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番外458 ネレイドの気風


 やがて二次会も一段落して、散会となった。

 招待客は各々迎賓館の客室に案内されていった。三次会……というか、招待客同士でまだ話し足りないという場合は迎賓館のサロンで続きを、ということになるだろう。


 ヘルフリート王子やエルドレーネ女王達とは、この後迎賓館ではなく、フォレスタニアの城本棟の談話室で顔を合わせて話をする予定だ。

 披露宴に使われた本棟の広間から、食器やらテーブルやらが手際よく片付けられていく。特設コーナーで事後処理をしていたミリアムも、大体帳簿やら注文書を纏め終わったようだ。


「魔道具類は今片付けなくても、後で商会の方に届けておくよ」

「ああ。助かります」


 声をかけるとミリアムが笑顔で応じてくれる。


「大分注文も入ってたみたいだね。商会の売り上げにも貢献できたようで何よりだ」

「そうですね。街で行った方も結構な注文をいただいて。こうなると評判が評判を呼ぶといった具合ですね。私としては――商会のお話を頂いた事に感謝するばかりですよ。とりあえず今回注文いただいた品々に関しては大半が職人達で対応可能なので順次こちらで進めておきます」

「ありがとう。僕としても商会回りで苦労がないし、ミリアムさんに声をかけて良かったって思ってるよ」

「ああ……。そう言って頂けるのは、嬉しいですね。ありがとうございます」


 アルバートの言葉に少し目を丸くしてから一礼するミリアムである。

 披露宴での魔道具の展示コーナーも盛況で……アルバート達が新婚旅行なので工房は小休止という前提ではあるものの、マッサージチェアも含めて色々注文が入ったようだ。


 アルバートとオフィーリアは新婚旅行に出かけるので、そうした仕事の話はとりあえず控え、ミリアムの方で進められる段取りを整えておいてくれるというわけだ。

 そうして俺やアルバートが自分の仕事に注力できるように道筋を整えつつ商会の仕事はしっかりやってくれるから、実際ミリアムがいてくれて助かっているという面は多い。


「それにしても、お二人はグロウフォニカ王国に旅行ですか。あちらに行商に出かけた事もあるのですが――海が綺麗で良いところでしたよ」


 と、ミリアムは少し記憶を辿るような様子を見せながら笑顔で言う。


「ああ。じゃあ、あっちに知り合いがいたりするのかな?」

「そうですね。情報を交換した商人仲間や冒険者関係、取引先の相手といった……商売関係や冒険者ギルド関係での知り合いがいたりもしますが」


 なるほど……。それなら、ミリアムにもこの後のヘルフリート王子やエルドレーネ女王との話に混ざってもらい、ある程度の事情を把握しておいてもらった方がいいかも知れない。

 ミリアムは事前にスケジュールを組んでおかなければタームウィルズを長期で留守にはできないが……タームウィルズにいても通信機や水晶板でリアルタイムでのやり取りはできる。向こうに人脈があるのなら、何かの折に助けになるかも知れないからな。


 そうなると、まずはヘルフリート王子に、ミリアムが話し合いに加わる許可を貰わなければならない。通信機でミリアムがグロウフォニカ方面に行商人として伝手や情報網がある事を伝えると、ヘルフリート王子はあっさりと許可してくれた。


