番外521 グロウフォニカの精鋭部隊
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。
呪法による対抗術式についてですが、一部ミスがあったために
隷属魔法開錠ではなく呪法による機能不全、という形に改稿させていただきました。
それに伴い番外516、及び番外519の一部を加筆修正しております。
物語の大筋では変化がありません。誠に申し訳ありません。
「グランティオス王国より参りました、ウェルテスです」
「同じくグランティオス王国より参りました、エッケルスです。よろしく頼みます」
転移魔法にて公館に到着したグランティオスの武官二人が丁寧に挨拶すると、初対面となるネレイド達や深みの魚人族達も挨拶をする。
「女王陛下の王国についてはロヴィーサ殿より聞いております。とても良いところだと」
「此度の助太刀は……感謝しています」
と、ブロウスとオルシーヴも丁寧に挨拶をして、握手を交わしていた。
「その御言葉。陛下もお喜びになるでしょう」
ウェルテスは丁寧に言った後ににやりと笑う。
「それに……深みの魚人族には武人として興味があってな。会えるのを楽しみにしていた」
「そうだな。事態が解決した暁には……国同士だけでなく、武を志す者同士としても交流を深めていきたいものだ」
ウェルテスとエッケルスの口調が、共に少し砕けたものになる。ブロウスとオルシーヴも一瞬間を置いて、心得た、というように笑って応じた。
種族はそれぞれ少し違いがあるものの、魚人同士、武人同士。色々と通じ合う部分があるようで。
「武人としてというのもあったのだが、俺は元々降将でな。テオドール公達と一戦交えた経緯や、一族の為に動いているという事情を聞いて、何か力になれる事もあるかと思ってな」
「そう、だったのか。いや、女王陛下や二人の気持ちも……嬉しく感じている」
と、4人の魚人達は笑顔で言葉を交わしていた。
エッケルスに関してはその後も順調そうな様子が窺い知れるな。ウェルテスとも気心が知れたように息が合っているところを見ると、グランティオス王国でも受け入れられているのだろう。
それに――自分から助っ人に来ることを志願したような口ぶりだ。同じような立場のブロウスやオルシーヴの力になりたいと考えての事だとするなら……グランティオス王国での日々はきっと良いものなのだろう。
ロヴィーサもそんなやり取りを見て嬉しそうに微笑んで、何やら隣に浮かんでいるブルーコーラルを撫でたりしていた。ブルーコーラルも電子音めいた音を出してロヴィーサに応えたりしているが。うむ。
そんな風に初対面の顔ぶれを紹介していると、公館にバルフォア侯爵がやってきた。
バルフォア侯爵としては、甥や姪の成長が嬉しいというような事を周囲に喧伝し、お土産を持って公館に遊びにいく、という体で連絡役になってくれているわけだ。
城から何度も使者が行き来していてはフォルガロに怪しまれる。それを防ぐ意味合いがあるが……バルフォア侯爵もそうした立場を楽しんでいるようで、偽装のはずだが何やら珍味やら変わった民芸品やらを持って来たりする。
「おお。話に聞いていた助っ人の方々ですな。連絡事項を伝えたら挨拶をさせて下さい」
バルフォア侯爵はウェルテスとエッケルスに笑って軽く挨拶をし、それから俺に向き直って言う。
「デメトリオ陛下からの伝言です。予定通りの時間にて船団で模擬戦を行うので、所定の場所に来て欲しいと」
「分かりました。一旦別方向に飛んでから、海底から戻るという方法で行きましょうか」
「その方が目立たないでしょうな。承知しました。それと……フォルガロの公館には今のところ動きはありません」
そうか。フォルガロは裏でやっている事がやっている事だからな。大使の役割も自然、友好のためというより情報収集やスパイとしての色が濃くなると予想している。西とは別方向に観光に行くと偽情報を流したりもしているし、王都では慎重に立ち回るに越したことはあるまい。
