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番外482 西方の過去に

グロウフォニカの過去を調べるのであれば、俺達の知らない民間の事情にも詳しいミリアムにも同席してもらった方が良いだろうということで、段取りを整えて、図書館でのやり取りをハイダーで中継している。何か気になった点、気付いた点などがあれば通信機で意見を貰えるだろう。


 まずは――ネレイドと結婚した人物がいた時代の背景を理解しなければならない。

 そこでグロウフォニカ王国の――というより西方の海域についての歴史を紐解いてみれば、豊富な漁場や資源を巡っての領土の奪い合い、利権争いが過去には何度か起こっていたというのが分かる。


「西方には――海洋を挟んで幾つかの大きな陸地があって。大小の島々を中心に数ヶ国が勢力として成立したわ。グロウフォニカ王国が建国された当時の背景はそんなところね。大きな陸地を保有する国々の中で、貴族が国元から離反、或いは独立をした後に別の勢力に取り込まれたり……そういった戦乱の歴史を持っているの」


 と、ローズマリーが言うと、ヘルフリート王子も頷いて言葉を続ける。


「その中でグロウフォニカが力をつけた背景には、隣国がヴェルドガル王国やシルヴァトリア王国だったって言うのが大きい。どちらの国も西の海には野心を示さなかったから、貿易にしても何にしても他の国より安定しやすかったんだろうね」


 そうだな。ヴェルドガル王国は迷宮を抱え、クラウディアとの契約があったからそうした領土的野心には自制がかかるし、シルヴァトリアはそもそもベリオンドーラの後継として対魔人を焦点に魔法研究を続けて発展してきた国だ。


 仮に西方諸国がグロウフォニカを倒すために団結するなら、グロウフォニカとて北や東に助力を求めるだろう。それを西方諸国も警戒しつつも牽制し合い……という具合だ。


 だが、ある時――厭戦の機運が高まり、グロウフォニカや西方諸国で停戦と協定が結ばれた、という話だ。

 それに関しては当時のグロウフォニカ王が戦乱の犠牲者を悼み、海の平穏を望んだからだと言われている。

 その決心は本物で、粘り強い交渉と話し合いの結果として、今に近い形に落ち着いたらしい。


 幾度も話し合いの機会が持たれ、領海とすべき距離、誰の物でもない公海の取り扱い、船舶に関する取り決め等々……そういった海洋法とでも言うべきルールが策定され、各国の間でも血縁関係が生まれるように婚姻等が進められ――。

 そうした采配が真摯なものであったからグロウフォニカが今日も海洋国家の盟主と言われる事にも繋がるわけだ。


 まあ……その後に偽装海賊が暗躍していたところを見る限りでは、表向きは納得したとしてもグロウフォニカを目の上のたんこぶと見る国や、信用し切れていない国があったというのも事実なのだろう。

 グロウフォニカ自身、強国であったために武力の不均衡があり、国内の貴族達も和平に賛成する者達ばかりというわけではなかったので、実際に小競り合いや他国との緊張が高まったという事例もあったようだし。


 しかしそれらも回避されている。陰での立ち回りに関しては、表立ってグロウフォニカ王国を攻撃する道理や正当性、或いは戦力を確保できなかったから、ではあるのだろう。


 だが、海賊と言っても全てが偽装だったというのは些か暴論だ。

 というのも、交渉に応じなかった各国の勢力が分裂、結集して西方の海域で海賊が暴れるようになった時代へと進んでいくからだ。グロウフォニカはそうした派閥の離反こそ防いだものの、跳梁する海賊の被害からは逃れられたわけではなかった。


「主流派に敗れて国を追われた残党でもあるでしょうし、そうした状況を隠れ蓑として各国が工作を仕掛けるための偽装海賊も混ざっていた……というところかしら」


 と、クラウディア。そうだな。海賊というのは山賊や夜盗などと違って、船という元手やそれを維持する人員が必要だ。だから前身となる組織か、後ろ盾となる組織があるというのは寧ろ納得できるところではあるのだが。


「ゼヴィオンの時の一件については、偽装だとか魔人の傭兵がいるっていう、何かしらの情報を掴んでいたみたいだけどね。後ろ盾がない残党系の海賊は、諸国の安定が進んでいけばいくほど後々辛くなっていっただろうし」

