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番外537 公国の魔法研究

 尋問……と言ってもホルンの場合、悪夢を能力で見せることを獏という種族の矜持として嫌っている。となると、夢の中では平和的に世間話として情報を聞き出すといったような若干の工夫が必要だ。


 とは言え、ホルンの見せる夢自体、相手に安心感を与えるような内容になるので、自然と警戒心も薄くなって口も軽くなる傾向にあるというのが、ベシュメルクでの潜入調査で感じた事である。


 しかも今回はイルムヒルトが呪曲を奏でて気分を高揚させたり、カルセドネとシトリアが能力を使って良い感情の増幅を行うなどのアシストをしてくれるというわけだ。

 ベシュメルクでは夢の世界に誘う相手を近くに置けなかったので出来なかった手だが、今回は眠らせたまま捕虜にしているので、そう言った手段も使える、というわけだな。


 どうやってこちらの望む情報を聞き出すか。

 第二船倉に向かい、連中の名前や立場等々、知っている情報を深みの魚人族に確認したり、それらを前提に、少しみんなと相談した上で方針を決める。


 捕虜達には情報共有はさせず、裏付けを取れるように一人ずつ夢の中に誘うということで話は纏まる。


「これを使うと良いわ」


 ローズマリーが魔法の鞄から敷布を出して敷いてくれる。


「ありがとう、助かるよ。それじゃ、眠っている間の事は頼むね」

「はい。いってらっしゃい」


 敷布の上に横たわって言うと、グレイス達も笑顔で見送ってくれた。

 身体の力を抜いて目を閉じると――早速イルムヒルトが呪曲を奏で始める。ゆったりとした心地の良い感覚の中で、ホルンの力によってすぐに眠りに落ちていくのが分かった。


 そうして……ホルンと共にふわりと夢の世界に降り立つ。ホルンの能力と捕虜達の意識が構成する世界。まだ曖昧で形を与えられていないようだが、イルムヒルトの呪曲やカルセドネとシトリアの能力によるものなのか、高揚した気分とホルンの力で誘導されるように段々と周囲に賑やかな街並みが浮かんでくる。


 祭り……。祭りめいた光景、だろうか? 着飾った人々。家々を飾る花。街並みはフォルガロの首都であるらしい。少し離れたところに捕虜がいて。


「あれ……ここは……? 祭り……なんて、あった、か?」


 と、そんな風にやや呆けている様子だ。これはこの男の高揚する気分からホルンが少し誘導して作り出した世界ではあるが……。

 俺も服装を少し変える。地味な杖、ローブ、魔術師帽と……いかにも魔術師然とした服装になる。ホルンは路地の隅など、目立たない場所にちょこんと座って待機中だ。

 よし……。では、始めよう。


「こんにちは、ハビエルさん」


 先程深みの魚人族から聞いた名前を呼びながら、笑みを浮かべて近付くと、ハビエルはこちらを見やる。


「ええと……。誰、でしたっけ」

「初対面ですよ。今度お城の研究施設に配属されることになった見習いの魔術師で……オルキウスと申します。挨拶を兼ねて、ハビエルさんとバスコさんに辞令を預かっているのですが……腰を落ち着けて話をしましょうか。どこか内密な話をできる場所はありますか?」


 と言うとハビエルはおずおずと頷いた。ハビエルの反応、口調は今一つはっきりしないというかやや呆けている印象があるが、この辺は夢の中なので意識レベルが鮮明ではない、というのがある。


 しかし夢の中ではそれと自覚していない限り、嘘を吐いたりするのは難しいらしい。こうした反応だからと有用な情報が聞けないわけではない。意識すればそれが影響を及ぼす世界だからだ。

 特に、今回の場合は外からのアシストがあるわけだし、余程の事をしなければ警戒もされないだろう。


 ハビエルとバスコはああして管理官として配置されていたが、両者とも戦闘員ではない。隷属魔法を受けた深みの魚人族がいる以上は戦闘員を配置する必要の薄い施設でもあるのだし。

