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番外503 宝の出自は

「サロモンの宝を見つけたはずが、謎が深まってしまうとは。中々ままならないものですな」


 バルフォア侯爵はそう言ってかぶりを振った。


「そうですね……。厳重に封印して終わり、としてしまっても良いのかも知れませんが、これだけの品となると、下手をすると国宝級の品。過去の事とはいえ、調べれば必ず手がかりはあるはずです」

「確かに……。どのような物品か判然としないままでは、将来に不測の事態を招く事も考えられますな。できるならはっきりさせておくのが望ましいのは間違いない。何か……ここからの手をお考えで?」


 バルフォア侯爵もその点は同意見であるらしい。目を閉じて思案しながら首肯し、そんな風に質問してきた。


「情報を秘匿しながらとなると……僕としてはグランティオス王国のエルドレーネ女王やヴェルドガル王国の信用のおける伝手を頼るなどして出自を探る、という手を考えていますが……。それにはデメトリオ陛下の許可が必要ですね」

「経過も報告しなければなりませんからな。サロモンが偽装海賊であったとするなら過去の西方海洋諸国の王侯貴族のいずれかの差し金。彼の国々とやや縁の遠い国々であるなら逆に相談しやすくなるのではないかと、個人的には思います。どうするにせよ、確かにデメトリオ陛下にお伺いを立てる必要がありますな」

「では――少し場所を移動しながらその方向で進めていきましょうか。案内をお願いできますか?」


 ネレイド達に視線を向けるとドルシアの娘達が頷いた。


「お父さんとお母さんの島に案内すればいいのね?」

「どっちかって言うと、海の下を進んでもらった方が私達には分かりやすいわ」

「わかりました」


 ネレイド達にとっては海底の方が見慣れた風景というわけだ。アルファがこくんと首を縦に振って、シリウス号が潜航していく。

 案内に従ってサンダリオ卿達が暮らしていた島へ向かい海面下をゆっくりとシリウス号が進む。島の近くを今夜の停泊地にする予定だ。


 バルフォア侯爵によれば、まだ夜遅いというわけでもなく、この時間ならデメトリオ王は書斎にいる事も多いから連絡もつくだろうと、早速ハイダーで連絡を取ってみる。

 近くにデメトリオ王がいれば合図を送ってもらうようにと向こうのハイダーに指示を出すと、少しの間を置いて、向こうの映像が映った。


『確か、この部分に触れれば良いのだったか?』


 と、そんな事を書斎の机の上にいるハイダーに話しかけながら水晶板モニターを操作するデメトリオ王の映像が映し出される。こくこくと頷くハイダーに少し笑って隣の水晶板に視線を戻し、そして俺達の姿を見て楽しそうな表情をする。


『おお。本当に向こうの様子が見られるのだな』

「これは陛下」

『バルフォア侯爵か。そちらの首尾はどうか』

「無事に隠された物品を入手しました。しかし……どうにもどのような目的で使われていたものなのか、はっきりしたところが分からず。保管や封印の方法を考えるにしてもそのあたりの事を追究すべきかどうか悩んでいるのです」


 バルフォア侯爵の言葉に、デメトリオ王は納得したというような表情になる。


『なるほど。それで報告と相談というわけか』

「テオドールが相談に加わるなら、操船を代わるわ」

「ああ。それじゃあ、お願いできるかな」

「ええ」


 というわけで操船を一旦ローズマリーに代わってもらい、俺も話に加わる。まずは旧マルティネス家とバルフォア侯爵家であった事。調べ物の経緯を話していく。


「――というわけで、手記の内容と共に肖像画に伝言が残っていました」


 手記の内容と肖像画の伝言を伝えると、デメトリオ王は思うところがあるのか、静かに目を閉じる。


『後世の平穏の為……か。場合によっては今とは状況が違っていたであろう。そう思えばマルティネス家の者達の判断には頭が上がらぬな。忠臣らに孤独な戦いを強いてしまった事を……余としては今後においても教訓とすべきであろう。彼らが強い絆で結ばれていた事は喜ばしい事ではあるが』


 忠臣か。マルティネス家の人々も、当時の主君が彼らの判断をそう言ってくれるような人物であったなら、また対応も違っていたかも知れないが。

 少しの間を置いてからデメトリオ王は目を開き、静かに頷く。では、話の続きをしていこう。

 伝言に従って凪の海に赴き、獅子の爪、竜の鼻先を目印に探索をした事。そうして「サロモンの宝」を見つけた事を話していく。


「これが――実際の物品です。ロヴィーサさんやネレイドの皆さんは揃って、あまり馴染みがないものの、強い海の気配がする、と仰っています。僕の見立てでは魔力の気配は清浄なものでも邪悪なものでもなく……強力な魔獣の魔力に似ている、と感じました。生命反応や独自の意思のようなものはないようですが、魔物からはぎ取ったか、死後に残ったか……そうした代物なのではないかと」


