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番外480 海洋王国造船所

「ようこそいらっしゃいました。我ら一同訪問を心待ちにしておりましたぞ!」


 と、研究施設の職員達が総出――かどうかは分からないが、かなりの規模で出迎えてくれた。昨晩の宴会に出席していた魔術師もいるあたり、グロウフォニカ王国の造船関係では魔法、魔道具も使うというのが分かる。確か、先頭に立って口上を述べている初老の魔術師は、研究施設で働いているルーベンと言っていたが、どうやら造船研究所の所長ということらしい。


 人化の術を使った魚人の職員もいたりして、この辺は流石海洋国家という印象だ。中々楽しそうな職場であるが。


「まずは研究施設内部を見てもらった上で、最後に試作型の新造船を見せるという事で考えておりますがいかがでしょうか? その方が時系列にも沿って分かりやすいかと存じます」

「ありがとうございます。楽しみです」


 アルバートも出迎えてくれる事の礼を言う。


「グロウフォニカ王国の研究施設は……開放的で明るくて良いですね」

「うんっ。みんな楽しそう」

「研究って聞いてどんなのかと思ってたけど、良かった」


 にっこりと笑うエレナの言葉にカルセドネとシトリアも楽しそうに笑みを浮かべる。そんな双子の反応に、グレイス達も微笑みを浮かべる。

 そうだな。魔法絡みと言っても造船関係なら研究所の雰囲気、性格も違うだろうし。

 そんなわけで、ルーベン達に案内される形で研究所の内部へと進む。


「研究施設と申しましたが、見学ができるよう開放されている区画もありましてな。ここもそうした展示用の棟なのです。ここで船の事について理解、興味を深めてもらうことで、先々に優れた技術者が現れる事に期待しよう、というわけですな」


 と、ルーベン。建物内部は丁度博物館のような雰囲気で、船に関するものが色々展示されていた。

 古い形式の櫂船にしても手漕ぎ式の船の進化と変遷などが模型と図解で説明されていたりして、中々に興味深い。

 漕ぎ手の座席を2段、3段と上方向に重ね、長いオールと人員の数を以って推進力を稼ぐ多段櫂船方式。


「――これらの櫂船は、船の大型化、複雑化に伴って次第に帆船に交代していったわけですな。多段型になるほど構造が複雑になり、建造費用も高くつきます故。安価な帆船へと移行していった、というわけです。しかし近年では魔術師を乗せるか、魔道具で不便を補うというのも常態化しておりますからな。空と海という違いはあれど、飛行船の登場もあります。帆船から魔導船へ。再度の大型化、複雑化というのが時代の流れなのかも知れませぬなぁ」


 横帆、縦帆の原理と操船技術等々が説明され、陳列された船に関する魔道具もあれこれと説明してくれる。ルーベンの解説を聞きながらの見学なので分かりやすいし面白い。


「建造費用が高騰する方向に進むのは頭の痛い問題ではあるな。試作ならばあれこれと開発した技術を乗せることはできても、数を揃えるとなっては考慮せねばならぬことが多い。まあ……その点そなた達はよくやってくれていると思っているぞ。実用に耐えるよう、洗練し、費用面の事も考慮してくれているからな」


 デメトリオ王がそんな風に言って苦笑する。


「それは有り難きお言葉にございますな。我ら一同、精進すると致しましょう」


 と、ルーベンはそんなデメトリオ王の言葉に、楽しそうに笑って応じていた。そうして研究所の更に奥に進み、今度は過去の変遷ではなく、今現在実際にグロウフォニカ王国の船に使われている魔道具類を研究している棟へと進む。


「これは海洋魔道具では古典的ではありますが、海水から飲み水と塩を分離する、という品物ですな。船上生活における調味料と飲料水を同時に確保できるというわけです」


 導水管で海水を吸い上げて甲板で水と塩を分離する、という魔道具だな。魔術師がいれば飲料水は生成できてしまうが、こうした魔道具もあると心強いだろう。


「打ち明けるなら、船舶に積む兵器の類もないわけでは無いが……まあ境界公はそうした兵器の開発をあまり好まぬという話は耳にしている。平穏であれば無用の長物であるし、そうした物を誇示するのも余は好まぬ。機密というほどではないが、今回はわざわざ開帳することもなかろう」

