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番外489 南方の海へ

「ネレイド達が当時、海賊サロモンを危険視し、彼らの海賊旗を知っていた事から時代を割り出しました。その時代、短剣を所有しており、且つ行方不明等々の条件に合致するのがサンダリオ卿だけだった、という消去法から当たりをつけたわけですが……ここで彼が海賊から追われていたという点から、奪った物品が気にかかりました。ここからの話は今までの話を前提に図書館の資料と突き合わせた仮定の話、としてお聞き下さい」

「ふむ。承知した」


 どういう経緯を経てサンダリオだと断定したのか丁寧に説明し、そこから海賊サロモンの財宝についての話をしていく。


「僕達が図書館で調べたところでは、サンダリオ卿の事件以後、サロモン率いる海賊団の活動は急速に縮小していきます。これは、サンダリオ卿が海賊のアジトに潜入した折に持ち出した物品が、それだけ彼らにとって重要な品だったからではないか、と思った次第です」

「それらの考えが正しいとするなら――確かに単なる金銀財宝というのは考えにくいな。活動に支障をきたす程の金品を強奪したというのであればサンダリオ個人で持ち出すというのは難しかろう」

「そうですね。僕も状況を見た限り、単純な金品奪取でそうなった、とは考えにくいと思いました。その後の活動が難しくなるとするなら、例えば何かしらの魔道具や強力な力を秘めた遺物。或いは――」

「海賊と他国との繋がりを示すような証拠、ですかな?」


 思案していたバルフォア侯爵が言うと、デメトリオ王も頷いた。


「当時の時代背景を考えれば、それも有り得る話、か。単純に強力な魔道具を手にいれるというだけでも、野心を煽る物はあろう」


 自国の歴史に関する事でもあるだけに、それだけで二人はその後の行動に理由を見つけてしまったらしい。


「そう、ですね。僕達もその可能性を考えました。サロモンが活動縮小したのも、そうした他国の意図で動く偽装海賊の線が濃厚であることを語っていますし。ただ……その事でサンダリオ卿だと思われる人物や、ネレイドの皆さんが悪い印象にならないかを危惧した面はありますが……」


 俺がそう言うと、デメトリオ王は目を閉じて首を横に振った。


「いや……。当時の王や和平反対派の貴族ならそれを不快に思うであろうが……今の時代、しかもその後の平穏を享受して育った余らが、彼の者に感謝こそすれ、責める理由などあるまい。まして、ネレイドの皆は話を聞いた限り、知らなかった、という事なのだろう? 咎はあるまいよ」

「私が当時、もっと詳しく聞いていれば今日こうした面倒な事にはならなかったのかも知れませんが……」


 モルガンは表情を曇らせるも、デメトリオ王は首を横に振った。


「良い。目をかけた者達を信じるのなら、いっそ疑わぬように振る舞う。そういう気持ちや行いには、余にも覚えがある」


 デメトリオ王の言葉は――集団の長としてのものなのだろう。かなり正確にモルガンの気持ちを理解したものなのではないだろうか。モルガンは少し驚いたような表情を浮かべ、それから一礼していた。


 当時の王に関しては――先代の王が和平を成した偉大な王と尊称を受けていたためにそれを立てていたが、当人は血気盛んな性格だったらしい。だとしても政治的な基盤や戦いを始める口実には欠いていたというわけだ。


「そこで野心の後押しをするような強力な武器や、和平の根幹を揺るがすような証拠が出てきてはと危惧する気持ちは分からないでもない。マルティネス家の元々の主家は――確か、武闘派で知られる伯爵家だったはず」


 こちらが資料で調べた部分はデメトリオ王には基本的な知識として頭に入っているらしい。話を信じてもらうために再び資料にあたり、と言うのを考えていたが、この辺は大丈夫そうだな。


「ネレイド族としては、その品を利用しようという考えがない事だけは、はっきりと伝えておきたいと思っております。危険な物であるのなら、適切に処理される事を望んでいます」

