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番外488 王と海の娘と

 デメトリオ王とバルフォア侯爵への面会の申し入れは、割とすぐに通った。

 普段は領地にいるらしいバルフォア侯爵が王都に残っているのも、俺達が滞在中だからだろうしな。訪問している間、対応が取れるようにしているという事なのだろう。


 というわけで、王城への訪問だ。ネレイド側からは当事者であるカティアと、一族代表として族長モルガンが俺達に同行する。

 ヘルフリート王子は面会に際して説明する側なので、深呼吸しながら気合を入れ直している様子であった。


「それじゃあ、みんな。留守の間、公館やネレイドのみんなの護衛を頼む」


 と動物組、魔法生物組に言うと、リンドブルムやアルファ、ベリウスと言った面々がにやりと笑う。ラヴィーネやコルリス、ティールがこくこくと頷いたりマクスウェルが核を明滅させたり、エクレールが丁寧にお辞儀をしたりと、それぞれに反応を返してきて。

 その賑やかな様子に、やや緊張気味に見えたヘルフリート王子やカティアも顔を見合わせて肩を震わせ……うん。リラックスもできたらしいな。


 ネレイド達も公館の使用人達と見送りに来てくれて、俺達に気を付けて、と手を振ってくれる。


 そうして予定の時刻になり、みんなで馬車に乗って王城へ向かう。書状で前と同じ庭園でお話をと申し入れておいた。先方からの返答もその場所で、という内容のものを貰っている。

 引き合わせたい相手がいる事。その上で相談したい内容がある事も明記しておいたので諸々向こうも了承してくれているようだ。


「上手くお話が纏まると良いですね。ネレイドの皆さんも、優しい方々ですから」


 グレイスが少し心配そうに言う。


「そうだね。俺も上手くいくように説得するつもりではいるけれど」


 まだ見えていない部分の背景がどうであれ、すぐさま西方諸国との利害に関わってくるような内容でもないし、諸々の事情を見る限りでは大丈夫だとは思うのだが。

 そうしている内に馬車も王城に到着する。すぐに女官に案内されて王城の上階にある庭園へと向かう。

 そこには前と同じようにデメトリオ王と護衛の騎士達。そしてバルフォア侯爵が待っていてくれた。


 騎士達は俺達を見ると敬礼を以って迎えてくれる。俺達も一礼を返し、デメトリオ王に挨拶をする。


「ご多忙のところお時間を作って頂き感謝いたします」

「いや。仔細ない。境界公の相談事とあっては何かしらの大事であろうからな。して……その者達が余らに引き合わせたいという、ヴェルドガル王国の客人であったか」


 カティアとモルガンに視線をやってデメトリオ王が言う。二人もその言葉に静かに一礼で応じた。


「ネレイドの族長、モルガンと申します。この子は姪のカティアです」

「ネレイド……。南方に住む人魚、であったか?」


 モルガンとカティアの自己紹介に、デメトリオ王は少し驚いたような表情で、隣に立つバルフォア侯爵に尋ねる。バルフォア侯爵もやや驚いていたようだが、デメトリオ王に問われると居住まいを正して言った。


「そうですな。私の領地付近でも時々目撃報告があります。詳しい実態は分かりませんが、通常の人魚族とは少し違うとも聞き及んでおります。普段は人前には出ないものの、船乗りや漁師が助けられたなどと言う噂も幾度か耳にしておりますな。しかし族長とは――」

「ふむ。何やら込み入った事情がある様子であるが」


 そんなバルフォア侯爵の言葉に、デメトリオ王や騎士達の緊張も幾分か和らいだように見えた。そう、だな。善良な種族だと理解していれば警戒度も下がるか。

 ともあれ、デメトリオ王にしてもバルフォア侯爵にしても冷静というか思慮深いというか、話を聞いてから判断してくれる人物なので、そのへんは助かる。


「まずは――そうだな。腰を落ち着けて話をするとしようか」


 デメトリオ王は東屋に視線をやって言う。


「ありがとうございます。順を追って説明致します」


 というわけで、今までの経緯を説明していく。ヘルフリート王子から嵐の日に怪我を負っていたカティアを保護した事。カティアの怪我が良くなる過程で、お互いに気を許し、ネレイド達の事情を話してもらった事。今回はネレイド一族の許可があるので、最初から相談された内容を明かす事ができる。


「本来ならばすぐさま詳らかにすべきだったのかも知れませんが――その時はもう少し個人的な範疇に留まるものと考え、信用して相談してもらった内容を無闇に口外するのも誠意がないかと……報告できなかった事を謝罪します」


