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番外486 王子と海の娘と

 精霊に近しい種族であるが故の庇護と契約、みたいなものだろうか。誓いは単なる言葉だけのものに留まらないというわけだ。


「……多分、あの子――ドルシアは相手から全ての事情を聞かされていたのでしょうね。伴侶は海賊との間に揉め事を抱えているようだけれど、一族には何があっても迷惑がかからないようにするからと。そのためには誰も知らないところへ旅に出ても良いとまで言っていました」


 族長のモルガンは当時、挨拶にやってきた二人の事を今でも覚えていると、色々と聞かせてくれる。


「一方の男は、迷惑をかけられないから細かい事情は明かせないまでも、守らなければならない物が増えてしまったと。そう言っていました。ドルシアを説得したようですが、危険があるなら尚の事守りたいのだと、そう言われて覚悟を決めたと言っていましたね」

「惹かれ合っていたからこその葛藤、でしょうか」


 サンダリオもドルシアも、お互いを守ろうとして。サンダリオは最初、ドルシアを危険から遠ざけようとしたが、ドルシアの方は既に覚悟が出来ていて、引かなかったのだろう。


「そうなのだと思います。私は――話せないという事情や迷惑をかけられないという気持ちや覚悟は理解しましたが、一族の娘とその伴侶を見捨てたとあっては族長の名折れだと返しました。二人が平穏に暮らせる場所は私達が用意するから、それならば危険な旅に出る事も無くて済むからと、そう説得したのです。二人は、陸と海の民。逃亡の旅はどちらかに……いえ、両者共にきっと辛い物を強いるでしょうから」


 そして……どちらも暮らすのに不都合のない無人島を見繕い、魔法で隠した、というわけだ。モルガンもまた、事情を聞かずにこうした対応を取れるあたり、器の大きな事だが。


「ですが、実は二人にも知らせず、無人島に危険が迫った折は精霊達に頼んで感知できるようにしてありましたからね。その時は腕利きの者達と共に駆けつけるつもりでしたよ」


 と、モルガンは少し悪戯っぽく笑い、数人のネレイド達が目を閉じてうんうんと頷いていた。


「それは何と言いますか……優しい、素敵なお話ですね」


 グレイスはモルガンの話を聞いて穏やかな笑顔で微笑む。


「ふふ。その後の事は……ドルシアの娘達から父親の心残りを調べに行きたいと相談を受けまして。優しい子達に育ったなと、嬉しかったものです。あの御仁も、最後まで約束を違えませんでしたから」


 モルガンの言葉に、ドルシアの娘達が頷く。


「族長様に父さんの事を相談したら、里のみんなで考えましょうって」

「里のみんなも、一緒に探すからって言ってくれて……嬉しかったな」

「皆さんが手伝うと仰って下さったのも嬉しいです。ありがとうございます……!」

「まあ……わたくしの親戚でもあるという事も分かったし。協力するのに吝かではないわね」


 面と向かってお礼を言われたローズマリーは、羽扇で表情を隠しつつもそんな風に答えていた。ステファニアやマルレーンがにこにこして、咳払いもしていたが。

 まあ……ネレイド達が自主独立を重んじている理由も分かった。

 一族の秘密は他種族にはおいそれとは明かせないというか、公表はできないだろうし、友好的であっても交流は制限せざるを得ないというわけだ。


「今後についてですが……少しの間王都で観光をする予定になっていますので、方針が纏まりましたら教えて下さい。その間公館に滞在していただいた方が便利かも知れませんね」

「ありがとうございます。なるべく早くお返事ができるようにします」


 俺の言葉にモルガンが微笑む。そうして話が一段落したところで、モルガンのところへ少し緊張した面持ちのヘルフリート王子がやってくる。


「改めて、自己紹介をさせていただきたく思います。ヴェルドガル王国第3王子、ヘルフリート=ヴェルドガルです」


 ヘルフリート王子の真剣な表情に、モルガンもふと真剣な表情に戻って向かい合う。


「僕も……種族の事情については聞いていました。僕は若輩であり、剣も魔法も未熟で心許なく映るかも知れませんが……結婚をお許し頂けるならば約束を違えず、全身全霊を以ってカティアを守る事を誓います」

「私からも……お願いします、モルガン様」


 カティアと共にモルガンに深々と一礼する。


「2人とも、顔を上げて下さい」


 そんなモルガンの言葉に、ヘルフリート王子とカティアが少しの間を置いてから応じる。それを見て、僅かに呼吸を置いてからモルガンは答える。


「ヘルフリート殿。あなたは……優しくて真っ直ぐな人だと、そうカティアから伺っていますよ。小さな精霊達からも好かれていますし、私の見立てでもそうなのだろうと思います。困難にあって立ち向かう力も確かに大切な物かも知れませんが……あなたのような心もまた、何よりの宝だと私は思うのです」


 そう言って、ヘルフリート王子にモルガンが微笑む。


「ヴェルドガル王国側とのお話など……まだいくつか二人で越えなければならない事情もあるでしょうが……どうかカティアの事をよろしくお願いしますね。勿論、私達も力になりますよ」

「はい……!」

「ありがとうございます!」


 モルガンの言葉に、ヘルフリート王子とカティアも明るい表情になった。俺達も、周囲のネレイド達も拍手を送って二人を祝福する。


 まあ……族長のモルガンが来たから。しかもカティアの親族だったからこその改まっての挨拶という形ではあったし、ネレイド達もヘルフリート王子を見ておきたかったというのはあるのだろうが……結婚相手に相応しいか見定めにきた、というほどシビアな雰囲気でもなかったからな。円満に話が纏まったようで何よりだ。




 そうして更にネレイド歓迎の宴は進む。ネレイド達も交えて歌を歌ったり魔法楽器を演奏したりと賑やかな時間が過ぎて行った。


 公館に移動するにはシリウス号に乗り込んで、というのが最も目立たずに移動できるだろう。乗り降りだけ幻術で誤魔化してしまえばいいからだ。

 そんなわけでネレイド達にはシリウス号へ乗り込んでもらい、艦橋へ案内する。


「中から直接外が見える、と。陸の乗り物は凄いですね」


 と、モルガンは艦橋を見てしみじみと呟いていた。他のネレイド達も不思議そうに周囲を見回している。


「シリウス号に関してはやや特別ではありますね。シルヴァトリアと色々技術を持ち寄って作ったものではありますから」


 先端技術、試験的な技術が使われているから、地上の乗り物が全てこういう水準というわけではない、ということだけは伝えておきたいと思う。


「そうなのですか。何と言いますか……テオドール殿もですが、この船も……とても大きな精霊様が守って下さっているようで、居心地が良く感じます」


 モルガンはそう言って笑みを浮かべる。


「高位精霊の友人が何人かいるので、そのせいかも知れません。魔人達との戦いに備えて加護を受けたりもしていますし」

「なるほど。道理で」


 と、モルガンは神妙な面持ちで頷いていた。精霊から相手に関する印象などの情報を貰えるというのは……ネレイドの種族としての強みかも知れないな。ヘルフリート王子も初対面ではそれで信用してもらえた様子だし、俺もネレイド達から色々話をしてもらうにあたり、予備知識と併せてそのへんで信用してもらえたような気がするから。


 まあ、何はともあれネレイド達に関しては問題無さそうだ。相談の結果も早めに出せるようにと言っていたし、数日中にはデメトリオ王やバルフォア侯爵との面会に臨むことになるのではないだろうか。

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