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番外551 首都での後始末

 そうして、俺達は予定していた時刻には首都に辿り着く。船団の将兵達に城には立ち入らないようにと通達をしつつ、飛行船を城に向かわせる。

 シリウス号と姉妹船が並んでいる光景にフォルガロ公国の住民や将兵達は目を丸くしていた。


「お待たせしました」

「かなりの激戦だったようですね。テンペスタスから強い力を感じたから心配していたけれど、無事で何よりだわ」

「おお、テオドール! 顔を見て安心したぞ」

「鎮魂の祈り、見ていましたよ。ご苦労様でした」


 まずはオーレリア女王達やお祖父さん達、顕現していたティエーラやコルティエーラ、四大精霊王達と合流する。

 飛行船を並べて甲板から挨拶をすると、お祖父さんと七家の長老達、四大精霊王の面々はシリウス号側に移ってきて身体の調子は大丈夫なのかと、ハグされたり撫でられたりしてしまった。みんなもその光景を微笑ましそうに見ていたりするが……。


「ええ、まあ……。多少の怪我はありましたがアシュレイの治癒魔法でこの通りです」


 と、苦笑して答えるとみんなも納得してくれたようだ。

 挨拶もそこそこに、現状報告に移る。


「城にも被害が出たので、証拠隠滅の防止も兼ねて貴族達はあちらの屋敷に。使用人、役人や研究者といった面々はあの屋敷とあの屋敷に隔離中です。怪我人は――神殿に集められて手当を受けているところですね。報告した通りポーションを提供しています。エリオット伯爵も神殿で治療の手伝いをしていますよ」

「将兵に関しては今も魔法生物達の暴走の後始末全般を行っている最中ですが、休む場合は軍港や城から離れた詰所を利用するようにと通達済みです」


 シルヴァトリアの魔法騎士……エギールとグスタフが、屋敷や施設の場所を示しながら説明してくれた。エリオットはフォルカというシルヴァトリアの魔法騎士と共に神殿で治療の手伝いをしているそうだ。フォルカは治癒魔法を使えないが、エリオットの護衛で同行しているという話である。


 この辺は移動中に打ち合わせた通りだ。船から降りてきた将兵達も既に瓦礫の撤去作業等々に加わっている。


 首都にいた面々の反応については……住民達は救援に来た俺達に概ね好意的であるらしいし、貴族や城で働いていた顔触れについてはオーレリア女王や長老達の大魔法連発を見てすっかり腰が引けているそうで。


 ともあれ、移動中話し合ってきた事の方向性に沿うように、あれこれと手を進めておく事が必要だ。


「僕達は予定通りに動きます」

「人手も増えましたからね。手分けして動いていきましょうか」


 俺の言葉に、オーレリア女王が頷く。

 俺達はまず神殿に向かい、怪我人の治療を手伝うと共に転移ができるように手筈を整えてくる。住民のこちらへの印象が良くなれば以後の治安も落ち着くし、転移魔法も万が一の場合を考えれば必要な事だ。


 フォルガロはガステルム王家直轄地という扱いになりそうな見通しだし、首都への転移設備については後で正式な物を作る事になるだろうから、それまでの繋ぎというか、保険ではあるのだが。


 城の証拠集めは皆に手分けしてもらう事で並行して進めるが……カドケウスを連れて行ってもらうか。状況を見ておけば対応しやすくなるし、隷属魔法の魔道具もフォルガロ側からは回収しておかないといけないからな。

 密かに隷属魔法の魔道具を城から奪取していた、と言い張っておけば、俺の不正規解除の術式や、瞳を使って隷属魔法を解除したという偽情報も時系列を偽ることで誤魔化す事ができる。


 というわけで、飛行船ごと街中を動く。やや大袈裟だし物々しいが、まだまだ首都は落ち着いていないからVIPが乗っている以上は必要な措置だろう。


 まずは月神殿へ向かう。少し離れたところに停泊させて余剰のポーションと魔道具を持ってタラップを降りると、神官長と巫女頭が俺達を迎えてくれた。まずは代表として名前を名乗り、挨拶を行うと同時に用向きを伝える。