 しかし裏の事情は知っている。ハビエルとバスコは、フォルガロ公王の信を得た家臣団の出身であるとか。だから、抱えている情報もそれなりに多いと思われる。


 というわけで場所を移す。兵士達の詰所の一角で、ハビエルは顔見知りであるらしい兵士に人払いを頼んでいた。


「それで……どんな話だった――でしたか? 辞令と仰っていましたが」

「はい。配置変えが行われるという事で新人の僕から挨拶も兼ねてお伝えに来たのです。お二人の真面目で細やかな仕事ぶりが評価されて信用を得ていると伝えて欲しいと言われました。正式な書面は後から届くと思います」

「そう、なんですか。それは嬉しい話ですが。やはり、オルキウス殿の配置場所から言って、俺――私達も城の研究室関連の場所への配属となるのでしょうか?」

「そうらしいですね。ですが、引き続き管理に関する仕事なのでお二人に危険はない、と仰っていましたよ」

「ああ。それは安心しました。バスコも喜ぶでしょう」


 と、上機嫌そうに笑うハビエルである。そこでやや不安げな表情を浮かべて尋ねる。


「その……城での魔法研究について内容や中心人物について、知っている事があれば色々教えて頂けませんか? 折角上の方にお声を掛けて頂き抜擢されましたが、僕の仕事については危険もあるからと。何分経験が浅いもので不安がありまして。何やら海溝に住んでいる魚人族とはまた違う魔物がいる、という話も聞いていますし」

「ああ……。そりゃ不安でしょうね」


 ハビエルは納得したというように頷いた。高く評価されての配置換え。危険はないという情報。それに新人から頼りにされているということから、ハビエルは大分気を良くしているようだ。夢の外でイルムヒルトとカルセドネ、シトリアがアシストしてくれているというのもあるだろうが。


 俺も深みの魚人族については知っていると、関係者でなければ知りえない情報を会話の中に挟んだりもしている。


「今行われている魔法研究は大きなものが二つで――片方は戦闘用の魔法薬の開発だとか」

「魔法薬、ですか?」

「ええ。将兵の力を……高めてくれるものだそうで。一時的に力が強くなって、効果時間の間なら再生能力までくれる、んだとか。生命力を高めるから闘気を使える者は……更に戦力が向上するって、知り合いの研究員は自慢げに言ってましたね」


 なるほどな。これが……スキュラの血液の使い道か。戦闘力の増強に加えて再生能力。確かに、敵兵がそんなものを服用しているとなると厄介かも知れない。


「もう片方は?」

「そっちは最高機密、なんで詳しくは知りませんが、陛下が直接開発の指揮を執っているらしいですね」

「じゃあ、危険があるというのは――」

「そっちの研究かも……知れませんね。調合を失敗すると、爆発したり、かも知れませんが」

「てっきり魔物がいるからだと思っていましたが……」

「ああ。そっちは大丈夫でしょう。隷属魔法を受けている魚人共とスキュラが一人だけって話ですからね。召喚儀式はかなり貴重な触媒が必要で……二つの研究にどうしてもスキュラみたいな特性を持った魔物が必要だったって聞きました」


 ……そうか。召喚されたのはキュテリアだけか。その点については安心した反面、別に考えなければならないことも出てきた。フォルガロ公国は貴重な触媒を使ってまで、目的を見定めてスキュラを狙って召喚した、ということになるからだ。

 怪我をさせないように。死なせないように。キュテリアの扱いに関しては慎重な面も見られるのもその裏付けになるだろうか。


 その上、深みの魚人族について関わっている人員にまで内容を知らせていない、フォルガロ公王自身が陣頭に立つ研究ときた。こちらの研究が本命で戦闘薬は……副産物ということになるだろう。


 研究内容についてはまだ情報が少なくて予想を立てにくいところがあるが……。

 いずれにせよもう一人の捕虜――バスコにも今まで得た情報を使って探りを入れて裏付けを取りつつ……他に有用な情報がないか聞き取りをしていくとしよう。

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