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番外540 公王と魔法生物

 シーカーからの映像は城の前までやってきた矢印のついた人員を捉えていた。雁首並べて意気消沈している様子であるが、城まで移動するのは目立つと考えたのか、船で待機している人員も多いようだ。


「何という事だ……! お前ら一体何があった!?」


 矢印が付いた人員達を前に、声を荒げる騎士らしき男。ある程度責任のある立場の騎士というのは間違いなさそうだが。


「そ、それが、私達にもよく分からないのです。共通しているのは……例の船とそれに乗っていた者達が突然こうなった、としか」

「ぐ、軍港でもそれに関連した施設と、そこにいた者達がこのような状況に……」


 困惑した様子のままで状況を説明するのは矢印のついた人員を連れてきた伝令の兵士だ。


「現在は新たな発生者もなく、聞き取りでは体調不良等々も無いとの事。どうなさいますか?」

「どうすべきか、か。何分前例のないことであるからな。放置していて元に戻るものなのかどうか……」


 兵士の質問に思案する騎士。それを見守る矢印達といった構図であるが。

 因みに、時間経過では戻らない。微弱な魔力で矢印を構成しているので、対象者の魔力枯渇で一時的に消えるが呪法が解除されるまではあのままだ。


「ともかく、今は船か軍港の施設へ戻れ。他に実害があるかどうかも分からない状態では城に立ち入らせることはできん。検証と分析が必要だ」

「何らかの魔法攻撃となると、その方が無難でしょうな」

「分かりました……」


 と、矢印達は肩を落として港へと戻っていった。それを見送る騎士と兵士達であったが――。


「余の見立てでは――契約魔法の応用か……それに類する物というところか。継続的に作用する負の要素というのは、呪いというのも有り得るか?」


 そこに……一人の男がやってくる。魔法生物達を脇に従え、上空からゆっくりとした速度で降りてきたようだ。見た目の年齢は……二十半ばから三十そこそこといったところか。金髪、中肉中背。宝冠がその人物が何者であるかを雄弁に語る。


「これはアダルベルト陛下――。契約魔法や呪い、ですか?」


 と、公王の登場に跪く武官達。


「恐らくは一定の条件を満たす事で継続して効果を発揮する。そうした性質を持つ術だということだ。逆に言うなら……条件を満たさなければ新たに発生する事はあるまい。魔法生物達を外に出して様子見もして見たが、こちらには被害が及んでいない事からも分かる。条件は……例の船の魔道具に関係しているのだろうな。時を同じくして魚人どもが姿を消した、というのも関連しているだろう」


 ……公王アダルベルトか。魔法に明るいというのは間違いないらしいが。秘蔵の魔法生物を外に出したのも様子見、か。こちらが更に対応してくるかを観察していたのだろうが。

 アダルベルトは顎に手をやって思案するような仕草をして言葉を続ける。


「さて。そうなると、どこでそれらの情報が漏れたものか? 推測は可能だが調査と対応が必要だ。これだけ大掛かりな事をやってのけたのだ。後ろ盾がない、ということはあるまい」

「それは……確かに」

「諸国の大使達にも使いを出せ。その上で変わったことがないか逐一報告させよ」

「はっ! 矢印が付いた者達については如何いたしますか?」

「一先ずはお前の指示した通りの隔離と様子見で構わぬ。だが、使い捨てるには惜しい者達だ。敵の手札を探る意味でも、検証し、解除の方法を模索する必要があろう。そして……これを行った者には公国の――余の所有物に手出しをした事を後悔させてやらねばなるまい」


 そう言ってアダルベルトは片目を見開くようにして歪んだ笑みを見せると、身を翻して城の中へと戻っていった。

 ……所有物、ね。元々他国から掠め取ったものだろうに。


「あれがフォルガロの公王か……。話に聞いた通り、魔法に詳しい王のようだけど」


 矢印の性質をある程度理解した上で、監視塔の結界を起動させたり魔法生物を出撃させて観測気球にしているが……こちらの出方を窺って、あわよくば有利な状況での迎撃を、とでも考えていたのだろう。魔法生物達も、こちらに動きが無いと見るやアダルベルトの動きに合わせるように城の中に戻っていく。


