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番外546 緒戦の行方は

 回転する要塞外壁と結界壁に、押し流されるように動かされる敵飛行部隊。外壁や結界にぶつかったと言っても、それが直接大ダメージになるというわけではないが……大質量と広範囲による力技で巻き込んだ敵飛行部隊を無理矢理押し流す事は可能だ。


 結果――要塞の正面と裏面が入れ替わる。1番、2番区画がフォルガロの船団に相対するように正面にあったのが、裏門のあった4番、5番区画がぐるりと正面に来て、敵飛行部隊は、要塞を挟んで分断されていた。


 要塞内部に突入した連中も含めれば内部、正門、裏門側に分断された格好だ。


「ちっ! 合流を――!?」


 当然、空が飛べて機動力と小回りに優れる飛行部隊。閉じ込められていないなら戦闘を回避して合流しようと試みるが――。


 分断を待っていたというように、要塞のあちこちから金色に輝く小さな何かが無数に飛び出す。

 金色の何か――。それは握りこぶし程の大きさを持つ蜜蜂――アピラシアの兵隊蜂達だ。

 飛び出すなり統率のとれた一糸乱れぬ編隊飛行を行ったかと思うと、陣形を組むように空中に展開する。


「何の冗談だ、ありゃあ……」

「蜂……。蜜蜂か。あれは」


 フォルガロの騎士が言った。そうだろうな。兵隊蜂は明らかに自然のものではないのだし。

 金色のオーラを全身から漂わせているのもそうだが――例えるなら軍隊か冒険者の集団のように、完璧に役割分担されているのが明らかなのだ。

 槍や盾、剣、斧といった武器を持つ前衛の蜂達。その背後に弓や杖を持つ蜂達がいて、一番奥に神官風の帽子を被ったような蜂達が陣取る。


 前衛に戦士達、中衛に射手と魔術師、後衛に治癒術師という編成だ。


 武装した蜜蜂達の姿はコミカルにも映るだろうが……そんな生易しいものではないというのは、あの完璧に統制がとれた動きを見ればわかる。


 弾丸のような速度で飛び出し、要塞側の射撃が届かない空域――分断された敵部隊が通りたいであろう空間を埋めるように展開。兵隊蜂達の狙いは、分断した敵を合流させない事だ。それを隠そうともしない。


 騎士達は――どう動くか。自分達より小回りの利く相手。しかも多勢に無勢。

 分断された部隊の規模では門を攻略するには分が悪い。だから当然、銃座から射撃を食らう空間を避け、要塞と結界を迂回するように高度を上げれば――兵隊蜂達がその動きに合わせて動く。


 騎士達は顔を見合わせて逡巡した後、この場に留まっていても拙いと、蜂達を突破する事を決断したらしい。各々の背後をカバーできるように編隊を組んで、比較的防御の薄そうに見える空間に突っ込んでいく。


「放て!」


 騎士達は呼吸を合わせて闘気弾と魔力弾を放つが、蜂達は各々が身体1つ分横にずらすような、最小、高速の動きで回避する。その動きがそのまま包囲するような動きに繋がる。蜂故の統率された動き。


 お返しとばかりに中衛の弓蜂が矢を浴びせてくる。

 蜂と言えば毒。そんな単語が頭を過ぎるのだろう。闘気を大きく噴出させて無数の矢を切り払う騎士達。動きの僅かな乱れに合わせて前衛の蜂達が突っ込む。


「邪魔だ!」


 先陣を切って羽音を立てながら迫る蜂を、騎士は闘気を纏った槍の柄で払おうとするが――。

 一匹の蜂が武器を合わせ、それで一瞬拮抗する。闘気を纏った騎士の一撃は、一匹の蜂を振り抜いて吹き飛ばすことができなかったのだ。信じられないという表情を浮かべるよりも速く、二匹目、三匹目の蜂達が騎士の槍に取り縋ると、吹き飛ばすどころか逆に騎士の方が力任せに押し込まれた。