「扱いやすい武器を作っても、血を流す事になるのはそうした兵器に防御手段を持たない人々ですからね。武力を否定はしませんが、手軽な魔道具でとなると……広く普及などはしない方が良い、とは考えていますよ」

「その考えの結果が飛行船のあれというわけだな。相手の性質に合わせた武装か。うむ……。考えさせられる」


 デメトリオ王とそんな会話を交わす。そうしてそのまま色々な魔道具類を見て行く。

 変形させて収納スペースを節約できる小型船だとか、方角と進路を光で指し示す魔導羅針盤など、色々だ。


「これは――普段は紋様魔術の回路を途中で切って……必要に応じて繋ぐ、といった感じの機構……でしょうか?」


 絡繰り仕掛けを組まれた魔道具を見たアルバートが言うと職員達がおお、という驚きの声を上げる。


「流石ですな。一目見ただけでお分かりになりますか。これは水流操作によって船を推進させる魔道具です。魔力の節約、任意の起動と停止、船の推進、旋回等々がこの魔道具と細工で可能になるというわけですな。やはり……費用面では帆船より増してしまう部分があります」


 紋様魔術を組木細工のパズルのようにずらす事で任意でのオンオフを可能にしてあるというわけだ。こうした絡繰り仕掛けもビオラやコマチ、エルハーム姫のお陰で見慣れていたりするからな。

 この魔道具で水流操作をして推進するという方式なら……無風でも推進できる上に通常の帆船とは違う挙動が可能になるだろう。


 そうして魔道具研究棟を出ると、そこは岩山をくりぬいたような屋内型の造船所であった。直接海に出られるが、外から建造中の船を見る事ができないような作りになっているようだ。そして――金属素材で作られた中型船がそこにあった。作業場にて建造途中のようだ。


「先程の水流発生装置も組み込まれた試作型の船舶でしてな。船の推進をあれだけに依存すると紋様が崩れた時に対処が難しいため、塗料や外装で庇護しているわけですな」

「塗料というと……グランティオス王国の?」

「おお。御承知でしたか。如何にも、グランティオス王国の秘伝の品です」


 なるほどな。グランティオス王国とは隣接する海域だし、陸との交流も更に広まっているからな。海水による劣化を防ぐグランティオスの塗料はグロウフォニカでも重宝される、というわけだ。


 建造中の船なので船底側を見る事も可能だが、何やら船首と右舷左舷の下方にそれぞれ球体のようなものがついていた。


「これは――どういったものでしょうか?」

「シリウス号に音響砲というものがありましたが……これは音を放ってその反射で海の底を見る、というものですな。暗礁のある海域や、夜間での航行等に力を発揮します」

「イルカなどはこうした音波を使って仲間同士連係したり獲物までの距離を測るのだとか。海の民も我が国にはいるからな。彼らより案を貰い、このような魔道具も開発中というわけだ」


 バルフォア侯爵とデメトリオ王がそんな風に教えてくれる。

 つまりはソナーか。反響で危険感知を行うというわけだ。海の民の知識や術式等々もグランティオスには集まっている部分がありそうだな。色々と……面白いものを見せてもらったように思う。


 ヴェルドガル王国は、ヒタカノクニやホウ国への航行ルートを開拓したが、そういった東国への航行に関しても、グロウフォニカ王国の技術協力が得られれば色々捗りそうな気がするが……この辺は西方海洋諸国との兼ね合いもあるし、メルヴィン王も交えて相談するべき案件だろうな。

いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。


皆様の応援のお陰で、書籍版境界迷宮と異界の魔術師9巻の発売日を無事に迎えることができました!

日々の応援、感想、ポイント等々、いつも励みになっております。改めてお礼申し上げます。


また書籍版で恒例になっております「あとがきのアトガキ」に関してですが、

今回はおまけSSとなっております。


活動報告にて特典SSの告知と共にあとがきのアトガキに関する案内もしておりますので

興味がおありの方は、そちらも合わせて楽しんでいただけたら嬉しく思います!


今後ともウェブ版の更新共々頑張っていく所存ですので、

これからもどうぞよろしくお願い致します!

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