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番外532 デメトリオ王の知らせ

 島にいる魚人族にもティアーズが丁度出前を運ぶようにして食事を届けたりして、水晶板モニターの向こうで舌鼓を打っている光景が見える。

 一方で集落の方はと言えば、みんなで食事をたっぷり食べて満足げな様子だ。だが、宴であるからそれだけでは終わらない。


「それじゃあ、始めましょうか」

「ん」


 イルムヒルトとシーラ、マルレーンが顔を見合わせ、頷き合う。そうしてシーラのドラムが取るテンポに合わせてイルムヒルトのリュートの音色が広がる。

 更にゴーレム楽団が魔法楽器を奏で……今日はマルレーンがランタンで幻影による光の粒を周囲に飛ばす。

 友好の席なので楽しげな旋律だとか、作戦決行を控えての勇猛な印象の旋律といった曲が多めだ。呪歌、呪曲ではないがセラフィナ、アルクス、アピラシアといった小柄な面々やネレイド達が演奏と光の動きに合わせて楽しそうに踊ったりして。


 子供の魚人族がその光景を見て楽しそうな笑顔になったり、自分達もリズムに合わせて身体を動かしたりと、中々に微笑ましい。


「地上の楽器や演奏も……また素晴らしいですな」

「これは――我らもお返しをしなければなりませんな」


 と、深みの魚人族も大いに盛り上がっていた。深みの魚人族も楽器を持ち出して音楽を奏でてくれた。

 石琴――リソフォンと言えば良いのか。石を薄い板状に加工、調律して音階順に並べたもので、水中でも陸上でも奏でる事ができるらしい。深みの魚人族によれば海溝のある場所で採掘できる石、とのことだ。


 石琴は加工の仕方によって音色にかなりの幅が出せるらしい。水蜘蛛の糸を利用した弦楽器もやはりあるようだが……こちらは深みの魚人族独自の製法なのでセイレーン達やネレイド達の楽器とはまた形状も音色も違う。

 それらの楽器と共に男性陣も女性陣も歌声をそれぞれ響かせて……幽玄な印象の曲であるとか、漁の前に奏でる勇壮な曲を聴かせてくれた。


「これは……迷宮村やグランティオスの皆も喜びそうね」

「そうだね。独自の音楽文化で……面白いな」


 クラウディアと俺の言葉にブロウスが頷く。


「あまり自由がありませんでしたからね。皆も日頃の鬱憤が溜まっていたので、歌や楽器の他にも刺繍や細工物を作る事で気晴らしをしていた、というのはあるかも知れません」


 なるほどな。隷属魔法とは関係のない、許された範囲の中での楽しみだったわけだ。


「それは……確かに発展する下地にはなるかも知れないわね。時間を集中して使える環境というのは捗るものだわ」


 と、ローズマリーが感心したように頷く。それは塔に幽閉されていた頃の話、だろうか。ローズマリーには色々調べ物をしてもらったからな。


 魔力楽器に関しては……グランティオスでも使えるように防水仕様であったりするし……折角だからネレイド族と深みの魚人族も合わせて、旅先で割と恒例になっている楽器の交換も申し出てみるのも良いだろう。


「ネレイドの皆さんや深みの魚人族の皆さんと楽器の交換などもしてみたいですね。旅先ではこれまで何度かやっている事なのですが」

「ああ。それは良いですね」

「新しい楽器が増えるというのは歓迎です。皆喜ぶでしょう」


 というわけで楽器の交換を提案してみると、カティアも戦士長も歓迎してくれたのであった。

 各種楽器の扱い方を集落の子供達も交えて実演したり、実際に触れて貰ったりして、宴の夜は賑やかに過ぎていくのであった。




「――おはよう、テオドール」

「ん……おはよう」


 目が覚めると、隣にはステファニアの端正な顔があって、寝顔を見ていたようだが目が合うとにっこりと微笑まれた。


「おはようございます。ご気分はどうですか?」


 と、寝台で横になったままでアシュレイも微笑んで尋ねてくる。


「おはよう。昨日は結構魔力を使ったから、その分よく眠れた気がする。体調は……大分すっきりしたかな」

「ふふ、それは良かったです」


 と、グレイスに髪を撫でられたりして、心地の良い朝の目覚めという感じだ。

 隷属魔法の解除で長時間魔法を使ったので、宴の後はシリウス号の船室でのんびりと休ませてもらった。体調もすっきりとしていて魔力の調子も中々のものだ。


 その分ゆっくりとした時間に起き出す事になってしまったが……フォルガロ首都にいる深みの魚人族救出については今夜決行する予定なので、こうして身体を休めてコンディションを整えるところまで予定通りである。夜に動くのは……人目につかない時刻を選んだ方が単純に成功率も上がるという理由からだな。


 さて。そうして少し遅めの朝食をとって甲板に出ると、魚人族の戦士達が配布された空中戦装備を使って訓練しているところだった。

 今すぐ空中戦に習熟するのは難しいが、マジックシールドの魔道具に関しては水中戦でも応用が利くからな。救出作戦の先を見越して今から鍛練しておくのは無駄にはなるまい。


「これはテオドール様、おはようございます」

「ああ、おはよう」


 俺の姿を認めると彼らも挨拶をしてくれる。広場には老若男女問わず集落の者達が集まっていて、戦士達の訓練を興味深そうに見守りながら、思えば今まで大変だったと、フォルガロの支配下に置かれていた状態での苦労話などをしていた。


