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番外504 騎士と海の娘の島

『とはいえ――深みの魚人族に話を聞くのだとしても、我らとは交流がない。妾も……かなり前に先代女王から話に聞いただけであるからな。ネレイド族との間には友誼もあったが……妾やロヴィーサの口利きもどれだけの効果があるか』

「交流がないのは……私達ネレイド族も同じですね。同じ海の民のよしみというのがどれだけ通じるかは未知数な部分があります」


 エルドレーネ女王とモルガンは揃って申し訳なさそうな表情をするが、こちらとしては手がかりのないところにそういった情報が得られて大きな収穫だ。


「大丈夫です。西の海溝という手がかりが得られたのは大きな前進でしょう。グロウフォニカ王国で暮らしている魚人族にも、深みの魚人族についての話を聞けるかも知れません」


 そう笑って答えると、エルドレーネ女王も少しの間を置いて小さく笑う。


『そう、か。困ったことがあれば我らは力になる故、いつでも声をかけて欲しい』

『余らは――力になってもらっている側だな。此度の恩は必ず返す。皆に苦労を掛けてしまっている以上、余も動くのが筋というものであろう。王都でも深みの魚人族については調べておく。魚人の武官、文官もいるし、資料も当たってみよう』


 それは、執務の合間にデメトリオ王が自ら調べるということになるのか。秘密裡に動いているから……多分そうなのだろうな。だとしても「深みの魚人族に関する話」だけなら直接西方諸国やサロモンの宝とは繋がらないし、デメトリオ王としても動きやすい範囲なのかも知れない。


「ありがとうございます。こちらでも何か進展がありましたらまた連絡します」


 エルドレーネ女王とデメトリオ王にモニター越しに一礼する。そうして王達を交えての話し合いは一旦お開きとなった。


「モルガンさんは、エルドレーネ陛下と面識があったのですね」

「はい。まだエルドレーネが小さい頃に。昔から利発な子で、きっと大物になるとは思っていましたよ」


 と、グレイスに尋ねられてにっこりと笑うモルガンである。なるほど……。マーメイドも人間に比べれば長命種だからな……。ネレイドはもっと、という印象だが。


 シリウス号はその間にも海底を進んで、サンダリオとドルシアの暮らしていた島に向かっている。


「そろそろ島に到着するらしいわ」


 と、操船しているローズマリーが教えてくれた。海底から見た感じでは……取り立てて不自然なところはないようだが。


「まだ島には魔法がかかっているのですか?」

「生涯を賭して約束と秘密を守る。ならば代わりに私達はその場所を作る。その約束は――間違いなく果たされました。ですから……役割を終えた魔法は解けました。かつては幻術によって岩礁帯に見えるようにしていましたが……元々航路から外れるので船の往来は少ない場所ですからね」

「でも、あの子達の生家もあるし。みんなで畑や果樹園のお世話をしたり、作物や果物を食べたりするのに使おうかなんて話もしているのよ」


 モルガンが言うとカティアもそんな風に教えてくれる。なるほど。ネレイド達にとって束の間の陸上を楽しむような憩いの場にしたい、というわけか。


「あの奥の島です」


 と、別の島の影から正面モニターに映り込んできた島を指差してモルガンが言った。


「では、なるべく近くに寄せて停泊させておきましょう。明るくなってから上陸して、島の様子を見てみる、ということで」


 サンダリオはサロモンの宝について詳しい事までは知らなかったのだとは思うが、何かしら手がかりが無いとも限らない。景観も見ておきたいので上陸は夜が明けて、明るくなってからだな。今日はこのまま海底で停泊すればいいだろう。


「では――ここで一泊します」

「何というか――こう、船の中で海底の風景を見ながらの一泊というのは楽しいものね」


 頃合いを見て船を停泊させるとステファニアがそう言って笑う。マルレーンもにこにこしながら頷き、ティールも嬉しそうに声を上げていた。

 そうだな。外部モニターから見える風景は、暗視の魔法付きではあるが美しい海底のもので、中々に風情がある。

 さて……。少し遅めになってしまったが夕食の準備をするとしよう。分からない事もあるが、それはそれとして今日のところはのんびりさせてもらうのが良いだろう。


 船での食事と言えばカレーライスが定番――と思うのは景久の記憶があるからだろうか。ゴーレム達も動員して手早く米を炊いてカレーを作り、そうしてみんなでやや遅めの食事となった。