「――ネレイド族の心遣いに感謝する」


 モルガンの言葉に、デメトリオ王からも一礼を返す。

 そんなやりとりにアシュレイやマルレーン、エレナ達が顔を見合わせて笑顔を見せていた。そうだな。グロウフォニカ王国とネレイド達との関係に関しては大丈夫そうだ。


「事態の収束――と言っても、過去の事件の後始末となるわけですかな」

「うむ。今現在何かしらの脅威が差し迫っているというわけではないのだろうが、知った以上は対処しないというわけにもいくまい。偽装海賊であった可能性も考えるなら、できる限り内密に調査を進めたいところではあるが……」

「僕達にもお手伝いできることがあるのなら、協力は惜しみません」


 俺が言うと、デメトリオ王は思案するような様子を見せる。


「そうであったな。ネレイド族は海賊の財宝と一線を引くとは言っても、サンダリオ卿の足跡に関しては調べて裏付けを得たい、という話になるのか。であれば、その過程でサロモンの宝に関する手がかりを得られる、かも知れぬな」

「旧マルティネス邸やバルフォア侯爵家も調査対象となりましょう。円滑に進めるには私めも同行する必要がありますな」

「確かに……。内密に調査を進めるならば、今を逃しては人員の選出からということになるか。その点境界公ならば調査能力の高さに間違いはないし、観光に行くという旨も周知されている、と」


 デメトリオ王とバルフォア侯爵はそんな会話を交わすと、俺に向き直り、そして言葉を続ける。


「本来ならば我が国で決着をつけるべき話であるが……少しばかり表立って動きにくい事情があってな。厚意に甘える形になってしまい恐縮ではあるが、どうか境界公の力を貸しては頂けぬだろうか」


 真っ直ぐに俺を見据えて言うデメトリオ王。

 どうやらグロウフォニカの現状も、まだ何かしら入り組んでいる部分がありそうだな。場合によっては西方諸国にも関わってくる話であるし、事情を臭わしつつ明かせないというのは、まだ状況も確定していないのに迂闊な事は言えない、という事でもあるのだろう。


 逆に言えば、そうした台所事情を全く話す気がないなら臭わせる必要もないわけで。調査結果如何によってはそうした事情も話せるようになる、或いは話す必要が出てくる、という事になるのかも知れない。


「勿論です。僕としては公私共に助力をしたいと考える案件ではありますから」


 境界公の立場としてはグロウフォニカ王国ともネレイド族とも友好関係を維持したいし、個人的にもバルフォア侯爵家、ネレイド達は共に親族という括りだからな。ヘルフリート王子の事もあるし。


「礼を言う。表沙汰にはできぬ部分はあるが、必ず今回の恩には報いよう」


 デメトリオ王の言葉に、一礼を返す。


「今後についてであるが……考えている事はあるのかな?」

「ネレイド族が歓迎してくれるという話でしたので、南方に向かうというのは元々考えにありました。調べ物の結果を受けて、デメトリオ陛下とバルフォア侯爵に承諾を頂ければサンダリオ卿の足跡を辿れるかな、と考えていた部分はあります。海賊の宝の調査までは踏み込まず、という話ではありますが」

「なるほどな。では改めて、その人物の裏付けを進めるのと並行して、宝の隠し場所を探る、ということになるわけだ」


 デメトリオ王は俺の言葉に頷いてバルフォア侯爵を見やる。


「では……現地での事を頼んで良いだろうか?」

「お任せ下さい。観光で南方に向かうわけですから、諸々の話も通りましょう」


 バルフォア侯爵は笑みを浮かべて頷くと、俺達を見て一礼する。


「それでは、しばらくの間、御厄介になりますぞ。他国の領主が一緒では折角の観光旅行も息苦しいかも知れませんが」


 と、そう言ってバルフォア侯爵は冗談めかして笑うのであった。

 色々と、まだ確定していない部分もあるが、それも含めての調査ということになるか。

 ネレイド達も好意的な印象で受け止めて貰えたようだし、南方での調査もしっかりとこなして行くとしよう。

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