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番外541 海上の氷結要塞

 明くる日――。少し遅めの時間に目を覚ましてからすぐに動き出す事となった。

 朝食の準備をしながら、まずは敵の動向をチェックする。

 昨晩はマクスウェルとアルクスが、俺達を気遣ってくれて潜入したシーカーのモニターを見ていてくれた。すぐさま打って出るだとか、奇襲部隊を差し向けるだとかそういった動きがあれば起こして欲しいと言っていたが、今のところはそう言った事もないようで。


「ああ、マクスウェル、アルクス。夜間の見張りありがとう」

「何の。重要な仕事を任され、アルクス共々嬉しく思っていた」

「代行殿達の昨晩の疲れはとれたでしょうか?」


 核を明滅させるマクスウェルと、笑顔を見せるアルクスである。


「うん。ゆっくり休ませてもらったからね」

「それは何よりだ」

「では報告を」


 と、マクスウェルとアルクスが朝までの敵の動きを報告してくれる。


「朝になって、首都の住民に魔法生物は我らの守護獣だから安心するように、と通達と布告がなされていた」

「昨晩の大規模な魔法攻撃を受け、臨戦態勢に入る事も兵士達が通達しておりました。武器や食糧を港側に運んで、開戦の準備を進めている模様です」

「敵の動きは……打って出る気があるように見えるわね」


 ステファニアが言う。


「そうだね。仮に攻める姿勢が見せかけだけで、戦力結集までの時間を稼ぐつもりだとしても、こっちから仕掛けていっても良いわけだし」


 通常戦力の結集というのは、グロウフォニカや西方海洋諸国連合に対抗するのを視野に入れた話だな。


 海溝への攻撃に使える手札としては基本的に通常戦力は除外される。

 つまり、通常戦力の結集そのものは深みの魚人族にとってそこまで脅威にはならない。魔法生物部隊が主体になるだろうから、安心というわけではないが。

 それに、みすみす他国との開戦準備をさせるつもりもないけれど。

 そう言った考えや見通しも、みんなに説明すると、真剣な面持ちで頷く。


「代行殿、エレナ殿下。私自身の重要性は重々理解していますが……もしもの場合は力を使う事を許可して頂けないでしょうか?」


 と、アルクスが尋ねてくる。力を使う事。アルクスの言うそれは、深層のガーディアンであるパラディン本体を召喚、起動させる事を意味している。

 日常生活用の器は確かに大きな戦闘能力を持たないが……それだけではない。迷宮管理者側の許可があればそうした行動をとる事が出来る。


「私は――異論ありません。アルクスの優しさを嬉しく思います」


 エレナが俺の顔を見て真剣な表情で言う。


「そうだね。危機が迫った時は皆を守ってやってほしい。それなら派手な立ち回りになるってこともないだろうし」


 フォルガロとの戦闘の一局面が、後々に魔界の扉の防衛に影響する可能性があるかと言われたら……それは限りなく低いだろうと思う。パラディンの能力をフルに活用して飛び回って暴れるような、記憶や記録に残るような戦い方をしなければ大丈夫だろう。

 接近してきた敵を排除する程度ならば問題ない。だとするならアルクスの気持ちを汲んでやる事の方が重要だと思うのだ。


「そういう風に考えてくれるのは、私としても嬉しいわ」

「その場合は――共に肩を並べて戦いましょう」


 俺の言葉を受けてクラウディアとヘルヴォルテもアルクスに言う。


「ありがとうございます。留意すべき点を念頭に置きつつ、頑張ります」


 アルクスは表情を嬉しそうなものにしてそう答える。グレイスやマルレーンも、そんなアルクスの言葉に微笑みを浮かべるのであった。




 そうして朝食を済ませ、不寝番をしてくれたマクスウェル、アルクスにもしっかり魔力補給を行う。フォルガロの動向監視はティアーズ達に引き継いでもらい、俺達は俺達で迎撃準備を進めることになった。


 つまりは、氷の要塞を造る仕事だ。

 とは言っても集落側には既に結界による防壁の準備をしてあるし、非戦闘員の避難準備も出来ている。そこで海上にこれみよがしな防衛拠点を形成する事で、集落側に迂闊に攻撃を仕掛けると上下から挟撃される、というのをあからさまに見せつけていくわけだ。


「では、始めます」


 と、海上に立ったアシュレイがロングメイスの先端を海に触れさせ、そしてマジックサークルを展開。最初の土台となる氷の足場が形成された。広々としていて、大人数が乗っても大丈夫そうな氷の平面。


「最初の大きさはこのぐらいで大丈夫でしょうか?」

「そうだね。丁度良いと思うよ。俺も……下準備をする」


 氷の要塞は呪法により状態を固定するつもりだが――その呪法がやや大規模なものになるために、やっておく事がある。

 ウロボロスを氷の土台に突き立てるように構えて、精霊達に魔力の波長を合わせ、翻訳の術式を用いて呼びかける。つまりは――少しの間、呪法で氷の状態を固定して不自然な状態を作り出すけれど、戦いが終わるまでの間の事だから許して欲しい、と。


