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番外536 脱出と捕虜と

 管理室で眠っている二人は当然ながら深みの魚人族の事情を知っているし城にも出入りがあるそうで。であれば、情報源として役立つのは間違いない。土魔法で梱包し、バブルシールドの魔法を使って運び出す事にした。


「我々が運びましょう」

「ああ。こっちは大丈夫」


 深みの魚人族の戦士達が申し出てくれるのは有り難いが、今回は救出作戦だ。その対象がいざという時に逃げにくくなるような事態は避けたい。

 拘束している石箱にゴーレムのメダルを埋め込んでやれば自分で動いてくれる。箱の下部から四本の足が生えて立ち上がるのを見て、戦士達は目を瞬かせていた。


「さて。それじゃあ行こうか」

「はっ」


 というわけで海中通路を通ってみんなで外に出る。しっかり隊列を組んで人数と規模を把握しやすくしてくれているあたり、こちらとしても動きやすい。

 生命反応を見ながら軍港にいる兵士達の動きを確認。闇魔法のフィールドで頭上を覆って、海上からこちらの様子を見る事ができないようにする。


 そうした上で不自然な音や波を立てないように静かに移動していく。行先は一般の港側だ。隣接しているので移動距離自体は短い。


 一方、グロウフォニカ大使一行も――デメトリオ王からの書状を燃やして証拠を隠滅し、公館を出たところだ。バロールの展開する迷彩フィールド内に覆われ、静かに固まって移動中である。

 生命反応の光を見ながら、大通りから人気のない通りへと移動しつつ、最終的には一般の港側に向かうというわけだ。


『人の切れ目の瞬間に、羽ばたいてから前に出る。それに合わせて通りを抜けて前へ』


 と、バロールが魔力文字で誘導する。バロールに続く一行もしっかりと頷いてその動きに注視する。夜も更けてきているので人通りは少なくなっているが無人というわけではないし、兵士達も巡回している。それらの通りの人々の歩調、速度を見ながら、通りに出るタイミングを計る。――今。


 バロールが羽ばたいて前に出る。付かず離れずを保ったまま一行は通りを横切り、そして港へと入っていく。


 こちらが脱出の段階になったからか、シリウス号に残っているみんなも固唾を飲んで状況を見守っている、といった様子だ。声を上げるとこちらの集中が途切れるかも知れないと気を遣ってくれているのだろう。


 深みの魚人族達と大使一行とを、それぞれ港の端――人気のない場所へと誘導する。そこが合流地点だ。


『到着した。主が海から顔を出して声をかける。海の民も一緒。驚かないように』


 と、バロールが魔力文字で前置きをして、大使一行がそれに目を通し、こちらに視線を向けたところで海面に顔を出し、声をかける。


「お迎えに上がりました」

「鯱の……獣人?」

「これは変装です。僕は陸の民ですよ」


 と、そんな事を言いつつ大使一行には水中呼吸の魔法を使う。


「これで水中で呼吸できるはずです。海に入って付いて来て欲しいのですが、泳げない方はいますか?」

「いえ、全員泳げます」


 という返答が帰ってくる。そうして海に入るのにも難色を示さず、静かに順番に海に入ってくれる。

 大使達と深みの魚人族達が水中で対面し、互いに声を出さずにお辞儀を交わした。よし……。これで合流完了だな。シリウス号側でもアシュレイやマルレーン、エレナといった面々が安心したというように胸を撫で下ろしていた。


「では、脱出と行きましょうか。バロールに先導させます」


 バロールが先導。俺が殿を務める。シリウス号が待機している方角に向かって、真っ直ぐ夜の海の中を進んでいけば、やがて首都の外壁に辿り着いた。点呼してはぐれたものがいないか確認。水晶板や梱包した連中等々、忘れ物がないかも確認しておく。


「なるべく固まるようにして集まって下さい。水上歩行の魔法を使い、水で足場を作って巡回の間を縫って上を飛び越えます」

「分かりました」


 壁に穴を開けても良いが、それを切っ掛けに別種の結界が発動するというのも有り得る。対魔人結界だけが作動しているのなら余計なリスクを背負う必要もないだろう。


 同行者を幻術で覆いつつ、まずは海上に立ってもらう。


「起きろ」


 使うのはクリエイトヒュージゴーレムの応用版だ。ヒュージアクアゴーレムと言えば良いのか。俺達の立っている場所を中心に水が盛り上がり、エレベーターのように体が持ち上げられていく。