「連中、瞳の代わりになるようなものがないか、墓荒らし紛いの事までしていたからのう」


 と、かぶりを振る老魚人。


「そんな事までしていたんですか……」


 エレナが呆れたように言う。


「瞳がダメなら隷属魔法に魔人の傭兵。魔人が目立ってしまったら再び瞳に目を向けてと……節操のない連中じゃよ」


 老魚人はそんな風に言ってかぶりを振っていた。時期的にはゼヴィオンがグロウフォニカの船団に被害を齎した後の出来事、か。

 反感を買うのも承知で墓所まで荒らして……その結果も芳しくなかったからステルス船での瞳探しということになった、というわけか。


 そんな風にして魚人達の話を聞いたり空中戦装備の使い方についてアドバイスをしたりしながら時間が過ぎていく。

 グロウフォニカのデメトリオ王から連絡が入ったのはそんな折だ。


 シオンに伝声管で呼ばれて艦橋へと向かうと、デメトリオ王が既に水晶板モニターの向こうで待っていた。どうやら馬車に乗っているようで。石のブロックに偽装したハイダーを連れて移動中のようだ。


「お待たせしました。何かありましたか?」

『うむ。王都近隣の警戒中に例の魔道具に反応があってな。隠密船から深みの魚人族を2名、こちらで保護した事を伝えておく。隠密船から逃げ出した魚人族が我らの船を加速してくれたおかげで、隠密船も拿捕できた』


 それは――何よりだ。フォルガロは深みの魚人族を使って逃走の幇助をさせていたらしいが、敵に回ってしまえば逆に逃げられなくなってしまうというわけだ。呪法がしっかりと作動した事も確認できて……良かったと思う。


「王都周辺にまで斥候……でしょうか。しかし、深みの魚人族の方々も助かって船も捕らえたというのは完璧ですね」

『そうだな。時期から考えると、テオドール公訪問の情報が伝わって、様子を見に来たのかも知れない。しかし、まだ逃げていなかったところを見ると、こちらの具体的な動きは察知していないと思われる。テオドール公の足取りも掴めてはおるまい』


 そうだな。フォルガロの大使を通じて情報収集ができているなら対策されたステルス船はさっさと撤退させるだろうから。


「隠密船については――どうなったでしょうか?」


 隠密船の乗組員や魔道具の効果について尋ねると、デメトリオ王は意味ありげににやりと笑った。


『それをこれから確かめに向かおうと思っていてな。造船研究所に拿捕した船が運び込まれたのは昨日の深夜の事だが、悪目立ちするから各国の大使にもその部分だけは伝わっているだろう。後で乗組員の顔も見て貰って、証人になってもらうのも検討しておく』

「という事は……魔道具の効果について説明を受けていないフォルガロの大使にとってのみ、些か訳が分からない情報かも知れませんね」

『であろうな』


 と、デメトリオ王は愉快そうに笑う。そうして馬車が止まりデメトリオ王は施設内の造船所へと向かう。


 果たして――そこにそれはあった。ネオンサインのように目立つ色の巨大な矢印が船の上方に浮かんだままで、船体を差してぐるぐると回転している。ここに隠密船がいるというのをこれでもかとアピールしてくるかのような光景。


 敵の魔道具を逆用して呪法を仕掛け、術式を少し書き換えた結果だ。

 ステルス船と、その魔道具の影響下にある乗組員も呪法の対象で、これと同様の矢印が頭上に浮かぶ仕様だ。つまり呪いを受けてしまえば以後の工作活動、潜伏や逃亡が非常に難しくなる。


 造船所の端の方では、グロウフォニカの騎士達に引っ立てられたステルス船の船員が、非常に情けない顔で騎士達の尋問を受けている様子も見える。例外なく頭の上に矢印が回転中であるのがシュールというか。

 まあ……呪法にしては実害がなく晒し者になる程度の効果なので、感謝して欲しいぐらいではあるが。


 例外として、隷属魔法を受けている深みの魚人族に対しては……隷属魔法への阻害と共にメッセージが伝わり、一定時間で矢印は消える、という仕組みだ。


 敵方の対抗策としては――矢印を呪いの一種であると断定し、呪法の仕組みを理解した上で対策となる術を使うか、或いは神殿に行って解呪をする事だが……ベシュメルクの呪法は一般に流布していないから、術式で対抗するなら一から開発する必要がある。

 神殿での解呪は……まあ、まず無理だろう。月女神も四大精霊王も、本尊がこちらの味方なのでその願いが聞き届けられることはない。


「救出作戦決行前に、良い弾みになりますね。皆も喜ぶかと」

『うむ。魔道具の有用性も証明された。士気も上がろうというものだ』


 きちんと実戦で機能したというのもそうだが、情報の伝わり方がフォルガロに対しては断片的で、敵の動向の目安にもなるのが良い。まだ……フォルガロに対しては先手を打って動く事が可能そうだな。まずは救出作戦に集中するとしよう。

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