表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1294/2811

番外533 首都からの救出作戦

「相手の性質に応じての返し技ですな」

「王都の周りを嗅ぎまわるなど、不遜な連中ですが、少し溜飲が下がりましたな」


 デメトリオ王との話の内容をみんなにも伝えると、ブロウス達やエステバン達は勿論、みんなも愉快そうに笑っていた。


「呪法としては道理に適ったものと言いますか。歪みを生むようなものではないので強固に作用するでしょう」


 と、エレナが呪法の完成度に太鼓判を押してくれた上で微笑む。


「姿を隠して工作していた連中ですものね。矢印が付いて回るようでは、隠密船の開発も、今までの訓練も、全て無駄になってしまうわね」

「技術開発もだけど、工作員や諜報員の育成も大変だからね。そこを狙ったところはある。発見される程度で済ませてたら、網を掻い潜ればいいだとか、逃げ切ればいいだなんて考えるだろうし」


 俺の返答に羽扇の向こうで肩を震わせるローズマリーである。

 開発、訓練や技能を台無しにしてしまう。しかも一度でも網にかかったら解除が難しい。そういう手札があると思い知らせるのは、今後同じような行動の再発を防ぐ意味もあるし、何よりコストが丸々無駄になるので、フォルガロにとって経済的にも精神的にもダメージが大きいだろうと踏んでの事だ。


 隠密船の乗組員でなければ矢印が付かない。その事は既にグロウフォニカの王都で通達済みで、実際他の場面では機能しない対抗魔道具まで各国に現物を渡してある。

 その事が西方海洋諸国の共通認識になれば、矢印がついた人材は使い回すどころか表にも出せないだろうからな。後は……開き直って戦場に連れて行くぐらいだろうか?


 そんな話をしながら作戦決行や迎撃のための準備を進めていくと……段々と夜も更け予定時刻が近付いてくる。


「――では……人員の点呼といった確認が済んだら出発しようと思います。もし僕達の不在の間に集落に危険が迫りましたら、打ち合わせ通りにということで」

「ありがとうございます。結界を活用させていただきたいと思います」


 長老がこちらに頭を下げる。

 迎撃も想定すると、深みの魚人族の集落を無防備なままにしておくわけにはいかない。

 防衛の為に戦力を残したり、集落の状況が分かるようにハイダーを配置しておいたり、というのは勿論だが、他にもやっておくべき事があった。その一つが結界術の用意だ。


 集落の出入り口、海溝の上下を覆うように魔石を配置し、結界構築の準備をしておけば、有事の際に無駄にはならない。契約魔法を組み込んだ転移魔法の用意も済ませて、最低限の防御と避難経路の確保は一先ず完了といったところか。


「戦闘が起こるかは分かりませんが、こうした作戦だと気合が入りますね」


 グレイスがにっこり笑って言うと、マルレーンも真剣な顔でこくこくと頷く。


「そうだね。気合を入れていこう」


 という俺の言葉にみんなも頷く。

 後顧の憂いもないからか、救出作戦に加わる魚人族の戦士達もシリウス号に乗り込み、やる気満々と言ったところだ。

 今回の作戦にはキュテリアも同行を希望した。


 本人は戦えるとのことだが……病み上がりということもあるので、今回はどういう状況になったとしても船外に出て戦う事はしない、というのを条件にシリウス号に乗ってもらった。

 キュテリアは城にいたので、敵の対応を見て何か気付く事があるかもという、アドバイザーとしての役割をお願いした。本人の気持ちを汲むのならばこのあたりが落としどころか。


「では行ってきます」

「ご武運を!」


 そうして人員の点呼も終わり、集落の魚人達総出で見送られる形でシリウス号は出撃する。やはり海上には出ず、夜の海をフォルガロの首都に向かって進んでいく。


 フォルガロ首都までの距離から計算し、人が寝静まる頃合いで現地に到着するように航行速度を調整する。


「アルファ、この方位と航行速度を維持しておいてくれ」


 操船席の隣に控えるアルファがこくんと頷く。よし。これで後は現地到着を待つばかりだ。

 後は移動しながら、今回の作戦についての確認等々を行い、皆の意思統一をしておく。


「それじゃ、再度確認をしておこう。今回の作戦の目的は救出が第一で、敵の戦力調査等々は敵の出方を見て可能なら行う程度というのを念頭に置いて欲しい。仮に敵の対応が早く、戦闘を行う事になってもシリウス号からは離れ過ぎないように。戦力がはっきりしない内に大規模戦闘をすると、危険が増す。何より敵の本拠地だし、住民もいるから」


