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番外485 海の娘達

 さてさて。今回はシンプルにバーベキューだ。下ごしらえを皆で済ませた食材を、アクアゴーレム達が手際よく串に刺して魔法で作った即席の竈と網の上で焼いていくというわけである。

 イカ、エビ、腸詰、牛・豚・鳥の魔物肉、コーン、ピーマン、カボチャ、ブロッコリー、ニンニク、タマネギ、キノコ等々の食材。


 これらを火の通りが均等になるように串に刺して焼いていく。醤油ベースの甘辛いタレや、塩胡椒も用意しているので、後は好みに応じて、という具合か。

 並んだアクアゴーレム達が流れ作業で食材を刺し、網の上に置いて焼いていく。


 串焼きの他にもイカや貝の網焼き、じゃがバター、かぼちゃのチーズ焼き等々、バリエーションで色々できる。

 シーラ達が貝やらイカやらを集めてきてくれたのでこのへんは鮮度も高いしな。

 白米もしっかり炊いたので大分満足感が高めなのではないだろうか。肉類が多いのであっさりとした味付けの野菜スープやサラダも用意している。


 魚介類だけでなく、地上の色々な食材を楽しめるようにと考えた部分はあるので、ネレイド達にも楽しんでもらえたら良いのだが。

 そうして網の上の食材に火が通ってくると、あたりに香ばしい匂いが漂い出した。貝に醤油を垂らした網焼きの香りが何とも食欲をそそる。


 そうして白米やスープ、サラダをみんなに配膳し、串焼き、網焼きを行き渡らせたところで食事の時間となった。


「タレが白米に合うわね」

「これは美味しいですね……!」


 と、ステファニアとアシュレイが顔を見合わせて笑顔になる。

 見慣れない食材に少し戸惑いながら口に運んだネレイド達からも、あちこちから驚きの声が上がった。

 甘辛いタレと肉汁の風味が口の中に広がって……丁度良い辛さが何とも食欲を増進させるというか。


「地上の料理は手間暇がかかっていて美味しいものが多い、というのは知っていましたが……これは格別ですね」

「タレが特別……なのかしら?」


 モルガンは少し驚いたような表情で口元に手をやって、カティアも良く味わってからそんな風に感想を漏らしていた。醤油ベースだからな。それで味や風味に深みが増しているところはあると思う。


「ん。醤油はかなり手間暇かかってる。美味」


 と、シーラもそんな風に言いながら、自身でとってきた貝の網焼きを味わいながら頷いていた。

 シオン達やカルセドネ達も一心に串焼きや網焼きを食べてくれているようで、グレイスやエレナもその食事風景を微笑ましそうに見て、笑顔になっていた。

 そんな調子で和やかに食事が進んでいく。ゴーレム楽団が魔法楽器を奏でるとネレイド達も歓声を上げて笑顔を浮かべていた。


 食事が一段落するとイルムヒルトやクラウディアもそこに加わって。リュートとキーボードの音色と共にセラフィナがくるくると回りながら踊る。そうしてイルムヒルトの澄んだ歌声が、楽しげな旋律と共に浜辺や青い海原と空に広がっていくのであった。




 アルクスの日常生活用の器も調子が良いようで、食事での魔力補給をしてマクスウェルと頷き合っていたり、食事を楽しんでくれている様子だ。コルリスやホルンの鉱物を食べる様子も、やはりネレイド達にとっても驚きだったようで注目を集めていた。

 そうして動物組、魔法生物組も食事や魔力補給を済ませて、みんな満足といった印象だ。食事の席が一段落したところで、モルガンに話をする。


「調べ物の結果分かったことや、今の状況について説明をしたいのですが、大丈夫ですか?」

「はい。よろしくお願いします」


 というわけで、ヘルフリート王子と話をしてからの経緯であるとか、グロウフォニカ王国にやってきてからの事。図書館での調べ物の結果を順に説明していく。

 モルガンを始め、ネレイド達は時折相槌を打ちながら静かに俺の話に耳を傾けていたが、ヘルフリート王子とマルティネス家、バルフォア侯爵家の関係には流石に驚いたようだ。こちらが一通りの話を終えると、頷いて口を開いた。


「ヘルフリート殿や姉君のローズマリー様の母方の家系に繋がるというわけですか。何と言いますか、世代を経てヘルフリート殿とカティアが惹かれ合ったというのは、驚きを感じます」


 そう、だな。確かに。ローズマリーもそれは同じなのか、目を閉じて静かに頷いていた。


「僕も色々調べて、条件に合致する人物がサンダリオ卿しかいなかった、というところからの結論ではあります。この上で更に裏付けなどを進めるにはデメトリオ陛下やバルフォア侯爵に協力を求める必要があるかも知れません。僕の見た限りでは、お二人とも信用に足る御仁だと思いますが……この事については相談も必要な事ではないかと思いますので、皆さんで時間を取って頂ければと思います」


