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番外505 孤島の遭遇

 サンダリオが暮らしていた島の様子は色んな物が手作りでこじんまりとしていて。漁に使う網にしても木の皮を、幾本もより合わせて組まれていたり、様々なところに創意工夫が見られた。

 森が開墾されているのも原生林から木材を調達して使うためだろう。土から水瓶、煉瓦を作り、木の皮でロープを作り――。ネレイドは漁をしながら飲み水を作り、騎士の開墾した田畑や果樹園の精霊に実りを願う。


 そうして騎士とネレイドが二人で……そして後年は一家でこの島を作っていったのだろうと思うと感慨深いものがある。


「この島は……このままの形で残しておいてやりたい、とも思いますな。ガルニカ伯爵にも相談する必要はありますが」


 バルフォア侯爵が周囲を見ながら呟く。


「本当、凄いな……。自分達でここまで。僕も……見習わないと」


 ヘルフリート王子も建てられた家を見ながらそう言って道を進む。


「家の中も、見かけより広いのよ。最初は島にあった洞窟を綺麗に整えて使っていたらしいのだけど、その上に家を建てたのね」


 と、カティアがそんなヘルフリート王子に屈託なく笑って家の方へ案内していく。


「ん。足、跡?」


 その時だ。シーラが家の近くにある畑の端にふと目をやって、まだ新しい足跡があるのを見つけた。昨日、今日つけられたような――。


「ヘルフリート王子! 島に誰かいます! ご注意を!」


 戸口のすぐ近くにドルシアの娘とカティア。俺の飛ばした言葉とほとんど当時に家の扉が開け放たれ、布を顔に巻きつけて覆面にした男が飛び出してくる。手には剣。空いたもう一方の手をカティアに向かって掴みかかるように伸ばして――!


「危ないッ!」


 ヘルフリート王子の方が一瞬早く反応した。カティアとドルシアの娘、二人を引っ張って一緒に後方に倒れ込む。


「ちいッ!」


 カティアを捕まえようとする手の動きは虚しく空を切った。邪魔をしたヘルフリート王子に向かって舌打ちをしながら短剣を振り上げるが、ヘルフリート王子も二人を庇うようにして剣を抜き放ち、倒れたままの体勢で応戦の構えを見せる。


「邪魔を――!」

「お前がな」


 切りかかろうとする覆面男の動きはそこまでだった。

 顔面に、ネメアとカペラの跳躍力を合わせて突撃した俺の膝蹴りが突き刺さっていたからだ。剣の動きに対してはシールドを展開している。ヘルフリート王子に気を取られていたこともあって、迎撃不能だ。鼻骨が折れる感触と共に、前歯をまき散らして覆面男が後方に吹き飛ぶ。


「人質は――」

「失敗だ! このまま撤退しろ!」


 そんな声と共に。一階、二階の窓を突き破るようにして、覆面男の仲間と思われる男達が飛び出す。家の向こう、浜辺に向かって逃げ出そうとしているところだった。

 誰が、何の目的か知らないが、やってくれたな……!


「防御を固めつつ追撃!」

「皆さん、こちらへ!」


 その言葉と共に、アシュレイとステファニアがディフェンスフィールドを発動させる。ローズマリーとクラウディアがマジックスレイブを周囲に放出し、マルレーンがデュラハンを召喚した。

 敵を追って、シーラと人化の術を解いたイルムヒルト、シオン達、カルセドネとシトリアが反応して飛び出した。

 俺もグレイスの呪具を解放すると、グレイスと共に即座に敵を追う。


「くっ、早いぞ! 何だあいつらは!?」

「空を飛んでやがる!」


 家の向こう。砂浜までは草の生えた緩やかな斜面だ。草原を駆け下りる男達がこちらを一瞬振り返ってそんな風に言う。こちらの正体を知って襲撃を仕掛けてきたわけでは、ない?


 では向こうにとっても不意の遭遇なのか。

 目的も正体も不明。こちらが期せず島にやってきたから、誰かを人質にとって安全に撤退するつもりだった。だとするなら、どこへ? 砂浜には島に乗りつけるために使ったと見られる小舟は見えるが、沖に船は見えない。


 だが、どこの誰であれ、顔を隠したままいきなり人質を取ろうとするような輩相手に、一切容赦はいらない。叩き潰してから話を聞かせてもらう――!