 それに市街地で大魔法等々を用いての戦闘、というわけにもいくまい。

 一般人は裏の事情を知らないのだし、正当性を主張するなら敵以外からの反感を買うような行動は避けるべきだ。同盟各国やグロウフォニカ王国からの支持があってもそこは慎重になるべきだろう。


「我らとしても因縁のある相手ですからな。挑発等に乗って深追いしないよう、冷静に立ち回るように心掛けましょう」


 戦士長が言うと、ブロウス達も顔を見合わせて頷く。士気は高く、思考は冷静に。良い傾向だな。


 更に作戦の細部についてもみんなと確認を取りつつ、シリウス号は夜の海を進んでいく。

 そうして――段々と陸地が近付いてくる。正面モニターから光魔法で海上の様子を見てみれば、海の向こうに灯台の光が見えていた。あれがフォルガロ公国の、首都の光。

 正確に言うなら灯台ではなく、海側の監視塔の明かりであるが。


 それが確認できたところでシリウス号は速度を落としながら首都に向かって更に前進する。俺達が目指しているのは当然軍港だが、一般の港も軍港も、海まで突き出した外壁と門の内側にある。


 海上に突き出した壁には巨大な門があるが……夜間は閉じられているとのことで。まあ、この辺は深みの魚人族達から得られた情報の通りだ。


 外壁に展開する結界線は対魔人用のようだが……裏でこれだけの事をやっているフォルガロの事だ。

 他国と戦争になった場合に備えて別種の遮断結界を用意している可能性は高い。つまりは――シリウス号で内部に入るとその手の結界を展開されて閉じ込められる危険性がある。だから……シリウス号は外壁の外までだ。まだ警戒されていない段階で秘密裡に侵入して救出を行う必要がある。


 瞳に関してもだ。結界の種類如何によっては力が届かない可能性がある。


「また……変装していく必要があるかな」


 ウロボロスあたりはどうしても目立ってしまうしな。多少情報収集しているならそれで俺と気付かれてしまうかも知れない。

 ベシュメルクでは竜人っぽい変装をしたが、今回は魚人の味方という事で……キマイラコートとウィズの形状や表面の質感を変化させる。


 海洋性哺乳類を模した滑らかな質感の兜。キマイラコートも滑らかな質感にして、全身を覆う。白黒で光沢のあるその姿は――。


「おお……。これは……鯱を模した変装、というわけですか」


 それを見たエッケルスが目を丸くし、ティールも声を上げた。翻訳の魔道具によると「迫力や凄みがある」とのことだ。まあ確かに、ティールから見るとそうかも知れないな。


 そう。ベシュメルクの時は竜人の変装だったが、今回は鯱の亜人といった感じの変装だ。ウロボロスも前回は結晶の槍にしたが、今回は珊瑚風の偽装カバーで覆って珊瑚槍にしている。キマイラコートも流線型なので、見かけだけでなく水中推進にも適しているかも知れない。


「これなら仮に、瞳を使った事をフォルガロが察知したり、俺の姿が目撃されたりしても、どこの国の関与とかすぐには分からないからね。偽名は――そうだな。オルキウスってところかな」


 と、俺の言葉に合わせてウィズの扮する鯱兜の口が一緒に動く。封印術を施したままで瞳の首飾りをキマイラコートの下に身に着け、シーカーとハイダーも一体ずつ一緒に同行してもらう。潜入の様子をハイダーでシリウス号に中継すると共に、シーカーを首都に潜入させて現地の情報を継続的に得るためだ。


 さて……。では救出作戦を開始するとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