 ヘルフリート王子はそう言って深々と頭を下げる。


「海賊から追われた男の遺族や心残りの確認と墓前への報告、か。いや、確かにそれだけなら特に問題はあるまい。我が国ではグランティオス王国の民とも交流があるし、海の民との繋がりがある。信用のために、という理由も分からぬではないが……その口振りだとまだ続きがありそうではあるな」

「はい。カティアは公館に留まり、怪我の具合が良くなるまで滞在していたのですが……その過程で色々と話をしている内に、その……お互い惹かれていった、と言いますか」


 と、ヘルフリート王子が頬を赤らめて頭を掻き、カティアも少し気恥ずかしいのか小さく咳払いしていた。

 そんな流れは予想していなかったのか、デメトリオ王もバルフォア侯爵も顔を見合わせ、やや毒気を抜かれたという感じの笑みを見せた。


「そう、か。いやまあ、やや驚いたが、それに関しては親身になる理由も秘密にしようとする理由にも納得がいった。メルヴィン王がどう思うかはともかく、余らは口出しする部分ではあるまい。祝福するべき、良い話なのだろうと言っておこう」

「ありがとうございます」


 と、律儀に頭を下げるヘルフリート王子。その人柄に対しては、デメトリオ王達は割と好意的な様子に見えるが。


 そうして話はそこから進んでいく。

 男の持ち物であったグロウフォニカの紋章が刻まれた短剣から、ヘルフリート王子はその人物がグロウフォニカの公的な立場にあった人物でないかと見当をつけた事。それなら短剣を持つ人物のその後を追うことで絞り込めるのではと思った事等々……。


 その内にアルバートの結婚式の招待が来たのでグランティオス経由で帰ったことや、姉であるローズマリーがヘルフリート王子の言動から、何かしら悩みがあるのではないかとあたりをつけて、そこから相談に乗っていった経緯についても話をしていく。


「その時点では信頼してもらって話してもらったネレイド達の事情を、ヘルフリート殿下は自分の一存でおいそれとは話せないからと。当人に許可を貰ってから話をするということになりました。僕としては――元々他種族との友好を考える立場でしたので、調べ物があるのなら協力しようという方向で動くことにしました。グロウフォニカ王国との親善も、同時に大切なものでしたので、その辺りで失敗があってもいけないと、懸念をしたというのもあります」

「相談事は部族の平穏に関わるものの危険な事や、悪事ではないようでしたから、それならば僕の新婚旅行先をグロウフォニカ王国にするというのは良い案なのではないかと、オフィーリアと話をしたのです」


 俺の言葉を補うようにアルバートも言う。


「信義や人助けゆえの行動と、我が国との関係性を重視した結果、か。ふむ。儀礼の短剣を持つ人物について気になるところだが――」


 デメトリオ王は思案しながら頷く。続きを聞きたがっているのは分かったので、この国に到着してからの事も順を追って話をしていく。

 王城に挨拶に行き、観光と幻影劇の題材探しも兼ねて図書館に調べ物に行った事。そして、その上で分かった事についての諸々だ。


「サンダリオ=マルティネスとは……」

「ご存知ですか?」


 調べた結果としてこの人物に辿り着いたと伝えると、デメトリオ王とバルフォア侯爵、それに護衛の騎士達は揃って驚きの表情を浮かべた。マルティネス家がバルフォア侯爵家に婿入りした事などは、バルフォア侯爵は把握していても不思議はないと思っていたが、デメトリオ王や騎士達もこうして驚きを見せるというのは……やはり歴史に残っているサンダリオの行動が英雄的であったから、だろうか。


「海賊との戦いにおいて、騎士団では今も尚語り草になる人物だ。殿と囮を買って出て行方不明になったとされているが……」


 なるほど、な。


「では――サンダリオ卿がネレイドの娘と結婚したと言うことは、我がバルフォア家とネレイド族は――遠い親戚関係ということになりますか」

「どうやらそのようです、伯父上。わたくし達も含めれば、ヴェルドガル王家とも親戚筋ですね」


 と、目を丸くするバルフォア侯爵にローズマリーが頷いてそんな風に答えていた。バルフォア侯爵はいやはや、と苦笑しているが、思いもよらなかったというもので……どうやら不快ではなさそうだ。


「このことに関しては――あくまで条件全てに合致したから、という事になります。裏付けを得て確定させるためには、実際にバルフォア侯爵家やマルティネス家の旧邸等、見学させてもらうしかないのかなと」

「なるほど。それで私もここに呼ばれたというわけですか」


 バルフォア侯爵は得心いった、というように頷いていた。後は――サンダリオの行動と海賊周りについてか。この点に関してはネレイド族も協力はすれど海賊の秘宝については管理をグロウフォニカ側に任せるという事で話がついている。

 デメトリオ王にはネレイド達に野心等々が無い事も含めて、しっかりと話をしていくとしよう。

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