「うっ、おおっ!?」


 三匹がかりで槍を掴まれ、振り回されて。騎士は空中に投げ出されていた。そして、見る。遠くの間合いから魔術師蜂が杖を振り上げるのを。火球――そう、火球だ。頭上に振りかぶった火球を、迷いなく杖を振って放ってくる。闘気を纏ってそれを凌ぐ構えの騎士。


 着弾した瞬間。火球がサイズに見合わない爆裂を起こした。


「ぐはっ!?」


 爆圧に身を晒されて、煙を上げながら氷の足場に落ちていく騎士。ぎりぎりで体勢を立て直して着地したところに――蜂達が五匹ほどで騎士の後頭部、背中、肩、腰あたりに高速で突っ込んできて容赦のない蹴りを見舞っていた。高速で突っ込んできたのに命中したのは綺麗に同じタイミングだ。凄まじい衝撃を受けた騎士が氷の足場の上を滑っていって動かなくなった。


 火傷や裂傷の痕は再生しているようだが、完全に白目を剥いている。意識を失ってしまっては戦闘の続行は不可能だ。要塞外壁の切れ込みから働き蜂が飛び出し、戦列に復帰されないようにクリアブラッドの魔道具を用いて戦闘薬の効果を薄れさせると、それに合わせて再生も止まる。よし。これならば問題ない。


 騎士を乗せていた飛行型の魔法生物は――地上に落ちた騎士を助けに向かうように突っ込んできたが……騎士が意識を失うのと同時に空中で動きを止めている。

 外壁から魔力反応を見せてもらっていたが、どうも乗せている騎士と魔術的な繋がりを構築することで手足のように扱うことができるようだ。


 騎兵としては非常に息の合った動きをしていたが……。そうか。人間側が制御して、エイ自身は自意識を持たないタイプの魔法生物というわけか。


「騎士が意識を失うと、担当している魔法生物も命令待ちになって動きを止めるみたいだな。首都では大量の魔法生物がかなり統率された動きをしていたから――。アダルベルトなら全体に命令できるんだろう」


 カドケウスの通信機でも各所に連絡を回す。騎士は意識を刈り取るなどして戦闘能力を奪い、後はクリアブラッドで戦闘薬の効果を解除すればいい。魔法生物は騎士が止まれば止まるが――。アダルベルトの視界内ではコントロールを取り戻す事ができるだろうから油断できないな。




 ハイダーからの要塞内部の映像では――門への攻撃は自分達に跳ね返ると分かったのか、騎士達はとりあえず門を破って外に出ようとする試みを諦めたようだ。

 その間も通路の曲がり角から散発的な射撃を行う事で、内部に入った連中を休ませない。


「ちっ! 内部に誘い込んでもちまちまと、鬱陶しい!」


 氷の弾丸を弾きながら騎士が苛立ったように吠える。

 正門から入ってすぐ内側は広間になっているが通路側は天井が低い。

 空を飛ぶ事の利点を潰し、閉鎖空間での戦いに巻き込めるように、という……連中を相手取る事を想定した作りになっている。広間からの通路は4方向に分かれているが、全てマジックミラーの回廊に通じている。


「どうする? このままここにいても埒が明かない。内部から射手のいるところを目指して引っ掻き回すのが正解なんじゃないのか?」

「内部構造も分からないのに、この規模で仕掛けるというのか……? それは危険性が高過ぎる」


 ま、結局どの方向を選んでもここからでは1番、2番区画の銃座には踏み入る事はできないのだが。零番区画を通して地下階を移動しないと銃座エリアには到達できない作りなのだ。


 騎士達は騙されたばかりなので、狭い通路側に進んで数の利点が封じられるのを嫌って、奥に進む踏ん切りがつかないようだな。回転して裏門側に連れてこられたとしても、脱出や救助に最も近いのがこの場所であるのは変わらないし。