「勢力を削がれにくい偽装海賊が目につくようになるのは当然、というわけね」


 俺が言うとステファニアも頷く。

 と、そこでミリアムからも通信機に連絡があった。


『件の偽装海賊との繋がりがあるかは分かりませんが、グロウフォニカ王国の南方は海賊が根城にできるような小さな島々が多くあったので、各国を股にかけて暴れ回った大海賊、サロモンがどこかに財宝を隠した……なんて伝説もありますね。実際に大商人が冒険者を募って調査をさせたという事例も知っています』

「海賊サロモンでしたら……この本に挿絵付で資料が乗っていましたよ」


 と、アシュレイがページを開いてみんなに見せる。サロモンの海賊旗の意匠が資料として載せられていた。


「その海賊旗――は私達が警戒していた海賊の物だと思うわ。こういう旗を掲げる船には近付かないようにって」


 アシュレイの見せた挿絵にカティアが反応し、その言葉にみんなが顔を見合わせる。


「これは――かなり有力な情報かな。サロモンが存命の時代の人物っていうのは間違いなさそうだ」


 そうして図書館の資料とヘルフリート王子の目録、ネレイド達の証言、地域を照らし合わせて見て行けば……かなり絞り込めたのが分かる。

 グロウフォニカは海賊の平定も誇りとしているので、その戦いで犠牲になった騎士家、兵士の死亡、行方不明等――殉職に対しては敬意を払って、資料として纏めてあったりする。これをグロウフォニカの紋章入り短剣を持つ者の目録と当て嵌めていく。


 その年代の騎士達を一人一人見て行くと、海賊との戦いで命を落としていたりというのが分かる。遺族のところに帰り、故郷の墓地に眠るといった……その後の経緯が分かっているものを除外していくと――。


「ん。海賊サロモンの根城を探ろうとした作戦遂行部隊の中に、1人――行方不明になっている騎士がいる」


 シーラが目を落としていた資料から顔を上げて言った。

 ヒッポカムポスを飼い慣らして海上部隊としたらしいが……彼らを用いてサロモンの船を追うという作戦が行われた、らしい。


 根城を見つけて船団がその海域に繰り出し、陽動と並行しての潜入作戦が行われたらしい。というのも、伯爵の息子が攫われて身代金を要求されていたようなのだ。

 捕まっていた貴族家の息子は救い出したが、脱出の際に見つかり……囮を買って出た騎士が行方不明に。

 サンダリオ=マルティネス。戦死等々の死因が並ぶ中で、恐らくは死亡したのだろうという扱いになっている。騎士団と貴族の威信を守ったと、サンダリオ自身は英雄扱いになっていたようではあるが。


「有力候補、かしら」


 イルムヒルトが真剣な面持ちで言った。


「そうだね。他の候補も一つ一つ検証しながら……マルティネス家のその後に関しても調べてみよう」

「検証するにしても、ネレイドと結婚した方の遺族の事を調べるにしても必要な情報ですからね」


 グレイスの言葉に頷く。そうして更に本棚と行き来する事暫し。

 マルレーンが何かを発見したらしく、本を少し頭上に掲げてみんなに知らせてきた。


「何か見つけた?」


 と尋ねると、マルレーンはこくこくと真剣な面持ちで頷く。

 机の上の置かれた本に目を通すと――どうやらグロウフォニカ国内の貴族家の系譜についてが纏められた資料であるらしい。

 名門である騎士家のマルティネス家はサンダリオよりも後の時代になって没落。一人娘が嫁いだ先は――バルフォア侯爵家とあった。


「侯爵家に繋がるとはね。いえ、南方に居を構える侯爵家と、同じく南方で功績を立てた騎士家であれば、不思議ではないのかしら」


 ローズマリーが思案しながら言う。


「マルティネス家自体は、バルフォア侯爵家が後ろ盾ではなく、隣接する伯爵家と繋がりが深かったようですね。これはバルフォア侯爵家と伯爵家が関係を深めようということでの縁談を進めたのではないかと」


 エレナもマルティネス家について調べていたのか、別の資料に目を通しながら言った。

 ……そうか。これは、他の候補と裏を調べて、何も出てこないようなら侯爵に話を聞くというのも視野に入って来たな。伯爵家についてやサロモン一派の事など、関連情報も追える部分は追っておくのが良いだろう。

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