表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1221/2811

番外460 伯爵家の未来は

 昨晩は披露宴、二次会、三次会とみんなの就寝時間がまちまちだった。

 魔道具で補助しているとはいえ、時差もあるので起き出してくる頃合いは結構幅があると予想していたので、朝食はバイキング形式だ。

 自分のペースで起きて好きなように食事をする、ということになる。俺達もメルヴィン王達との話を終えた後で、みんなでテーブルについて朝食の席を楽しんでいたが、そこにアルバートとオフィーリアもやってきた。


「おはよう、テオ君」

「おはようございます」

「ああ、おはよう、二人とも」

「おはようございます」


 と、みんなと共に朝の挨拶を交わす。はにかんだ笑顔でややぎこちなく頷いて、そうして二人で朝食を取りに向かうアルバートとオフィーリアである。

 まあ……うん。気持ちは分かるというか何というか。

 そっと寄り添うように並んで、朝食をどれにしようかと柔らかい表情で話をしている二人であるから、結婚して状況に変化があっても関係性は良好といった雰囲気で……そこは友人として安心できる部分ではあるな。


「お二人とも……幸せそうで良かったです」

「アルバートは……わたくし達兄弟姉妹の中でも苦労してきたものね」

「そうね。色々あったけれど、自分の才覚で道を切り開いたのだし」


 微笑んで言ったグレイスの言葉に、ローズマリーが目を閉じて言うと、ステファニアが笑って応じ、マルレーンもこくこくと頷いていた。

 みんなもそんなアルバート達の姿を見て、静かに頷いたり微笑んだりしている。


 うん。アルバート達には今日は二人でゆっくり過ごしてもらえるよう手筈は整えている。

 小舟で湖に遊びに行きたいね、なんて話を昨日していたから、水中呼吸等々の魔道具を持って行ってもらえばこちらとしても安心だ。


 アルバート達にゆっくりしてもらう代わりに、招待客は俺達で歓待するということで。

 視線を広間に移して他の面々の様子を見てみると、何やらダリルが同年代の少女と話をしているという光景が目に飛び込んできた。ダリルが少し照れたように後頭部を掻いて女の子がくすくす笑って、と……何やら良い雰囲気にも見えるな。


 普段なら少し話していただけでどうこうなどと言うつもりもないが……こうした結婚式に招待されたところで新たな縁談が纏まる……的なケースは、貴族社会だと実際かなり多いらしい。

 元々人脈作りに繋がる場とか、否応無しに結婚や縁談を意識する集まりであるとか、他者――つまりお偉いさんの目にも留まりやすくて、当人達が良い雰囲気ならとんとん拍子に話が進んでしまうとか、そう言った諸々があるからだな。


 ダリルがどこでああして話をする程度まで知己を深めたのかは分からないが……んー。昨晩の三次会には顔を出していないから、そこで、だろうか?

 バハルザード王国からファリード王達と共に来ている人物だな。挨拶回りの時に自己紹介も受けたが、ネシャート=サッタールと名乗っていた。肩書きはバハルザード王国に仕える、と言っていたが、それだけではよく分からない。


 各国の王達が同行させる面々についてはまちまちだが、主に俺の知り合いや護衛、側近、その家族という顔ぶれの他にも、タームウィルズやフォレスタニアで見聞見識を広めさせたい、という場合にも同行させたりというのはあるようで。ネシャートの場合は……そのどれに該当するのやら。


「ああ、これは皆様、おはようございます」


 と、そこに丁度良く工房の面々がやってくる。エルハーム姫も一緒だ。エルハーム姫の肩に乗ったラムリヤも、コルリスやティールと手を挙げて挨拶をしたりしていた。


 ……ふむ。エルハーム姫に聞けば何か分かりそうな気がするな。




「ネシャートは――そうですね。バハルザードの名家の出身で、私の友人ですよ。歳は若いですが、魔法の才能があるので時には後衛としてカハール達と戦ったり、後方支援に回ったりしていました。ですから私とは結構色々なところで、近しい立ち位置でしたね。それで仲良くなりまして、優しい、良い子ですよ」


