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番外500 凪の海へ

 ――明くる日。予定通りに朝食をとってから獅子の爪に向かって出発する事となった。人員の点呼や忘れ物の確認等進めていると、バルフォア侯爵も同行するということもあって、使用人や騎士、兵士の主だったものも見送りに来てくれた。


「我ら一同、旅の無事を祈っております」

「ああ。ありがとう」

「ありがとうございます。バルフォア侯爵と共にまた戻って参ります」


 使用人達の挨拶にバルフォア侯爵と共にアルバートがそんな風に応じて。俺も騎士や兵士達の敬礼に敬礼で返す。そうして和やかな雰囲気でみんなに見送られる中、俺達は城を後にしたのであった。

 目指すはガルニカ伯爵領、南西の海にある獅子の爪だ。シリウス号は段々とバルフォア侯爵領直轄地を離れて進んでいく。


「凪の海は――船舶の航行が少ない場所なので、私達も利用させてもらいました。サンダリオ卿とドルシアが暮らしていたのも、そうした海の近辺の無人島になります」


 艦橋に腰を落ち着けたところで、モルガンがそんな風に教えてくれた。


「人の飲み水は海水から作れるし、食べ物は魚が手に入るわ。でもそれだけじゃ何だからって、暮らし始めた時にサンダリオさんが、あまり手のかからないらしい作物の種や肥料やら農具や大工道具を、陸から買って持ってきてね」

「懐かしいわね。私達も最初は協力して色々住環境を整えたものよね」


 と、楽しそうに笑うネレイド達。


「私達が生まれた時には畑や果樹園も島にできてたのよ」


 ドルシアの娘が笑顔で教えてくれる。


「二人で農作業も頑張ったということかしら」


 クラウディアが表情を綻ばせて尋ねると、ドルシアの娘達が嬉しそうに答える。


「お父さん、鍬に闘気を纏って土を掘ったり……凄かったよ」

「母さんも水や土の精霊にお願いしたりね」


 なるほど……。開墾作業も闘気を操れるレベルの騎士なら捗るだろうしな。ネレイドも精霊と親和性が高いから、それで農業の効率を上げていたわけだ。

 手持ちのお金というのはサンダリオが私財を処分したりして作った金かな? まあ、魔法も使える騎士と精霊と対話のできるネレイドの自給自足生活というのは中々興味深いところだ。


「獅子の爪から近い場所にあるのなら、用事を済ませたら見に行くのも楽しそうですね」

「島の中を見せてもらったり、というのも面白そうね」


 アシュレイが笑顔で言うと、ステファニアも同意する。


「うん。きっとサンダリオさんやドルシアも喜ぶわ」


 カティアがにっこりと笑った。ふむ。物品を手に入れたら立ち寄ってみる、というのも面白そうだ。


「もしかすると僕の参考にもなるかも知れないな」


 と、ヘルフリート王子は割と真面目な目的を見出したりしているが。まあ……ヘルフリート王子の場合は追われている事情もないし、ネレイドの秘密を勘案した上でもそこまで世俗から切り離さなくても何とかなりそうな気もするが。


 ともあれ、未だに島を魔法で見えなくしているのかどうかは不明だが……サンダリオとドルシアの島に立ち寄る時はシリウス号が目につかないようにする方が無難かな? それを言うなら獅子の爪に向かう時もだろうが……。


 んー。そうだな。今回はネレイドの里にも向かうわけだし、迷彩フィールドで姿を消すよりも、頃合いを見て海面、海中を進んでいくのが良いかも知れない。




 現地への到着時刻を計算しながらゆっくりとした速度で進んでいき、段々と高度を下げる。凪の海の緯度付近に到達したところで周囲に船影が無い事を確認してから海面へと降りる。船体を半分ほど沈め、艦橋と甲板だけ海面に出るような状態で進んでいく。