「これは……なんという複雑な味と香りなのでしょうか」

「刺激が強いけど……後を引くわ」


 カレーを口にしたネレイド達は一様に驚きの表情をしていたが、どうやら気に入ってくれたようだ。お代わりの声もあちこちから聞こえ、和やかに海底の一夜は過ぎていくのであった。




 そして、明くる日。朝食を済ませてから島へと上陸する事になった。


「ドルシアが漁に出やすいように、海底から島の中まで進める穴が掘ってあるの。島のこっち側は上陸できるところがないから、浜辺から上陸するなら向こう側に回る必要があるわ」


 と、カティアが教えてくれる。


「海底からいけるのなら、シリウス号はこのままの位置で大丈夫そうね」

「ん。シリウス号を海上や空に停泊させて、島が見つかっても困る」


 クラウディアとシーラが言う。

 そうだな。海底からみんなについていけばいいか。水魔法の泡に包まれる形で進んでいけば濡れる心配もないし。


「では、僕達は水魔法を使ってついていきます」

「それじゃあ、案内するわね」


 ドルシアの娘が嬉しそうに言う。というわけで皆に魔法をかけて、甲板から人化の術を解いたネレイド達についていく。

 島の岸壁に向かって海底から進んでいくと岩陰に隠れるような形で海底洞窟めいた穴が開いており、ネレイド達が魔法の明かりを浮かべて更にその中を進んでいく。


 やがて――岩をくりぬいたかのような空気のある層に出た。少しだけ広くなっており、地上に向かって階段が伸びているようだ。水を汲む井戸を兼ねているのか、直上にロープと桶が垂らしてあったりして。海水を水に変えて飲料水にしていたという話だから、井戸としてはこれで事足りるのだろう。

 ドルシアやその娘達が使っていたものなのか。漁に使う網や籠も壁をくりぬいた棚のようなところに置かれていた。


「ここから……皆さんが漁に出ていたわけですね」

「井戸も兼ねているのね」

「海岸まで水瓶を持って行ったり島の下の方に降りて漁にいくのは大変だからお父さんが作ってくれたって、お母さんが言ってたよ」


 生活感のある光景に、アシュレイとイルムヒルトがしみじみとした声で言うと、ドルシアの娘達が微笑んでそう答える。


「サンダリオ卿は……思い遣りのある人だったんだな。うん」


 と、納得するように頷いているヘルフリート王子である。


 先に上陸させてもらい、後から人化の術を使ったネレイド達が水から上がる。階段を少し昇っていくと、地上部分は井戸を併設した小さな木の小屋になっていた。幾つか水瓶が用意されていたりして。ここで生活用水全般を汲み上げていたわけだ。


 小屋から出ればもう島の中だ。石のタイルが丁寧に敷き詰めてあって道になっていたりして……サンダリオとドルシアが時間と労力をかけて島を整備していったことが窺える。

 サンダリオの得意な魔法系統は耳にしていないが、少なくとも土魔法を使えたのは間違いない。トンネルは魔法で段階的に掘っていったのが窺える痕跡があった。


「綺麗な島ですね。森もきちんと手入れされているようですし」


 エレナが周囲を見回して言う。井戸の近くに果樹園もあって――その向こうに畑が整備されている。更に畑の奥――日当たりのよい場所に、明るい色合いの品の良い家が建ててあるのが見えた。魚の日干し台。燻製器等々、生活に使っている道具も散見される。

 必要な物が揃っているがこじんまりとしている割に長閑な景色で……サンダリオとドルシアの性格というか人柄が見えるような。一家の幸せそうな暮らしぶりが見えてくるような。そんな風景。

 果樹園は――そうだな。いくつかの種類を分けて植えてあるようだ。季節問わず収穫できるように分散させているのだろうか。


「家の向こうが丘になっていてね。草原と、砂浜と海を見渡せるようになってるのよ」


 と、明るい陽射しの中を嬉しそうに案内してくれるドルシアの娘の後を、俺達はついていくのであった。

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