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番外461 西への旅と見送りと

 そうして――アルバートとオフィーリアの結婚式は無事に終わり、その翌日の歓待も穏やかにみんなとの時間が過ぎていき……グロウフォニカ王国へと向かう日がやってきた。

 より正確には、グロウフォニカの航路上に位置するドリスコル公爵領やグランティオス王国を経由してからグロウフォニカ王国へと向かう形となる。


 公爵家の面々やエルドレーネ女王達も同行し、公爵領や海の都等も見ていく、ということになるだろうか。俺達にとっては打ち合わせの時間が取れるということになるが。出航前の確認をしつつ、カドケウスの五感リンクで造船所の様子も見る。


「――周りが賑やかな時間が増えてしまう、というのは些か二人には申し訳ないな」


 造船所に姿を見せたドリスコル公爵がアルバートとオフィーリアに言う。


「その分、今回はグロウフォニカ王国に到着してからのんびりさせてもらおうと思っていますから」

「ええ。そこまで気を遣って頂かなくとも大丈夫ですわ。わたくし達は昨日今日の付き合いと言うわけでもありませんし、些細な事で揺らぐことなどありませんわ」


 と、アルバート達は笑顔でそんな風に返答する。


「ふむ。これは余計な気遣いであったかな」

「いえ、お気遣いは嬉しく存じます」


 ドリスコル公爵がそう言うと、アルバートはそう返答して丁寧にお辞儀をしていた。

 さて。一方の俺はと言えば、積荷の確認作業だ。


 事前に準備をしていたということもあり、着替えなどは鞄に入れてあるのでそのへんの手間はないが、食料に関しては保存の利くもの以外はどうしても最後になってしまう。

 保存食ばかりでは道中の食事が味気ないし、飲み水にしても食糧にしても、出発前に新鮮な物を積み込んでおきたいというのがあるからだ。


 その点、シリウス号は冷凍庫や水生成の魔道具等もあって、長期の船旅でも新鮮な物を口にできるような環境が整えられてはいるのだが。

 目録を見ながらきちんと物品が揃っているか手早く確認。折角の機会なので、そうした手順をカルセドネとシトリアにも見せて説明をしていたわけだ。


「――こういう流れで、出航前の準備を進めるわけだ。普通の船だと、氷室や水生成の魔道具はないし、魔術師も乗り合わせていないなんて場合が大半だから、食糧事情もその分悪くなるっていうのは覚えておくと何かの折に役に立つかもね。備えも寄港も無しに魚介類以外で新鮮な物が食べられるのは……まあ3、4日ぐらいのものじゃないかな。飲み水だって、段々悪くなっていく」

「そうなんだ……」

「船乗りさんて、大変なんだね」


 と、真剣な面持ちで頷く双子である。

 これは寄港しない、できない場合の話ではあるから、陸沿いに進んだ場合は話も変わってくる。とはいえ、だから船長の権限は強いし、船乗りの規律や結束は強固なものだったりするわけだ。

 お互い船という閉鎖空間で命を預ける間柄だからだ。他の船に乗り合わせるような機会があれば、極力船長には敬意を示すべきだろう。

 そうした船乗りの気風というものも、これから海洋国家に向かうのだし、知っておいて損はないだろうということで説明していく。


「うむ。主殿は博識であるな」

「全くです」


 と、核を明滅させるマクスウェルと、目を閉じて頷くアルクスである。アピラシアもこくこくと頷いていた。魔法生物達にとっても興味深い話、だっただろうか。

 そんな彼らの様子にマルレーンもにこにこと微笑み、シーラも目を閉じて頷く。そんな様子にクラウディアが苦笑したりして。


 ともあれ、確認も終わったので船倉を後にして甲板に出ると、見送りの面々も造船所に集まってきていた。


「出発前の確認を終わらせてきました。問題なく必要な物も揃っているので、後は人員の点呼だけ、というところですね」

「今回は戦いにいくというわけではないのだろうが、気を付けるのだぞ――とは、お主に限っては言わずとも心得ておるか」

「まあ、グロウフォニカ王国も、政情的に複雑なところもあるようですからね」


 イグナード王が俺を見て破顔するとファリード王やレアンドル王、パルテニアラといった面々がにやりと笑い、俺も苦笑して応じる。

 そうして同行する顔触れと、見送りに来てくれた面々とがそれぞれ挨拶を交わしていく。アルバートとオフィーリアも丁寧に結婚式に来てくれた事や、見送りに顔を出してくれた事に感謝の言葉を述べていた。