 無論、俺も提案した以上はネレイド達とグロウフォニカ王国との関係性についても悪くならないように便宜を図るつもりではあるし、場合によっては……ネレイド達の庇護も選択肢に入るだろうか。


「そう、ですね。分かりました。その点については相談して答えを出す事にします」


 墓前に報告するにしてもある程度の情報は得られたが、事実関係をはっきりさせるとなると、バルフォア侯爵への相談は必須だと思う。

 マルティネス家は最終的にバルフォア侯爵家に統合される形だった。何かしらの手がかりが残っているとすれば、それはやはりバルフォア侯爵家に、だろう。


「ただ……海賊の財宝のお話については、それがもし危険なものであるなら、あの御仁も封印される事を望むと思います。今の世情であれば懸念も少ないというのなら――その点については私達に否やはありません」


 モルガンが途中で一族の皆に視線を向けると、肯定するように彼女達も頷き、そんな風に言葉を続けた。


「分かりました。ネレイドの皆さんの相談の結果がどうなるにしても、そちらはデメトリオ陛下と協力して対応できるように話を進めたいと思います」


 ネレイド達に敵意や野心がないというのは、そうした話からも分かるところではあるかな。


「もう一点。聞いておきたいことがあります。結婚の際に何か約束をしたというような話を聞きましたが、それは今回のお話に関わってくるような内容でしょうか?」

「それは――」


 俺の質問を受けたモルガンは一旦言葉を切ると、少し目を閉じてから答えた。


「私達の種族の性質故に、というところでしょうか。信用のために隠し事はしませんが、余人に広まって欲しくはない内容です」

「分かりました。僕達も他の場所で口外しないとお約束します」


 そう答えるとモルガンは俺を真っ直ぐ見て頷き、言葉を続ける。


「私達ネレイドは精霊に近い種族と言われています。故に、誓いや契約というものは単なる決意や言葉に留まらず、大きな意味を持つのです。例えば――伴侶として生涯を連れ添うのであれば、天寿を共にするというように」

「それは……」


 ああ。それで納得がいった。サンダリオが生まれた時代と、夫婦が亡くなってからネレイド達が動き出した時期に時代のズレがあったが、恐らくネレイド達は長命の種族で、人間と結婚することで人間側の寿命は延び、ネレイド側は――ネレイドとしては早逝してしまうという事になるのだろう。


「二つの種族の寿命が均等になってしまう、という理解であっているでしょうか? 恐らく、本来であればネレイドの方が人間より大分長い寿命を持っている、と推察しましたが」

「そうなります。しかし、その事で気に病む必要はありません。それは海の娘として生まれ持った、私達ネレイドとしての宿命、業でもあるのですから」


 そう言ってモルガンはふっと柔らかく笑った。


「ただ海の底の揺籃で姉妹達と共に穏やかに長くを生きるよりも、いつかどこかで大切な人と出会い、共に命を育み――歩んでいく。私達にとっては――そういう生き方をする仲間は眩くさえ映る。どちらが幸せだと比べられる性質のものではありませんが。それでもあの子は迷わずにそうした。知っていて選ぶ事ができるほどに、愛していたのでしょう」


 ……そう、かも知れないな。ヘルフリート王子は目を閉じるが、カティアはそれでも構わないというようにヘルフリート王子に寄り添って穏やかに笑う。ヘルフリート王子はそんなカティアの髪を軽く撫でていた。


「秘密にする理由も……分かる気がします」

「そうですね。私達一族は、時折恋に焦がれる者も現れる。憧れもする。それは良いのです。そうして私達という種族も続いていくのですから、悲しむべき事ではありません。けれど、一族の者を伴侶とすることで長寿になれると広く知られれば、良からぬ考えを抱いて近付いてくる輩もいるでしょう。ですから、この性質は私達一族にとって秘密とするべき事でもあるのです」


 そうだな……。ヘルフリート王子もカティアと恋に落ちてから、将来の事をという段になって知ったのだろうとは思うけれど。そこで喜ぶような相手であればカティアも選ばないし、打ち明けない、か。


「ネレイド族ではありませんが……同じような選択をした方々を知っていますよ。詳しくは話せませんが。その方たちも……幸せそうですね」


 そう。レイメイとシホも。仙術の術式を使ってという違いはあったけれど、結果としてそうなった。それが当人達の選択の結果であるならば、余人が口出しするような話でもあるまい。


「ふふ。それは良いお話を聞けました」


 俺の言葉に、モルガンは嬉しそうに笑うのであった。

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