 幻術で覆っているので遠目の監視では何の異常もない。盛り上がる水はすぐに外壁より高くなり、そのまま壁を乗り越える。アーチを描くようにして、俺達をそのまま乗り越えさせた。


「いやはや……。とてつもない魔法の腕ですな……」

「我らにも水を操る術はありますが、これほどの術を次から次へと……」


 と、エメリコと魚人族の戦士達は驚いている様子だ。

 そうして波をたてないようにゆっくりとヒュージアクアゴーレムを海に戻して術を解除しつつ、シリウス号に向かって進むのであった。




「おかえりなさい」

「みんな無事で良かったわ」


 と、帰ってきたところでみんなが笑顔で迎えてくれる。


「ああ、ただいま」


 俺とバロールも揃って偽装を解除し、みんなに笑みを返す。


「見た目で警戒されないようにと仰っていましたが、本当はその姿だったのですな」


 と、エメリコが言う。改めてバロールが丁寧にお辞儀をすると、苦笑していたが。

 脱出してきた面々については……バルフォア侯爵や戦士長と言った顔見知りの面々が実際に艦橋にいるので、安心したところはあるようだ。


「皆さんも急な話だったのに協力的で助かりました。自己紹介……と行きたいところなのですが、まだしておかなければならない事があります。もう少し待っていて下さい」

「わかりました」


 エメリコや戦士達は真剣な面持ちで頷く。


「ホルン、捕まえてきた連中から情報を引き出すから、準備を進めておいて欲しい。シーカーの方は城近辺に移動中かな? でも、まだ無理はしないように」


 シリウス号艦橋に到着したところで、状況を確認。あれこれと手早く指示を出す。

 捕虜にした二人をコルリスが両肩に担いで第二船倉へと運んでいく。

 後はホルンの能力を使い、魔法研究等々や城の内部について可能な限り情報を引き出そうというわけだ。シーカーを使って調査するにしても、捕虜からの情報を参考にして動いた方が良い。情報如何によってはもう一度首都内部に潜入というのも有り得るが……。


「夢の世界を使う場合……呪曲って効果があるかしら?」


 と、イルムヒルトが首を傾げる。


「ああ、良いね。相手に上手く喋らせる事ができそうだ」

「私達も、手伝う」

「エイヴリルお姉ちゃん程じゃないけど、近い事できるから」


 と、カルセドネとシトリアも立ち上がった。

 カルセドネとシトリアに関しては双子の間のテレパスはかなり高度なやり取りが可能なようではあるが、他者に関してはそこまででもないそうだ。

 しかし下地になっている能力はエイヴリルを参考にしているので、他者の感情を落ち着かせたり、という事も可能らしい。イルムヒルトの呪曲と合わせて使えば、ホルンの夢の中の世界で相手の警戒心を無くして口を軽くするにはかなり有効だろうと思われる。


「ありがとう。それじゃ手伝ってもらおうかな」

「うんっ」

「任せて」


 と、俺の言葉に嬉しそうに微笑むカルセドネとシトリア。


「よろしくね」

「うん。イルムヒルトお姉ちゃん」

「がんばる」


 そう言って、イルムヒルトととも顔を見合わせて微笑み合う。

 というわけで……必要な指示を出したところで改めてエメリコ達と戦士達にこちらの面々の自己紹介をする。


 俺が名乗るとエメリコ達は驚愕の表情を浮かべていた。


「テオドール公……! ヴェルドガル王国の英雄殿ではありませんか……!」

「道理で、あれほどの魔法を使いこなすわけです……」

「変装している際はオルキウスと名乗っているので、そちらの名前も覚えておいて下さい」


 そう言うと彼らは驚きの表情のままこくこくと頷くのであった。

 よし。では、現場でできなかった事情説明は――バルフォア侯爵や戦士長達に任せて、俺は夢の世界を用いての捕虜の尋問を進めるとしよう。

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