『僕も前に顔を合わせていて以前からの知り合いだし、テオドール公やアルバートも信頼している人だから。ミリアムさんが問題ないようであれば、僕も大丈夫』


 といった内容の返信だ。

 そうだな。そういう点、ミリアムは商人云々の以前に本人が義理堅い性格だし、こうした場で秘密を知り得てもそれを吹聴するような事をする人物ではない。


 ヘルフリート王子から同席と、ある程度の事情を話す許可をもらったところで、ミリアムにも同席してもらえないか聞いてみる。


「――というわけなんだけど、どうかな?」

「勿論です。西の知り合いの近況も気になるところですし、お役に立てるのであれば、是非」

「ミリアムさんも多忙だろうに、悪いですわね」

「いえいえ。そうして昔の知り合いとも話をする事でも商機というのは広がるものですから」


 オフィーリアの言葉に、ミリアムは笑顔で応じるのであった。

 というわけで……ミリアムも交えてエルドレーネ女王達とフォレスタニア居城本棟の談話室で話をする、ということに決定したのであった。




「おお、待たせてしまったようで済まぬな」


 談話室にセシリアから案内を受けてきたエルドレーネ女王とロヴィーサ、マリオンが現れる。


「いえ。僕達も会場の後始末を見届けてからなので、今来たところですよ」

「そうか。ならばよかった」


 と、談話室のソファにみんなで腰かけ、お茶が行き渡ったところで、エルドレーネ女王が口を開く。


「さて。何やら、ネレイドについて聞きたいことがあるようであったが」

「そうですね。実はグロウフォニカ王国に足を運ぶのは、ヘルフリート王子の事情も勘案しての物でもあるのです」


 というわけで、エルドレーネ女王にも掻い摘んで事情を説明する。ヘルフリート王子が留学先のグロウフォニカでネレイドと出会った事。ネレイド達には何か事情があってヘルフリート王子が協力して調べ物をしていたこと。

 信用問題として第三者には勝手に明かせない事等々。アルバートとオフィーリアの新婚旅行先にグロウフォニカ王国が選ばれたのも、そういった理由からだと説明をする。


「なるほどな」

「ネレイド一族とグランティオス王国は友好関係にあると聞きましたが」

「うむ。お互い清浄な魔力を好み、魔力溜まりに引きつけられる種を嫌うが故に。時には協力し合うこともあったが、ネレイド達は独立心が強く、一族として独自の暮らしや規律を重んじる風潮がある故、我らは我ら、ネレイドはネレイドと、互いの領分を守って暮らしてきた」

「ネレイドさん達はそうした選択ができるだけの力を有していたというのもありますね」


 と、マリオンが言うとエルドレーネ女王も首肯する。


「うむ。穏やかではあるが、実力も備える者達であるというのは間違いない」

「敬意を払うべき隣人と言いますか。私達も彼女達も、お互いを尊重しているからこそ良好な関係を続けてこられたのだと思います」


 エルドレーネ女王の言葉を受けて、ロヴィーサも言う。

 ネレイドの性格というか方針は、多種族の海の民を抱えるグランティオス王国の理念とも一致しているというわけだ。

 そして基本的には他者の助けを必要としない程度には強い力なり術なりを扱える種族ということになるだろう。


「僕達としてもネレイドに関わるからには、そうした性格、気風に関しては念頭に置いておく必要があるでしょうね」

「まあ……テオドール達なら彼女らにも敬意を払うであろうから大丈夫と思っておるがな」


 エルドレーネ女王は笑う。そうして――信頼してもらえるというのは有り難い話だな。


「妾達としては――ネレイドの事情を聞かないうちに断言はできぬが、余程の事でない限りグランティオスは協力を惜しまぬと伝えておこう。情報収集が必要なら各部族への聞き込みといった事も可能であるし」

「それは――ありがとうございます」


 ヘルフリート王子が深々とお辞儀をすると、エルドレーネ女王は満足げに頷いた。

 エルドレーネ女王の言う余程の事というのは、ネレイド達に明らかな非があるような場合、だな。

 例えば……陸や海の国々との間の平穏を乱すような行いであるとか。

 まあ、ヘルフリート王子の言動ではネレイド達の事情はそういったものではないようだし、エルドレーネ女王の話を聞いた感じでもそういう野心を抱く種族でもないようだが。


 ともあれ、グランティオスの各部族の持っている情報も得られるというのは結構大きい。


「そうなると陸の情報はミリアムさんの人脈と情報網から。海の情報はグランティオスの部族から得られるっていうことかな」

「それなら、大体の事はなんとかなりそうな気がするわね」


 俺の言葉にイルムヒルトがにっこりと微笑む。うむ。

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