 こうした緯度の、風の吹かない海には地球ではサルガッソー海がある。栄養分が少なくて魚がほとんどいない代わりに透明度が非常に高いなどと聞いたことがあるが……この近辺の海に関しては島々などの陸地が多い事もあってか、そこから流れる栄養分も豊富で、生態系も豊かなようだ。色とりどりの魚、イカにタコ、珊瑚礁、海藻と……賑やかで明るい海のように見える。


「海の中ってやっぱり綺麗……」

「うん。あれは……初めて見るかも」

「あれはウニですね。でも随分と大きいですが……」

「あの種類のウニはこっちの海にはもっと大きく育つのがいるのよ。魔物でもないし、毒もないから安心だけど……あんまり美味しくないのが珠に瑕ね」


 と、モニターを食い入るように見るカルセドネとシトリアに、エレナとカティアが海の生き物について教えたりしていた。「ウニ……食べられるの?」と、首を傾げる双子にシオン達が「種類によっては美味しいですよ」と教えたりして。

 中々微笑ましい光景にシーラがうんうんと頷いたりイルムヒルトがくすくすと笑ったりしている。


「――現地到着は、夕刻になるより結構早めになるかな。獅子の爪の場所は特定されてるけど、迷った場合や間違いないと確認する時間も計算に入れてるから」

「ぎりぎりだと慌ただしくなるからねえ」

「ふふ、余裕は大事ですわね」


 俺の言葉にアルバートが応じて、オフィーリアも同意する。そうだな。時間は余裕を持っておきたい。


「晴れて良かったですね。雨になっていたら夕日も見えなかったかも知れません」

「そうね。計算できる……とは言っても、夕日と影を見て方位を特定する方が楽しそうではあるもの」


 グレイスが言うとローズマリーもそんな風に言って肩を竦めた。マルレーンがにこにこしながら同意する。

 背中に夕日を背負うのだから、伸びた影の先が目指す島、というわけだ。


「ああ。それと――今回の注意事項を一つ。闇魔法で対策するつもりだから今回は大丈夫だけれど、絶対に太陽を直視しないように。太陽光は想像してるよりもずっと強くて、直視していると目をやられるから」


 今回は夕日の位置を確認するなどして、太陽を見る事になるのでこの辺の注意はしっかりと確認しておきたい。


「分かったわ」

「分かりました」


 俺の言葉にみんなは神妙な面持ちで答える。

 動物組も翻訳の魔道具や五感リンクで俺の言いたい事はちゃんと伝わったようで。揃ってこくこくと頷いていた。うん。大丈夫そうだ。


「太陽光は我の感覚器なら問題ないが、主殿が対策を、というのなら大丈夫だな」


 と、核を明滅させるマクスウェルと、同意するように頷くアルクスとアピラシアであった。

 そうしてシリウス号を進めていく。風のない穏やかで静かな海を進んでいき――段々と獅子の爪がある海域に近付いていく。そして――最初にそれを発見したのは、ロヴィーサとブルーコーラルであった。


「竜の鼻先――あれではありませんか?」


 と、モニターを見ていたロヴィーサの言葉と、信号音と共にマニピュレーターを振るブルーコーラルに皆の視線が集まる。

 モニターの先には――岬の突端部分で竜が首をもたげたかのような岩場のある島が見えていた。モニターで拡大していたりはするが、確かに特徴的な地形で目印として使われる理由が良く分かるというか。上に突き出す形になっている地形なので遠くからも目立つ。


「うん。多分あれだね」

「後は獅子の爪、ですな」


 バルフォア侯爵が海図を見ながら言う。


「爪については、もう少し進んだらバロールを高空に打ち上げて探してみようかと思っています。海岸線が爪のような形状のようになっている島、ということでしたね」

「そうですな。船の甲板から見ると丁度爪のように見えるということでしたので。一度高度を上げた方が見つけやすいかと思っていましたが、空から見る方法があるのなら安心ですな」


 と、バルフォア侯爵が俺の言葉に笑みを浮かべ、バロールが目蓋を瞬かせるようにして同意するのであった。

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