「――逃さない」


 最初に追いついたのはシーラだ。真珠剣を抜き放ち、斬撃を見舞う。しかしそれは避けられるように手加減したもので。

 言葉を発したのも、追われている、追いつかれたという自覚を促すためのものだ。


 男は――シーラの狙い通り回避に専念した。足先に闘気を纏って大きく跳躍したが、空中で動きが制限されたところをきっちりと肩口やふくらはぎのあたりにイルムヒルトの光の矢が突き刺さっていた。苦悶の声を上げながら斜面にまともに落ちて転がる。そこに容赦なく粘着糸の網が浴びせられ、電流を流される。


「そこまでです!」

「逃がさないよっ!」


 シオンとマルセスカが身体ごと前に回り込んで男を止めて。足が止まったところに後方からインクの大蛇が音もなく男の身体に巻きつく。悲鳴を上げる暇もなく、シオンとマルセスカが鞘に納めたままの武器を男の鳩尾と側頭部に叩きつけていた。


「捕まえた」

「こっち」


 カルセドネが飛行呪法で一気に間合いを詰め、男の肩に手をかける。同時に後方上空のシトリアが声をかけると、二人の位置が転移で入れ替わる。カルセドネが捕まえた男と共にだ。


「うッ、おおおおっ!?」


 いきなり上空に放り出された男は手足をばたつかせるが、掴む物も踏みしめる大地もない。前方回転したカルセドネの踵落としが頭頂部に突き刺さり、男はまともに地面に叩きつけられる。


 残り――三人ッ!


「捕らえました――」


 1人はグレイスの放った闘気が足に絡みついた。そのまま頭上を大きく弧を描いて、後方の斜面に向かって叩きつけられる。剣で対抗云々以前の問題だ。


 残る二人の内片方は――もう追いつく。


 走り込んでくる勢いそのままに、正面からコンパクトリープで現れた俺がウロボロスを横薙ぎに払えば、肋骨の砕ける手応えと共に後方に吹っ飛ぶ。

 横目でもう一人――最後の男を見やれば、一瞬視線が合って。薄く笑ってやると、男は覆面の上からでも分かるほどに恐怖の表情を浮かべ、悲鳴を上げた。


「ひっ! な、何をしている! お前ら! 俺を、俺を助けろ! こいつらを足止めしろ! 命に代えてもだ!」


 新手――。海の中から水柱が立ち上がり、頭上から何かが降ってくる。

 地響きを立てて斜面に降り立つ。それは――二人の魚人だった。輪郭や顔立ちは人に近く、目鼻立ちのはっきりとした精悍な顔つきをしている。身体の外側と背中側には陽の光を受けてそれぞれ暗青色に煌めく、鎧のような鱗を纏っていた。目も……鱗と同じような色の宝石が嵌っているような印象だ。


 頭部や手首のあたりにヒレ。指と指の間に水かきがついている。尻尾のように魚の尾が生えており、脇腹のあたりにエラのような亀裂が走っていたりと……グランティオス王国の魚人や、ウォルドムの連れていた元眷属達とも細かな部分で見ると違っているところが多い。

 手にはそれぞれ三又の槍を手にしていて……それぞれ、体表に洗練された闘気を纏っている。


「西の……深みの魚人、か――」


 俺の言葉に、魚人の片方が少し目を見開く。どうやら――間違いないようだな。足止めを命じた男は小舟に乗り込んで逃げ出す気満々のようだ。

 どこに逃げるつもりなのか見届けるか。みんなにカドケウスから通信機で連絡を入れてもらい、小舟の男への追撃は控えさせる。


 というより、深みの魚人の実力や数が分からない内に海上への追撃を仕掛けるのも危険が予想されるからな。生命感知で見る限りでは――視界内には他にいないようだが。


「人の子――いや、怪物の類か。斯様な地で、これほどの武人と相見えることになろうとはな」

「大義あらば……心躍る戦いになったであろうに残念な事だ」


 俺に向かって槍を構える魚人達が――そんな言葉を口にした。


「そう思うのなら、あんな命令。捨て駒になるような意味のない戦いは止めれば良い。どう見ても、お前らの方があいつらより強いだろう?」

「我らにも事情がある」

「退くわけにはいかぬ」


 ……何か、戦わなければならない理由がある、と? 表情から見ると言葉だけでの説得も難しそうだが、さて。

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