 と、エルハーム姫に尋ねると、ダリルと楽しそうに話しているネシャートの姿に視線を送り、納得したというように微笑んで頷くと、そんな風に教えてくれた。


「となると、ファリード陛下としては見識を積ませたくて今回同行してもらった、ということでしょうか」

「そうですね。ヴェルドガル王国の魔法は進んでいるので勉強になるからと言っていましたよ」


 と、エルハーム姫は笑顔で頷く。


「後方支援と言いますと……治癒術であるとか、エルハーム様と同じように鍛冶を得意としていたり、でしょうか?」

「いえ。彼女は木魔法を得意としています。戦場では木魔法で即席の壁を作ったり、荊や蔦で足止めをしたり……後方では簡易な盾を作製したりしていましたね。当人としては……魔法を使った農業を学びたいと言って、平和になってからは彼女のお師匠様のところに戻っていたのですが、やりかけの修行も終わって帰って来た、というわけですね」


 アシュレイが尋ねると、そんな答えが返ってくる。なるほど。友人だけあって、再会して色々事情も聞いているらしいな。

 木魔法か。これも……得意系統にしている者は結構珍しかったりする。農業関係の魔術師としては土魔法、水魔法と並んで親和性が高いというのはあるが。


 そこにファリード王も姿を現して……エルハーム姫が話しかけにいくとこちらのテーブルにやってきた。


「ふむ。ネシャートか。修行を終わらせて都に戻ってきてくれたので、タームウィルズの話をしたら随分と興味深そうにしていたのでな。エルハームとも会いたがっているだろうと、今回同行してもらったが……ふむ。昨晩も遊戯室で話をしているのは見たが、ガートナー伯爵家の後嗣殿との取り合わせは、少々意外とは思ったな」


 ああ。やはり三次会で知己を得たわけだ。


「と、周囲で言っていますが、こちらの考え過ぎなだけかも知れませんよ」


 そう言うと俺の言葉にファリード王も苦笑する。


「まあ確かに。結婚式という場に招待されたから、そういった方向に考えてしまう部分はあるかも知れない。今のところは――それとなく事情を聞いて推移を見守るのが良いのかも知れんな。当人同士やガートナー伯爵の意向を確認して問題ないようなら、応援してやりたいところではあるが。同盟の理念から考えてもな」


 それは確かに。育った文化の違いは……まあ、当人達の努力で何とかなる範囲だと言えるし。

 では、父さんはどうなのかと視線を巡らせる。

 ダリルと一緒に朝食の席に姿を見せているのでそちらに視線を向けると……父さんもダリルとネシャートの交流を見ていたのか、顎に手をやってふんふんと小さく頷いていた。

 あれは……割と好ましいものを見る時の反応、だな。


 身元もしっかりしていてエルハーム姫の話では人柄も良く……ファリード王も当人達が良いのなら応援する立場。父さんも多分それは同じだろう。

 それに……農業に興味がある人物か。ダリルと話が合うのも分からなくもない。ガートナー伯爵領自体が穀倉地帯だし。


「ん。気が付いた時には後押しされてる状況になってたりしそう」


 と、シーラが言うとイルムヒルトやクラウディアも苦笑していた。

 そうだな……。何というか、話が進むというか後押しされてしまう環境がばっちり整っているというか。


「ネシャートには私から、それとなく話を聞いてみますね」


 エルハーム姫は、そう言って笑顔を浮かべていた。


「タームウィルズの植物園に、ノーブルリーフ農法の関係者、水田と稲作……それにベシュメルク王国のマルブランシュ侯爵。ネシャートにとっては様々な事が学べる環境だからな。ネシャートの希望に沿って長期の滞在、場合によっては留学をと考えていたが。ふむ。当初の予定とはまた違った意味で、興味深い方向に話が広がったものだな」


 と、ファリード王もにやりと笑うのであった。

 ……うん。俺達はグロウフォニカに行って不在になってしまうので、どういう顛末になるかは分からないが……まあ周囲も心得ているし、当人達がどうであれ悪い事にはならないだろう。ダリルもネシャートも楽しそうに話をしている様子だしな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