 首飾りについた発光する球体を見せるとデメトリオ王が眉根を寄せる。


『……長い年月を経てもその力に陰りがないとは。それにマーメイドもネレイドも知らない、海に纏わる品……。これは根が深い』

「サロモンが偽装海賊であった場合、これだけの品となると出自を探られる事で足がつくから大事を取って海賊としては撤退した、という可能性がありますな」

『海賊としては、か。工作員としては残った可能性が高いわけだな』


 バルフォア侯爵の言葉を受け、デメトリオ王は顎に手をやって思案する。

 魔法の発動体や儀式の触媒に類する目的で使われていたのではないかという見立ても伝えていく。問題はどう使われていたものなのかが分からない現時点で、これの扱いをどうするのかという事だ。下手をすると将来に禍根を残す事になりかねない。

 そういった考えを説明すると、デメトリオ王はこちらを真っ直ぐ見て尋ねてくる。


『――つまりは目的をはっきりさせる事で適切な後始末をするか。それともそういった事には目を瞑り、厳重に封印してしまってそれを良しとするか、というわけだな』

「はい。物品の情報を表に出さずに調べるとなると、グランティオス王国のエルドレーネ女王か、ヴェルドガル王国の伝手を頼る必要が出てくるかなと思っています。しかしそれには陛下の御意向をお聞きする必要がありましょう」

『構わぬぞ。元々それがどういう物であれ、グロウフォニカの財というわけでもない。過去が暴かれたところで我が国の腹が痛むわけではないからな』


 と、デメトリオ王は冗談めかしてにやりと笑った。

 ああ。確かに。暴かれて困るのは過去、これらを使っていた者達だろう。

 それからデメトリオ王は真剣な表情になると言葉を続ける。


『余計な火種を後世に残すのは好まぬ。今の平穏の礎を作ったマルティネス家の忠節にも応えたい。真相を知る事に繋がりそうだというのであれば進めて貰いたい』

「分かりました。では――」


 というわけで……今度はエルドレーネ女王に連絡を取る。水晶板モニターにエルドレーネ女王の顔が映り、俺達の顔を見ると明るい表情になる。


『おお、テオドールか』

「はい。急な連絡で申し訳ありません陛下」

『なんの。そなたからの連絡や相談以上に重要な事もそうあろうはずがない』


 と、笑うエルドレーネ女王である。

 まずは現在の状況を掻い摘んで説明し、更にデメトリオ王とバルフォア侯爵達を紹介する。


『お初にお目にかかる。デメトリオ=グロウフォニカだ』

「エルドレーネ陛下におかれましてはご機嫌麗しく」


 と、デメトリオ王達からもエルドレーネ女王に自己紹介をする。エルドレーネ女王も笑顔で応じる。


『デメトリオ王とバルフォア侯爵との知己を得られた事、嬉しく思う』

「こちらこそ」

「ご無沙汰しています、エルドレーネ。前にお会いした時は私が族長となる前でしたが」

『モルガンか。久しぶりであるな。という事は先代から長の座を引き継いだと。では、祝福の言葉を述べねばな。モルガンとネレイド族の先行きに幸多からん事を』

「ありがとう」


 エルドレーネ女王とモルガンは元々面識があるらしく、そんな風に言葉を交わし合っていた。

 そうして各々紹介も終わったところでこちらの状況を説明し、見つけた物品をエルドレーネ女王に見てもらう。


『――ロヴィーサもネレイド達にも馴染みのない、海の魔物の部位、か』

「何かご存知ないでしょうか?」


 ロヴィーサが尋ねると、エルドレーネ女王は少し思案して言った。


『ネレイド達が住むよりもっと西方の海には――海王が潜んでいたような深い溝があるらしい。深みに住まう魚人族は我らの知る魚人族とはまた少し暮らしぶりが違う、と聞いたことがある。比較的浅い海に住まう我らに馴染みがない力というのであれば……彼らが何か知っている可能性はあるな』


 ……なるほどな。偽装海賊が西方海洋諸国から来たと言うのなら、西の海溝の魚人族がこの球体の出自の情報を持っている、という推理も道理か。

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