というわけで、沖合でグロウフォニカ騎士団の精鋭と合流したら、いよいよ海溝に向けて出発だ。バルフォア侯爵もデメトリオ王の名代兼証人として俺達に同行するということで、しっかりと旅支度を整えている。
「良く晴れましたね。旅立ちには良い日よりかも知れません」
と、グレイスが空を見て微笑みを浮かべた。
「ん。人員の点呼をする。忘れ物がないか確認したら、甲板に並んで欲しい」
というシーラの言葉に、動物組や魔法生物組もこくこくと頷いて、一列に並んでシリウス号に乗り込んでいくのであった。
物資、物品の確認。人員の点呼。諸々問題無し。
公館の使用人達に笑顔で見送られて、俺達は一旦北方向へと飛ぶ。予定通りグロウフォニカの北方に観光に行くというような振りをしながら、通常の航路から外れたコースを低空飛行で飛んで、船影が途切れたところで潜水。
海底を進みつつ、海図を見て迂回しながら合流地点へ向かって進んでいくと――やがて件の船らしき船影が見えてきた。光を屈折させて海上の様子がモニターから見やすいように映し出す。
「ああ。あの船ですな。間違いありません」
と、バルフォア侯爵。島々の影に隠れるようにして、バルフォア侯爵が教えてくれた通りの色の旗を掲げている。模擬戦では伏兵として島の影に潜んでいる、という設定らしい。
これは人目につかないところで合流できるようにという配慮だろう。海面に艦橋と甲板だけを出しつつ接近すると、向こうも気づいたらしく、甲板から顔見知りの二人の竜騎士――エステバンとマルセロが笑顔でこちらに敬礼し、船員達もそれに倣う。シリウス号を停泊させてこちらも甲板に顔を出す。
「こんにちは。お二方とも。騎士団の皆さんも初めまして」
「これはテオドール公。お待ちしておりました」
と、エステバンが一礼してくる。今回同行する部隊の者達も顔を出して揃って挨拶をしてくる。
「王命を受け、馳せ参じました。名高きテオドール公と共に大義のある使命を果たせることを一同嬉しく思っております」
と、敬礼する武官達である。
「親衛隊や諜報機関、魔術師隊から、能力は勿論、立場や考え方も考慮して厳選された面々です。王の信頼も厚く、腕の立つ者達ばかりですぞ。僭越ながら、陛下より臨時に彼らを纏める立場も私が仰せつかっております」
バルフォア侯爵がそんな風に教えてくれる。
「それは――頼もしいですね」
立場的に、という観点で話をするのなら、ヴェルドガル王国やシルヴァトリア王国など、西方諸国以外との友好を歓迎する面々ということで、派閥的にもバルフォア侯爵に近しいということになるのではないだろうか。
騎士達だけでなく諜報部隊に魔術師にと。色んな状況に対応できるように編成してくれたところがあるようで。命令系統もバルフォア侯爵の指揮下という事で一本化してくれたようで、色々相談なりした上で連係して動きやすいようにデメトリオ王は考えてくれているらしい。
加えて言うなら、グロウフォニカ王国として拙い行動は彼らが教えてくれるだろうから、かえって行動の指針を決めやすくもなるということで。
エステバンとマルセロの飛竜と、リンドブルムが顔を合わせて挨拶をしたりと、飛竜同士のコミュニケーションも問題無さそうな様子だ。
「みんなはこっちにね」
と、イルムヒルトがマルレーンと共に、にこにこしながら飛竜達を船内に案内する。リンドブルムやコルリス達は最近艦橋で寛いでいるが……元々飛竜達を乗せる設備というのもきちんとシリウス号には備わっているのだ。
そうしてグロウフォニカ側の精鋭部隊もこちらの甲板に移ったところで、船の乗組員達が総出で敬礼をする。
「武運長久をお祈り申し上げます!」
「皆様の旅に幸多からん事を!」
「ありがとうございます。良いお知らせを持って帰りたいと思います」
こちらも敬礼と笑顔で応じると、船の船員達も晴れやかな笑顔を返してくれる。では――いよいよ海溝に向けての旅だな。船内を案内して手荷物を置いてもらったら、艦橋で自己紹介するなどしながら進んでいくとしよう。