表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1295/2811

番外534 首都潜入

「それじゃ、行ってくる。後は状況に合わせて打ち合わせ通りに」

「お帰りをお待ちしています」

「いってらっしゃい」

「気をつけてね」


 と、見送ってくれるみんなに俺も笑って、海中に出る。

 監視塔の光が当たらない、外壁が影になる位置にシリウス号を停泊させている。闇魔法のフィールドも纏っているので、夜間という事を考えれば海上からは見えないだろう。


 暗視の魔法を使いながら夜の海を進んで、外壁に辿り着く。

 ライフディテクションを用いて、今いる外壁の付近に見張りが巡回していない事を確認。片眼鏡を用いて結界壁の種類が対魔人用であることも確認。それから多重の迷彩フィールドを纏って海上に出る。


 レビテーションとマジックシールド併用。垂直に跳び上がり、外壁を一気に飛び越えて魔法を解除。自由落下をしながら外壁内側の海に着水するタイミングで水魔法と風魔法を用いて無音のまま静かに海中へ。

 見張りの動き等々には――変化はない。気付かれてはいない。


「よし。一先ずは潜入に成功かな」

『ええ。こちらからも見えているわ』


 ハイダーの水晶板モニターでこちらの様子を見ながら、頷くローズマリーである。中継に関しても問題はないようだな。水晶板モニターに関しては俺も一枚持ってきているので向こうの様子を見る事も可能だが……今はカドケウスを介して中継している。


 暗い海を泳いで海中から港の様子を見る。漁船、商船、客船……。それに西方海洋諸国の保有する船と、様々な種類の船が停泊している。


「バロール。行け」


 預かっている書状や水晶板モニターを土魔法で固定する事で保持したバロールが、迷彩フィールドを展開して飛んでいった。シーカーも一緒だ。バロールの行先は港の近くにあるグロウフォニカ公館だ。先に行って待機してもらい、こちらの進捗に合わせて動いてもらう。


 今回の救出作戦では――グロウフォニカの大使にもコンタクトを取る。事件の発覚で大事になる前に公館の人員を引き上げてしまう。

 当然その時には深みの魚人達の離反にグロウフォニカも関わっていると知らせることになるが、魚人救出と大使達の引き上げ後であれば構わない、という判断だ。


 フォルガロは新興国だ。西方海洋諸国間の協定成立時の理念を共有していたわけではない。故にグロウフォニカが盟主という現状に対して何かと突っかかってくるフォルガロを、元々あまり信用していないという背景がある。


 故に、公館の人員は大使や使用人といっても、腕の立つ武官で構成された必要最小限の編成であるらしい。有事の際に人質に取られる事のないよう、また、買収される事もないように、危機管理意識の高く信頼のおける者を選んでいる、という話だ。

 バロールを使いに出して、証拠品を見せたりしてやれば応じて動いてくれるだろう。


 後は――救出と脱出のタイミングを合わせる。必要とあらば攪乱や実力行使もすることも視野に入れているが、そこまでは隠密行動だ。


 軍港周辺の見回りの動きに気を付けながら、目的の建物に向かっていく。

 深みの魚人族についてはフォルガロでも機密性が高いので……常駐している建物は高い塀で囲われている上に正面の分厚い門には見張りの人員も配置されている。建物に出入りする人員をきっちりと把握できるような態勢が作られているのだろう。


 但し――それは陸ならば、の話だ。深みの魚人族が人目につかずに出入り可能なように海中から建物に出入りできる秘密の通路があるとの事で。軍港沿いに海中を移動していき……ああ、見つけた。四角い穴が開いていて、そこから海中通路を通って建物の中に行けるというわけだ。生命反応と魔力反応を確認し、罠が無い事なども確かめてから、穴の中に身を躍らせる。


