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番外496 在りし日の肖像画

「旧マルティネス家の遺産については、サンダリオ卿に縁の深い品を見学できるようにと陳列してあるのです」


 と、バルフォア侯爵が城の一角に案内してくれる。


「これは侯爵。お帰りなさいませ」

「ああ。ただいま。ヴェルドガル王国の客人が、観光と見学に来たのでね。中の品々を手に取って調べる事になるが心配はいらない」

「はっ!」


 兵士達の敬礼に敬礼で返しながらその部屋に入室した。バルフォア侯爵が入口に置いてあった水晶球に触れると、部屋に魔法の明かりが灯る。


「ああ。これは――すごいですね」


 部屋の中を一目見るなり、みんなの歓声も漏れる。

 一言で言うなら博物館のそれだ。恐らくサンダリオにまつわるであろう物品がガラスケースに整然と陳列されて――魔法の光でライトアップされている。

 説明文もしっかりと書き込まれているあたり、外からの閲覧者を意識している事が窺えるが。


「サンダリオ卿は英雄視され、騎士の模範とされている人物ですからな。彼にまつわる品々を陳列し、それを見てもらう事は騎士や兵士を志す後進の育成や、現職の士気向上に繋がるだろうという理念で過去に作られたものです。王都の造船所を参考にしている部分はありますな」

「なるほど。確かに、少し雰囲気が似ていると思いました」

「一応、魔道具を用いて書物等々が傷まないような環境を整えております。サンダリオ卿の生家ではこれだけの環境を整えつつ警備を配置するのも難しいという事情があり、こうして城に移された次第なのです」


 なるほどな。管理の為、とは言っていたが、経年劣化や盗難なども含めて対策を施した上で後進や現職のために活用しているというわけだ。


「環境を整えると言いますと、植物園の温度や湿度を保つ魔道具と似た感じでしょうか」

「書物にとっても温度と湿度は重要ではあるわね。水魔法や風魔法は航海においても重要だし、グロウフォニカ王国の得意な分野でしょう」


 アシュレイが首を傾げるとローズマリーも静かに頷いた。


「植物園と似たような魔道具か。他の人が作った同じ目的の魔道具は勉強になるね」


 と、アルバートは真剣な面持ちでガラスケースに目をやっている。片眼鏡からはあちこちから魔力が発生したり展示物を覆ったりしているのが見える。


「サンダリオ卿本人にあまり関係しないと思われる品々は奥の部屋に保管されております。恐らくは……皆様の探し物もそこに含まれているでしょう。ですが――まずは肖像画の確認と参りましょう」


 バルフォア侯爵はこちらへ、と部屋の奥へと案内してくれる。いくつかの大部屋を一つに改装したものらしく、元々の部屋を区切る壁が間仕切りのようになっている。隣の区画に進むと、そこには武器防具類が陳列されていて、奥の壁に照明で照らされた肖像画が飾られていた。


「ああ。あの人は――」

「お父さん……お父さんだ」


 肖像画を目にしたネレイド達の驚きや嘆息の声が重なる。どうやら間違いなさそうだな。栗毛の髪に青い瞳。少し雀斑のある青年だった。グロウフォニカ王国の騎士鎧を纏い、やや照れくさそうにはにかんだように軽く首を傾げて微笑む。礼装の騎士姿ではあったが、肖像画からでもその人となりが伝わってくるような、温和そうな人物であった。


