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番外507 戦いの後に

 俺にもみんなにも怪我はない。それをまず確認してから、制圧した覆面男連中、投降してきた船員を砂浜に並ばせる。命を奪ったりはしないので魔法封じの術と少しの間の拘束を受け入れるようにと通達。意識のない者の軽い手当も行いつつ、了承した者から順番に処理していく。


 幸い戦闘員と呼べるのは島に上陸していた面々と魚人達だけだったらしく、俺が封印術を打ち込んで、コルリスが土魔法で梱包といった具合だ。

 ピエトロの分身やアピラシアの働き蜂が運搬していく。この辺の手際も慣れたものだ。アピラシアはこういった作業も初めてだが、ピエトロの分身達と上手く連係をしてくれている様子である。


 そうした作業は概ね順調に進んでいたが、最後の――小舟で逃げ出した例の男の番になると、何やら喚き出した。


「き、貴様ら……! わ、私にこんな真似をして……! ただで済むと思うなよ……!?」

「どうなるんだ? お前達の背後にいる組織なり、国家なりが報復に来るのか?」


 具体的な内容を促すと、男は少し鼻白んだようだった。表情の変化から見ても分かる。

 そう。あれだけの船。この連中の後ろに何かがいるのは明白だし、それを明かせないから不意の遭遇で人質を取って安全に逃げようとしたのだろう。こちらが元々の島の関係者であることは、俺達の交わしていた会話が聞こえていたとするなら明白だからだ。


「あなたは――御自分の心配をなさった方がよろしいのでは?」


 と、成り行きを見ていたバルフォア侯爵が静かな声で言う。


「な、何……?」

「分かっていないようですから説明しましょうか。あなた方のしたことはヴェルドガル王国の王族とその婚約者や、我がバルフォア侯爵家の親戚を人質に取ろうとし、あまつさえ刃を向けたのです。その意味がお分かりですかな? 船員ならまだしも、連中を指揮していた人物。ましてや船籍も分からないときた。仮に身分を明かされてもそれを信じる材料もありません」


 バルフォア侯爵が語る内に男からみるみる血の気が引いていく。俺達の顔や服装を見回し――そしてとうとう……この状況を受け入れる事を精神が拒んだのか、ふっと白目を剥いて地面にへなへなと崩れ落ちてしまった。色々理解してしまった恐怖からか、気を失ったようだが。

 まあ、だとしても封印術はきっちりと叩き込んでおくとして。


「ふむ。少し薬が効き過ぎましたかな?」


 コルリスに梱包される男を見ながらバルフォア侯爵は悪戯が過ぎた、と言ったように肩を竦めて少し苦笑した。


「もしかして、連中に怒っていらっしゃいますか」

「皆さんのお陰で大分溜飲は下がりましたが、まだ多少は。こう見えて甥や姪の幸せを願っておりますし、勿論、今回の一件も祝福しているのですよ」


 なるほど……。バルフォア侯爵は穏やかで思慮深い人物だと思うが、一度怒らせると一番怖い、という類の人だな。余程の事でなければそうもならないだろうけれど、今回のはその「余程」に該当する内容だ。


 まあ、脅しだとするならあの男にはいい薬になるのではないだろうか。魚人達に命を懸けさせて自分だけ逃げ出し、結局無傷で捕縛されたわけだから。


 一方で、伯父から姪の幸せを願っていると言われて、ローズマリーは苦笑していたが。甥であるヘルフリート王子はと言えば――カティアのすぐ側で気を張っている様子だった。連中の拘束が全員終わると少し安堵したように息をついていたが。

 ドルシアの娘も含め、三人とも怪我はしていないようで……そこは良かったと思う。


 こちらの視線に気付くと、ヘルフリート王子が一礼してくる。


「これで一段落か。テオドール公にはまた危ないところを助けてもらって、感謝している」

「いえ。殿下の反応も迅速で、判断も素晴らしいものでした」


 そう言うと、ヘルフリート王子の表情に驚きの色が混じるが、すぐに苦笑する。


「結局転んでしまって、格好がつかなかったけれどね」

「応戦の構えを見せつつ、咄嗟に空中戦装備の脚部マジックシールドを防御に利用しようとなさっておいででしたね。庇うまでの動きも良かったですが、あれらは総じて実戦的で良い判断かと」