 水や風の精霊達が俺の呼び掛けに反応して集まってきているのがわかる。こちらの目的と意思を伝えると、ウンディーネやシルフ達はこくこくと頷いていた。


「水の精霊達が……頑張ってって言ってるみたい」


 カティアが笑顔で教えてくれる。そうだな。片眼鏡で見てみれば、力こぶを作るようにして応援している、というポーズをとってくれる精霊や、こちらに向かって手を振ってくれる精霊もいたりして、随分賑やかな雰囲気になってしまった。


「精霊達も許してくれそうな雰囲気だな」

「良かったです」


 と、グレイスがにっこりと笑う。

 精霊達は呼び掛けの後も興味津々といった様子で見ているので、どうせなら要塞造りを見て行ってもらおう。

 今回用いるのは、所謂儀式型の大魔法だ。大魔法と言っても攻撃用術式のような激しい現象を引き起こすものではないが。


 ティールやグランティオスの面々、ネレイド族に深みの魚人族、ソロンにキュテリア。水に親和性の高い皆の魔力を借りて、俺が主導で術式を制御することで一気に要塞を形成する。


「私達もテオドール様に協力出来るとお聞きしました」

「どうしたらお手伝いできますか?」


 集落に住む戦闘員、非戦闘員の面々が海面に顔を出してそう言ってくる。長老からの通達を聞いたのだろう。みんな明るい表情で、戦闘準備に手伝える事があると知って喜んでいるようだ。


「そうですね。皆の魔力をお借りして、各々が少ない負担で大きな効果の魔法を、と考えています。僕がマジックサークルの中心で術を使いますので、周囲を囲むように円になって手を繋いで……力を貸すと、念じていて下さい」

「分かりました!」


 子供達からも元気の良い返事が返ってきて、モルガンやカティア、ドルシアの娘達――ソロン、キュテリア、ブロウス、オルシーヴにロヴィーサ、ウェルテス、エッケルスといった海の民だけでなくバルフォア侯爵やエステバンやマルセロ、エメリコ達と……陸の民、海の民を問わずみんな混ざって手を繋いで円になっていく。ティールが嬉しそうに声を上げ、みんなも笑顔になっていた。


 氷を形成する範囲内に生命反応無し。準備は整った。


「それでは、始めます。危険はありませんので、肩の力は抜いていても大丈夫ですよ」


 そう言うとみんなが頷く。

 要塞の設計図は既にウィズと一緒に組んで、セラフィナにも立体模型を見て貰って安全性にお墨付きをもらっている。あちこちの城や軍事施設も見てきたからな。便利そうな構造は拝借させてもらっている。

 ウロボロスを氷の土台に突き立て、氷の土台を中心に巨大なマジックサークルを展開。共に大魔法を発動させる――魔力を借りる対象をマジックサークルに組み込み、術式を展開していく。


 マジックサークルの効果でみんなの魔力が高まる。予想していたより大きな力が流れ込んでくるのは――精霊達も祈るようにして力を貸そうとしてくれているからだな。余剰分は……構造強化に回すとしよう。

 集まった者達の想いを乗せて、マジックサークルを発動させる。展開した魔法陣が眩い輝きを放ち、海面が盛り上がるようにして、ウィズの展開する光のフレームに収まるように海水が形を成して注ぎ込まれていく。


「おお……」

「これは凄い……」


 それを目にした面々から歓声と感動の声が漏れる。精霊達も祈るような仕草をしながら目を丸くしていた。


 要塞の上部に至るまで必要な部分に水が満ちると――続いては海面付近から凍りついていく。足場となる部分の氷の表面を加工。滑りにくいようにしておく。壁面には鏡面処理を施して、マジックミラーの構造を参考に調整する。内側――中心部からは外の様子を見る事が可能だが、外からは内部の様子は窺い知れないという具合だ。


 同時に構造強化で氷の強度を高め、呪法を用いて『凍った状態』を固着。紋様魔法も刻んで、必要な時に水流操作で要塞自体を移動可能にしておく。暫く術式を制御してあれこれとやっていたが、バロールであちこち見て回ってみても、中々の物ができたのではないだろうか。これに加えてあちこちにメダルゴーレムを仕込んでやれば……侵入者への防備も厚くなるだろう。


 納得のいくものが出来たところで、術式を解除する。展開していた巨大なマジックサークルが集束して光が収まると、周囲から拍手と歓声が巻き起こった。精霊達もこちらに向かって拍手を送ってくれている。


「氷のお城だ……凄い……!」

「まだ開戦までは時間があるから見て回って貰っても大丈夫だよ。でも、高い場所もあるから気をつけてね。戦闘に参加するみんなも……内部構造を見て、慣れてもらうのがいいかな。一緒に見て回るといい」


 そう言うと集落の子供達が顔を見合わせて笑顔になっていた。うむ。

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