「どうやら――サンダリオ卿に間違いなさそうですね」

「はい。あの御仁に間違いないかと」

「肖像画は……記憶にある父と比べると若い姿ですが、仕草や雰囲気がとても良く似ています」

「うん。私、あのお父さんの表情の作り方とか……好きだった」


 モルガンとドルシアの娘達が揃って肯定する。


「仕草や雰囲気となれば……どうやら、間違いないようですね。良かったです」

「良い絵ね。きっと肖像画を描いた人も、サンダリオ卿を大切に思っている人だったのでしょう」

「ありがとう。こうして見つけられたのもヘルフリートやみんなが、親切にしてくれたおかげだわ」


 グレイスやクラウディアが微笑んで言うと、カティアが嬉しそうに答える。そうしてネレイド達がこちらを向き直り、真剣な表情でモルガンが言った。


「まだ問題は残っていますが、故人の心残りもこれで一つ解決した、と思います。皆様の厚意と友誼に、一族を代表してお礼を申し上げます」

「僕からもお礼を言わせて欲しい。みんなのお陰できちんと約束を果たす事ができた」


 モルガンの言葉と共に、カティアやドルシアの娘達が深々とお辞儀をし、ヘルフリート王子もお礼を言ってくる。


「ネレイドの皆さんの想いがあったからこそですし、一番大変なところはヘルフリート殿下が調べていて下さったからこそです。お力になれたようであれば何よりです。陸の民と海の民の親善がまた深まっていけば……それは僕としても嬉しい事ですから」


 俺からもそんな風に答えるとヘルフリート王子とカティアやモルガン達が静かに微笑んで応じる。そうしてネレイド達は改めてヘルフリート王子にも丁寧にお礼の言葉を口にして――それから故人の思い出を懐かしむように、暫くの間、肖像画をじっと見上げるのであった。




 ネレイド達はもう少しそっとしておいた方が良いだろうということで、本格的に調べ物をする前に改めて他の展示物を見てみようという話になった。

 肖像画の間には良く使いこまれた武器防具も展示してある。説明文によると、サンダリオ卿が訓練に用いていた剣や鎧であるらしい。


「この剣は魔法の発動体にもなっているわけね」


 ステファニアが剣をまじまじと見て言う。


「みたいだね。魔法剣士の訓練用ならではなのかな」


 簡素ではあるが、剣も魔法も訓練できるようにと、頑丈な作りだ。大小様々な傷や歪みが残っていて、本気で使い潰した形跡がありありと残されている。


「ん。防具もわざと重くしてある」


 と、鎧を見たシーラが言う。そうだな。鎧も――纏った際のバランスは変えずに重量だけを敢えて増したような作りで……恐らく鎧を着たままでも機敏に動けるようにという目的で重量のあるものを訓練用にしていたというわけだ。


 サンダリオは温和そうだが、自身への訓練に関してはかなりスパルタ気味であったようだ。訓練用の武器防具から見ても、その実力は推して知るべしといったところか。


「他の騎士さん達にとっても刺激になりそうね」


 イルムヒルトが微笑んでそう言うと、マルレーンがこくこくと頷く。


「陳列してある品は、サンダリオ卿が行方不明になる前に友人と交わしたお手紙などですね。怪我をした友人に薬を届けたりであるとか人となりが分かるような資料でした」


 と、エレナがそんな風に言う。エレナはカルセドネとシトリアを連れて見学と解説役を買って出ているようだ。


「家系図や家族に関するものなど、マルティネス家の資料、蔵書等々はそこの扉を入った先ですな。書庫のようになっておりまして、他の品々も共に陳列棚に置いてあります。こちらは数も多いので一般には公開しておりませんが、ある程度は種類ごとに分類分けして、目録もありますな」


 バルフォア侯爵がそんな風に教えてくれた。


「ありがとうございます。もう少ししてネレイドの皆さんが落ち着いたら、書庫側に移動して調べ物をさせていただきたく思います」

「書庫の向かいも大部屋で大きな机がありますので、その部屋も活用してもらえばじっくりと調べ物ができると思いますぞ。飲み物等々、休憩用の部屋も近くに用意させております。食事や湯殿も準備ができたら連絡致しましょう」

「ああ。それは助かります」


 中々至れり尽くせりだな。貴重な資料でもあるので調べ物中の飲食は厳禁ではあるが、休憩の事まで考えてサポートしてくれるのは有り難い話だ。


 優先的に調べていく資料としては当時の日記、家系図、魔法の教本、魔道書や研究資料の類……だろうか。目録があるというのなら、それも活用させてもらうとしよう。

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