「怪我人が運ばれているとお聞きしまして、追加の薬品類と魔道具を持ってきました」

「おお……。それは助かります。色々混乱していて不安も広がっていたのですが、先程やってきた騎士殿も親切にして下さいましたし、皆もその話を聞けば喜びましょう」

「私も治癒魔法が使えるのでお手伝いできる事もあるかと思います。兄が先に月神殿に来ているかと思うのですが」

「おお……。それは有り難い。あの騎士殿の妹君でしたか」


 アシュレイが申し出ると、神官長は相好を崩していた。




 というわけでクラウディアの魔法を用いて転移ができるように準備を整え、俺とアシュレイ、エリオットで手分けして怪我人に治癒魔法を施していく。


「ありがとう、お兄ちゃん!」

「痛みが引いてく……。魔法って凄いんですね」


 と、住民から感謝の言葉を受けたりして、忙しいが充実した時間だった。フォルガロの治癒魔術師や神殿の巫女達も協力してくれたので、怪我人に関してはそれから程無くして一通り処置が終わった。

 体力回復の魔道具は今後状況が落ち着くまでは何かと入り用だろうからと、月神殿に寄贈すると伝えると随分と感謝された。


 怪我人の治療が終わったところで、続いて城へ移動する。

 隔離中のフォルガロの貴族達や城務めの者達、将兵の中にはまだ諦めていない者がいるかも知れない。それらの確認や今後の事の通達については……城での証拠集めの後だ。言い逃れのできないようにしておいた方が諸々スムーズになるからな。




 城の様子は……あちこち破壊されているが攻撃された施設に関しては限定されているようだ。魔法生物達は守護獣として練兵場や広場等々に配置されていたようだが、暴走と同時に主に戦闘員に対して集中して攻撃を仕掛けたらしい。


 つまり兵舎や詰め所、監視塔のように将兵達がいる所や、冒険者達を優先しての攻撃。

 俺達の事もあって元々警戒態勢だった将兵達は戸惑いつつも応戦する事は一応出来たようだが、何分魔法生物達は空を飛びながら遠距離攻撃ができるので段々と追い詰められていった。


 冒険者達もそうした突然の襲撃には慣れているというのもあって、防戦一方ではあったが中々上手く立ち回っていたらしい。そこにオーレリア女王達が駆けつけてきたというわけだ。


 初動が早かったので人的被害はかなり抑えられたようではある。そうでなければ怪我人はもっと増えて、その度合いも深刻になっていただろう。


 そんなわけで城は無事なところとそうでないところと綺麗に分かれていた。

 魔法の研究施設は攻撃を受けた側だが、研究者は戦闘員ではなかったので無理をせずに将兵達に守られて逃げたようで……内部の資料等々は無傷だ。研究そのものは破棄することになるだろうが、資料に関しては証拠としての価値がある。


 重点的に調査するべき場所としては、そうした魔法研究施設だけでなく公王家の生活空間もだろう。こちらは城の奥に位置しているので幸いな事に無傷だ。城の外周部では迎撃戦が行われたので破壊の痕が残っていたりするが。

 


「不要な調度品は処分して補償金に充てるのが良いでしょうね」


 と、城の中を見てコンスタンザ女王が言う。そうだな。花瓶やら絵画やらの美術品や豪奢な絨毯等々……。こうした調度品も元はと言えば海賊行為で得た資金が形を変えた物だろう。ガステルム王家直轄地となるのであれば、権勢を示す事を意識した調度品は必要がなくなるので換金してしまうのがいい。


「そうですね。調度品の目的を考えれば、公王家の私財というよりは、公国の財産としての扱いになるのでしょうし」


 俺の言葉にコンスタンザ女王は頷く。城の回廊を歩きながらコンスタンザ女王は遠くを見るような目になった。


「アダルベルトは若い頃から魔術に明け暮れていたそうで……そのせいで跡継ぎがまだいないはず。公王家は独立の無効により公爵家に戻り、その上で爵位を剥奪する事になるのでしょうが……血族や重鎮らは、明確な咎無き者ならば誓約をしてもらった上で蟄居とするのが良いのかも知れません。野心を捨て、贅沢もしないのであれば……家族で静かに生きる道も作れるでしょう」


 コンスタンザ女王の考えている方針は……事件に関わっていないか精査するという条件付きではあるが、公王家や重鎮達の家族に対しては、かなりの温情判決だと言える。

 後になって担ぎ出されないように誓約魔法も使う事になるだろう。公王家の罪状は周知されるから担ぐ相手としても不適当ではあるが……。まあ、そのために城の奥や宝物庫を確認していくとしよう。

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