 だが、そんな内部での停滞は許さないし、そうした動きも想定内だ。メダルゴーレムが入口広間の天井を、ゆっくりと下降させる。


「冗談だろ……?」

「吊天井――いや、この場所に留めさせない為か……!」


 罠の動きとしては緩慢。味方には安全だが内部構造を知らない敵には決断を迫るものだ。騎士達は結局右手側――銃座のある方向に向かえそうな通路を選んで進む。


「どうなっているんだ、この要塞はッ!」


 悪態を吐く最後尾の男はまだ広間に未練があるようだった。仲間に早くしろと促されて、門を見ながら通路側に進もうとするが――。


「は――?」


 通路に通じる扉がいきなり閉ざされる。労せず騎士一人と魔法生物一体を分断できたわけだ。


「ふ、ふざけるな!」


 闘気を纏った槍の一撃を突き込むが、扉には傷一つつかない。代わりに天井の下降が止まり、広間に別の通路の奥からブロウスとオルシーヴが姿を現す。騎士はブロウスとオルシーヴを絶望的な表情で見やってから激昂した。


「な、なんなのだこの場所は! まともに戦うつもりはないのか!? お前達は自分達を戦士の一族だと言っていただろうが!?」


 喚く騎士に、ブロウスはつまらない物を見るような目を向ける。


「あの方は……お前達のような者を相手に俺達が傷つかないようにと心を砕いてくれていてな。戦いというよりは狩りをするように、と仰っていたが……。それを抜きにしても、正面から互いに策を練るのは当然の事。そんな事は互いに承知しているものと思っていたが?」

「我らの事を知っていながら戦いを止めない輩には相応しい扱いだな。だが、騎士と魔法生物。互いに一対一なら文句はあるまい? 薬物にも頼っているのだろうしな」


 そう言って、ブロウスとオルシーヴが槍を構える。その光景を見て――騎士は咆哮を上げながら魔法生物と共に突っ込んでくる。

 ブロウスは闘気を漲らせて正面から槍と打ち合う。オルシーヴは水球を自分の周囲に浮かべて、魔法生物との遠距離戦だ。


 闘気を纏い、細かな刺突を繰り出す騎士に、闘気を漲らせたブロウスが応じる。穂先を合わせれば幾つもの金属音が響き渡った。打ち――負けない。闘気のぶつかり合いで戦闘薬という補助を得ている騎士を相手にして尚、ブロウスは下がる事なく切り結ぶ。


 騎士は――確かにフォルガロの精鋭なのだろう。

 しかしフォルガロの尖兵として扱われ、生き延びるために技を磨いてきた魚人達と、その裏の安全なところで深みの魚人族の力を借りて、本当の戦いを知らずにぬくぬくとして来た連中とでは、気迫が違う。実戦での心構えが違う。


 打ち合い、巻き上げて槍を弾けば騎士のガードが上がる。踏み込むようにブロウスが間合いを詰めれば、騎士は必死の形相で闘気による防御の構えを見せた。しかし、下段から打ちかかるような動きを見せたブロウスが放ったのは、小さな光の玉だった。


 動きから視線を誘導。小さな光の玉が強烈な閃光となって弾ける。


「ぐっ!?」


 顔を押さえてよろける騎士。闘気も再生能力も役に立たない術だ。

 ブロウスが三又の槍で騎士の槍の穂先を押さえ、尻尾を床に立てて、それを支点に強烈な回し蹴りを見舞う。

 目潰しを食らって槍の動きを封じられた騎士に、それを避ける事は出来ない。側頭部にブロウスの回し蹴りをまともに食らって真横に吹っ飛んでいた。


「今ッ!」


 距離を取って弾幕を撃ち合っていたオルシーヴであったが、一瞬動きを止めた魔法生物に、水の鞭が叩きつけられる。直撃。主従共々吹っ飛んで広間の壁に激突する。


「行けるな」

「ああ。一対一ならば、このような連中に遅れは取らん」


 そう言って、ブロウスとオルシーヴは互いの掌と掌をぶつけて小気味の良い音を響かせた。

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