 打ち込んでくる覆面男の武器を脚部シールドで弾いて立ち上がり、剣で反撃を繰り出すところまでは容易に想像が及ぶというか。割って入らなくても形成逆転していたかも知れない。


「あの一瞬でそこまで見ていた? 凄いな……」


 俺の言葉に、ヘルフリート王子が目を見開く。


「私は――ヘルフリートに守ってもらえて嬉しかったわ」


 と、カティアがにっこり笑ってそう言うと、ヘルフリート王子は少し顔を赤らめて頬を掻いたりしていた。

 周囲のみんなもそれを見て微笑ましそうにしているが。

 さて。頃合いを見て、これからの事について少し話をしておく。


「予想外の出来事ではありましたが……意識が戻ったら魚人の二人には話を聞かせてもらいたいと思います。梱包した連中をシリウス号に積むのと……それから割られた家の窓の修復と、家の中が荒らされていないかの確認もしないといけませんね。あの船も解体しつつ証拠品の押収を進めていきます」


 そう言うと、みんなは真剣な表情で頷くのであった。




 シリウス号には浜辺側に回り込んでもらい、梱包した連中を第2船倉に積み込んでいく。海の方を見ればガシャドクロやリンドブルムが梱包された連中を丁寧に甲板に置いたり、ステファニアとローズマリーの指揮の下、イグニスやコルリス、ティール達が甲板から第2船倉に積み込んだりしている光景が目に飛び込んでくる。

 これで島の外からは見えないようにマルレーンがランタンで偽装していたりするわけだが。


 魚人二人に関しては何やら事情があって戦いを「させられている」という印象だった。方法はいくつか考えられるので、後で確認をしておかないといけないだろう。

 だから梱包した連中とは別枠で、まだシリウス号には乗せず、封印術と共にライトバインドで拘束中だ。


 封印術による能力減衰と意識喪失が重なると眠りが深くなってしまったりする。同じ海の民ということでモルガンやロヴィーサ達と共に、グレイスやアシュレイが俺の目の届くところで監視してくれているので問題はないだろう。


 そちらに視線を向けるとグレイスやアシュレイ達が微笑んで手を振ってくれた。……うむ。こちらも手を振りかえしておく。

 周辺の警戒はイルムヒルトと共にシオン達が。要人の警護はクラウディアとエレナ、カルセドネとシトリア達が担当してくれている。


 そうしてみんなで手分けしつつもサンダリオとドルシアの家の割られた窓をバロールと共に直してしまう。木魔法で破損した窓枠と窓ガラスを繋ぎ、修復した窓ガラスをアピラシアの働き蜂達が掴んで運び……それをセラフィナやピエトロの分身達が窓枠に嵌めていけば、元通りだ。


 ガラスの破片が落ちていないかもウィズがしっかりと見て確認をして、と。そんな風に作業をしていると、家の奥の洞窟からシーラとドルシアの娘達が顔を出す。元通りになった窓を見て笑顔になった。


「窓は元通りにしたつもりですがどうでしょうか?」

「うん、良かった……! ありがとう!」


 と、お礼を言ってくる。それは何よりだ。

 修復作業を手伝ってくれているセラフィナやバロールやアピラシアにもドルシアの娘達はお礼を言って、その頭を撫でる。セラフィナはにこにことしているし、バロールは心地よさそうに目を閉じたり、アピラシアが丁寧にお辞儀を返したりしていた。


「家の中はどうだった?」

「ん。見た感じ……戸棚とか開けられた形跡はあったけど、そんなに荒らされてはいない。割と慣れている者の手口」

「無くなったものとかも今のところはないって」


 と、シーラとドルシアの娘が教えてくれる。


「なるほど……。島を発見して住人に分からないように調査していた、と言ったところかな? 念のために後で連中に聞き込みをするのと……魔力反応等々がないかも見ておくよ」


 シーラも言っていたが、家主に盗難に入られた事自体を気付かせないようにする手口があると話に聞いたことがある。家主に気付かれなければ、或いは無くなったのは勘違いだと思わせておけば事件として発覚しないからだ。


 連中の目的は俺達ではなかった。島を調査していたのだとすれば、住民の形跡を発見した場合、まずは発覚しないように調査しようとするだろう。


 船を解体して中から証拠品や魔道具を押収したりという作業も残っている。やらなければならない事が増えてしまったが、きっちりとこなしていこう。

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