは思うのだが、偽装された古井戸に出られるだけでこちらは特に問題はない。

 執務室や寝室を調べた後に今度は公王の書斎に場所を移すと――コルリスが書棚の一部に何やら魔力反応を見つけたようだ。こちらを見ながら書棚を爪の先で指差してくる。


「不自然な反応を見つけたようですね」


 というと、みんなの視線が集まった。

 魔力反応は本の後ろから。手前にある本を抜き取り書棚の背板を調べると、スライドさせられる部分があって……そこを開いてみると金属板が壁に埋め込まれていた。金属板には0から9までの数字が刻印された押しボタンがあって……。これは暗証番号を入力しろという類の装置か。


「中々厄介なものよな。番号を間違えると何か不都合があるかも知れぬぞ」


 エルドレーネ女王が言う。


「機能しないようにしてしまえば解析もできるかなと」


 そう言って、まずは封印術を叩き込んでしまう。これなら動作を停止させられるので不都合も生じないし解析も簡単だ。

 魔力ソナーを撃ち込み、構造を確認。ウロボロスに組み込まれたオリハルコンで波長を合わせて内部に組み込まれている魔石の術式を解析。やはり……番号を連続で間違えると不都合があるようだ。金属板は隠し金庫の扉のようなもので……番号を3回連続で間違えたり無理矢理こじ開けようとすると警報装置が鳴り……然るべき操作をしないと内部の物を火魔法で焼却する仕組みになっているらしい。


 大体の仕組みも現在設定されている番号も判明したので、封印術を解いてから5ケタの暗証番号を打ち込む。


「これで、魔石からの指示がミスリル銀線を伝って――金属板が開く、と」

「流石はテオドール公」


 シュンカイ帝も笑みを浮かべてそんな風に言ってくれた。


「恐縮です」


 応えながら隠し金庫を開くと、その中には何やら書物や書類の類が収められていた。

 金庫の中には魔石が組み込まれた金属の鍵もあったが……火魔法ではこれは焼却できまい。


「宝物庫の鍵は公王が管理していると使用人達からは証言を得ています。恐らく宝物庫の鍵ではないかしら?」


 オーレリア女王が言った。なるほどな……。では、書物や書類は何なのか。早速みんなで手分けして見て行く。


「……ああ。裏帳簿ね、これは。金銭の管理や表沙汰にできない研究やらの資金繰りをしやすくするため、かしら?」


 帳簿の内容を見ていたローズマリーが薄く笑う。執務室で見つけた表の帳簿と照らし合わせて、こことここの数字が一致している、と分かりやすく示してくれる。

 海賊行為で得た収益を王家の私有財産として計上して、公的に使える国庫に出し入れしたり、ポケットマネーで魔法研究しているという名目で金を出したりしているわけだ。


 アダルベルトの代だけでなく、かなり昔の代の帳簿もある。昔から同じような方法を取っていたらしく、入金の日付と深みの魚人族が偽装海賊として作戦行動に参加した時期を照らし合わせると……これも符合してくる。

 書類の方は偽装海賊任務の結果報告等も含まれていて、そこから入金として資産に計上しているわけだ。不正をチェックする第三者機関など存在しているわけもないから、やはりローズマリーの言うとおり、金銭的な管理をしやすくするためのものだろう。


「ん。動かぬ証拠」

「これと表の帳簿を合わせて見て行けば、フォルガロの本当の台所事情が分かるというわけね」


 シーラの言葉に頷いて、クラウディアがやや呆れたように目を閉じて肩を竦めた。

 書類の中には宝物庫の目録もあるが、これも2種類存在しているのが分かった。

 裏帳簿に記載された自称「公王家の財産」とやらも宝物庫に収められているわけだ。鍵を管理するのが公王自身なら宝物庫に立ち入れるのも本人だけだろうしな。


「何というか……海賊行為で得た資金を元手に資金繰りをして、貿易で儲けを出したりもしているようですね……」


 アシュレイが過去の裏帳簿を見ながら少し困惑したような表情で言う。


「台所事情に余裕があるなら、補償もしやすくなる、かしら」

「そうだとすれば、今後の苦労も減りますね」


 イルムヒルトの言葉にグレイスが思案しながら言うと、マルレーンも神妙な面持ちで頷いていた。


「前の代の公王とアダルベルトが即位してからは……軍備増強や魔法研究での出費の方が多いな」


 興味の方向が代々の公王で違うようだが、蓄財にしても領土的野心にしても、俗っぽいというか何というか。まあ……後は宝物庫に行って実際のところを見せて貰おう。


 みんなで連れ立って書斎から移動。宝物庫へと向かう。金庫の中にあった鍵を宝物庫の扉の鍵穴に差し込み捻ると、魔石から魔力が扉へと走り、ゆっくりと巨大な扉が開いていく。


 魔力反応等々は見られるが……収められている物品から放たれているようだ。内部を見てみると……そこには中々に非常識な光景があった。


「ああ……。これはまた呆れたものだ」


 という、ファリード王の声。かなり引いているのが声色から分かる。魔法の品はまあ、良い。それらも処分可能なものは競売にかけるなりすれば相当な額になるだろうが……問題はそこではない。

 全てに金貨が詰まっているらしき皮袋や宝箱、更に整然と積み上げられた金のインゴットやらが山と収められていたのだ。更には宝石に貴金属等々……。2種類の帳簿から予想はしていたが……随分とまあ、貯め込んだものだ。


 王様達はそれぞれ国庫を管理する立場なので、金に目がくらむという反応ではないのは当然だろう。……総じて呆れている印象なのは為政者だからな。


「代々不正な蓄財を重ねてきた結果か。各国への補償を行えばこれの大半も消えるのであろうが」


 イグナード王がかぶりを振った。コンスタンザ女王も溜息を吐いてから宣言した。


「今……この場にいる皆様が証人です。財産の量も帳簿で把握できておりますし、この不正な蓄財を各国の補償に充てる事をお約束します。補償に関しては情報の透明性を高くしていきましょう」


 そうだな……。実物と帳簿をきっちりと照会して確認したわけではないが、財宝の量も帳簿で判明しているわけだし。こうして宣言してくれたからには、俺達も安心してコンスタンザ女王に任せられるというものだ。

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