 やはり魔法生物達は、訓練が行き届いているというよりはその動きに独自の意思は感じられないと言った方が適当かも知れない。

 騎士が騎乗する魔法生物は騎士の指示通りに動いているようだし、そうでない者達は王の動きに合わせるようにコントロールされているようだ。


「向こうもこっちの手札の様子見に徹していたみたいだから……深追いはしてこないかな」

「指示も割と的確だったものね。裏の事情を察知してそこから動くまでは早いと思うわ」


 クラウディアがそう言って目を閉じる。そうだな。こちらも合わせて早めに動く必要があるだろう。


「見るものは見せてもらったし、海溝に戻って準備を進めようか」


 俺の言葉にアルファが頷く。シリウス号も回頭し、海溝の集落に向けて動き出した。

 フォルガロが自分から攻めてくるか、そのまま迎撃の為に戦力を集めようとするかは、送り込んだシーカーがいれば分かる話だ。いずれにせよ海溝を攻めようと思うのならあの魔法生物達を活用するだろうし、攻めてくるならフォルガロにとっての重要戦力を各個撃破しやすくなる。


 向こうも悪事が露見した事が分かっているからそれほど悠長には構えていられないだろうが、仮に守りに徹するならその時はその時だ。公国内の戦力を首都に結集する前にこちらから動くことになるが……攻め手故の不利な点は作らないようにできる。




 そうして――シリウス号は夜明け頃に海溝の集落に戻る。


「おかえりなさい、あなた!」

「良かった、無事で」

「ああ、ただいま」


 早朝も早朝だが、首都から救出してきた戦士達の家族が待っていて、到着するなり彼らを出迎えていた。再会を喜ぶように抱き合い、子供を持ちあげたりして笑みを浮かべる。


「皆無事に顔を合わせる事ができて集落の者達も喜んでおります。改めてテオドール様に感謝の言葉を申し上げたいと思います」


 と、長老が言い、戦士達とその家族達共々、深々とお辞儀してきた。


「無事に再会を果たせたようで何よりです」


 そう言ってから首都で見たものや、得た情報を長老に話していく。


「魔法薬に魔法生物、ですか……。厄介なものですな」

「私の血を材料にしたのかしら……。あんなものを作るなんて」


 と、キュテリアも不満そうにかぶりを振る。


「あの魔法生物については恐らく海上、海中でも行動可能なものと思われます。後でこの場にいない集落の皆さんとも情報を共有しておいて下さい。僕達は一休みしたら迎撃のための準備を整えるつもりでいます」

「迎撃、ですか」

「集落への直接攻撃ができないように手を考えています。氷で迎撃拠点を構築し、呪法で凍った状態を固定する、というわけですね」

「なるほど……。確かに氷の術を使える面々も多い。活用しない手はありませんな」


 説明すると長老は目を丸くしていた。

 何せ、アシュレイやティールもそうだがグランティオス王国の面々にネレイド族、深みの魚人族、キュテリアと、水を操れる面々が多い。

 海の民のみんなも氷を用いる術が使える者が多いので……みんなで力を合わせれば、ちょっとした氷の要塞ぐらいは構築する事が出来るだろう。


 これは――フォルガロの連中が守りを固めた場合でも首都攻めで役に立つ。ヴァルロス達がベリオンドーラで攻め込んできた時と同様の事ができるから、守りの優位性を崩しつつ攻め手に転じる事が可能、というわけだ。優位性を崩すというよりは、条件を五分に持って行けると言うのが近いかも知れない。


 首都にはシーカーを残しているし、向こうからのすぐさまの奇襲というのも可能性は低いが対処可能だ。交代で水晶板モニターに監視の目を立てた上で、まずは休息を取らせてもらうとしよう。

いつも拙作をお読み頂きありがとうございます!


お陰様で連載から1300話突破を達成する事が出来ました!

ひとえに読者の皆様の応援のお陰です。感想、ポイント、誠に日頃の励みになっております。

改めてお礼申し上げます。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願い致します!

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