『なかなか……救出作戦にはおあつらえ向きね』

「フォルガロが機密性を重視した結果の墓穴というか」


 ステファニアにそんな風に答える。

 何にせよ人目に付かないというのはこちらとしても救出に利用しやすい。

 連中が魚人族には隷属魔法がかかっているから逃げられないと高を括っているからこそこういう構造なのだろう。だから、そこに付け込ませてもらう。


 海水に満たされた通路を進んでいくと――緩やかなスロープの上に明かりが見える。このまま進んでいけば空気のある場所に出るが……その前にやっておくべき事がある。


 光を屈折させて通路の先を見やれば、通路脇に小部屋があって、海底通路側から深みの魚人族の出入りを管理する人員が二名程配置されていた。丁度受付窓口のような構造だな。


 監視ではなく、管理、と作戦会議の席でブロウス達は言っていた。

 隷属魔法がかかっている以上は従順だから監視の必要性は薄い。だが常駐している人数等々は把握しておく必要があるというわけだ。


 迷彩フィールドを構築したまま身を低くして上陸。人員のいる部屋の壁に、土魔法で小さな穴を開けてやる。

 そしてそこから――眠りの雲の応用魔法をゆっくり、静かに流し込んだ。

 無味無臭、雲の形にすらなっていない睡眠ガスに巻かれて……談笑していた連中は眠りに落ちたようだ。当分起きてこないように呪法を叩き込んで眠りを深いものにしておく。


『何というか、こういう潜入任務は見ているこっちも息を殺してしまうわね』


 と、クラウディアがほっとしたように小さく息をついて言うと、マルレーンも神妙な面持ちでこくこくと頷いていた。

 現在いる場所は、通常の建物で言うと地下室にあたるだろうか。階上の様子を生命反応の光で探ってみるが――このへんもブロウス達から聞いている通りだ。


「聞いてた通りだな。陸は警備が厚いけど、建物内と海中側の警備はザルだ」

『ん。多分、いざという時は魚人族も戦力として見ている』


 それは……シーラの見立ての通りなのだろう。侵入者を見かけたら深みの魚人族は隷属魔法の強制力によって捕らえにかかる。

 そして、深みの魚人族は、海辺では水を操る術も使えるから下手な武官よりも強いのだ。だから、そこに兵力を割く必要もない、というのは分かる。


 室内を探ってみれば、深みの魚人族の誰が今どうしているかという管理帳もしっかりと置いてあった。戦士階級の名簿と日付を記した一覧表だ。

 首都に常駐している者、任務で出撃中の者、集落側で待機中の者と分けられている。誰が残っていて、誰が出払っているのか。これは首都での有事の際に、どの程度の魚人部隊を動かせるのか。予備兵力はどのぐらい集落に残っているかを把握できるから、フォルガロにとっては兵站に関わる情報になるだろう。


 過去の分は城に保管されているのか、それともその都度廃棄されているのか。まあ、管理帳ごと証拠品として頂いていくとして。


 魚人族の生命反応の数を数えて管理帳と齟齬が無い事を確認する。瞳を取り出し、そして励起させる。

 首都にいる魚人がこの施設にいる者達だけならば、外から察知される心配もない。念のために建物内だけに影響が留まるように出力を調整。深みの魚人達の意識レベルを低下させた状態で地下室まで呼び出す。


 そうして順番に隷属魔法を解除していく。まずは1人。隷属魔法を解除したところで意識を取り戻してもらう。


「……な……? こ、ここは?」


 と、頭を押さえてかぶりを振る魚人族の戦士。自室にいたのにいきなり地下通路に移動しているのだから困惑するのも分かるが。


「あー。初めまして。今、隷属魔法を解除している最中なんだ。深みの魚人族の味方で、フォルガロの敵だから安心して欲しい」


 戸惑っている魚人に向かって片手を上げて挨拶をしながら作業を続ける。そう言われた彼は、一瞬身構えるも自分の胸のあたりに手をやって、隷属魔法が機能していない事を理解したのか、驚きの表情を浮かべてもう一度こちらを見てきた。


「い、いずこの海の民なのかは知らないが……礼を言う。しかし、それはまさか……我らの秘宝、なのか?」

「この姿も正体がフォルガロに伝わらないようにっていう、見せかけだけの変装だよ。海溝にいる集落のみんなも既に解放してきたし、瞳に関しては長老や戦士長達も承知の話だ。これから残りのみんなも順に解放していく。それに伴って意識を取り戻すと思うから、俺が味方であることを伝えて欲しいんだ。ある程度の事情も話す」


 そう言うと彼はやや呆然としていた面持ちを、真剣なものにして頷いた。よし……。ではこちらの作業を進めて、全員の隷属魔法を解除した時点でバロールにも動いてもらおう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