「ふふ、礼と言うのでしたら、随分と楽しませてもらいましたからね」

「魔道具にも普段から助けられておるしな」


 アルバート達の感謝の言葉に、オーレリア女王やエベルバート王がそう言って応じる。

 俺も少し離れたところで父さんやダリルと……貴族としてではなく肉親として言葉を交わす。


「それじゃあ、行ってきます」

「うむ。先程イグナード陛下も備えの話をしていたが……船旅といっても飛行船だからね。魔法も魔道具もあるから航行についても安心していられる、と考えて良いのかな?」


 と、父さんが尋ねてくる。

 確かに、難破や座礁等々、通常の航行における心配事には概ね対応が可能ではあるかな。


「大丈夫だとは思います。そうして心配してもらえるというのは嬉しいですよ」


 俺がそう答えると、父さんも苦笑していた。


「ダリルは……父さんの執務の手伝いとか、色々大変そうではあるけど……うん。応援してる」


 色々、というのは多少先日のネシャート嬢の一件を含めてはいるが、主にはダリルの近況についての事だ。


「父さんの仕事の手伝いね。確かに責任もあるから大変ではあるけど……なんていうか、やりがいみたいのを感じる時があってさ。辛くはないよ」


 と、ダリルが楽しそうに笑う。

 その返答は本心からのものなのだろう。ダリルからは、執務の手伝いを思い出して手応えを感じているような印象があった。

 父さんは後継者の育成ということでこの場で安易には評価の言葉は口にはしなかったが、その仕事ぶりを好ましいと思っているのは見て取れる。


「そっか。別の領地の領主だから仕事関係ではあんまり立ち入れないけど、他の事で困った事があったら通信機ででも相談に乗ったり、話を聞くって事はできるからさ」

「ん。ありがとう」


 そう言ってダリルと握手を交わした。まあ……ネシャート嬢に関しては話題に出すと藪蛇かも知れないから今回は触れないでおこう。意識することで関係が頓挫してしまうなんてことだってあり得るのだし。


 エルハーム姫が農業関係で参考になるような事はあったかとネシャートに話題を振ってみたところ、ダリルの話が出たそうだ。

 やはりガートナー伯爵領が穀倉地帯であるからか、挨拶した折に農業の事が話題に出て、そこから色々と話題が発展したとのことで。


 ネシャートと話題が合うということは、ダリルも農業については実地研修の後も色々勉強しているのだろうと予想される。

 ダリル自身についても……穏やかそうだけれど熱意があって、よく勉強している人だと感心していたそうだ。

 そう。そうだな。ダリルの元々の性格というのはそうした穏やかでのんびりとしたものかも知れない。


 将来の話がどうなるかは不透明ではあるが、現時点では理解ある友人を得た、と言ってもいいのかも知れないな。


 そうして、みんなとの挨拶回りを終えて、にこやかに見送られる形で船に乗り込む。今回はベシュメルクの時と違って戦いに赴くというわけでもないから、みんなの見送りも和やかな雰囲気だ。


「点呼も問題ありません。間違いなく揃っています」


 と、グレイスが微笑む。人員点呼は俺も確認した。


「うん。それじゃあ行こうか」


 アルファがこくんと頷いて。シリウス号がゆっくりと浮上を始める。


「気をつけてのう!」


 お祖父さんや七家の長老達にも大きく手を振られて。こちらも笑って手を振り返す。そうしてシリウス号は、段々と高度を上げて、転移港を離れていくのであった。

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