番外457 迷宮都市の宴の夜
「街もかなりの盛り上がりを見せているようですぞ。喧嘩等々は……まあ常識的な範囲内でというところですかな。仲裁に回った際に暴れるようならクリアブラッドの魔道具で強制的に酔い覚ましという手もありますし、全体で見れば落ち着いたものです」
街の様子を報告にきたゲオルグが教えてくれる。
「あー。案を出しておいてなんだけど、酔い覚ましさせられた方は大変そうだな」
「大体の場合、かなり恐縮してますよ」
「まあ、酒で気が強くなっているだけというのはあるわよね」
「それをいきなり素面に戻されてしまうわけですからねぇ……」
「しかも兵士達に囲まれてだしな」
と、俺の言葉を受けて、フォレストバードの面々がそう言って苦笑していた。
「しかし、クリアブラッドの魔道具は良い案ですな。説得に手間もかからないですし、何より温情がある」
「まあ、晴れの日だからね。飲んで騒ぎたいって気持ちは分からないでもないし。いきすぎた場合は大事になる前に少し反省してもらえば、それで良いかなとは思うよ」
ゲオルグの言葉にそう答えると、相好を崩して頷いていた。
フォレスタニアでもタームウィルズと同様、酒と料理が振る舞われている。報告によれば結構な盛り上がりを見せているそうではあるが、ゲオルグ達から受ける印象や、巡回に出したティアーズ達の一部の映像からすると、まあ……大丈夫そうではあるな。
「ともあれ、お疲れ様。みんなもしっかり交代の休憩中は肩の力を抜いて楽しんで欲しい」
騎士も兵士達も交代で休憩に入る形だ。折角の結婚式でのお祭り騒ぎなので、休みの時は気持ちを切り替えるようにして楽しんでもらえたら俺としてもアルバート達としても嬉しく思う、というところだ。
「ありがとうございます。俺達とテスディロス達はもうすぐ交代に入りますので……今回は城で一緒に酒を楽しませてもらいます」
「酒は美味いが……今のところ酔っての失敗というのはした事がないな。……封印されていれば大きな問題にはならないだろうが、教訓としてなるべく気を付けよう」
と、ロビンの言葉にテスディロスが真剣な面持ちで言うと、ウィンベルグも目を閉じてうんうんと頷いていた。
フォレストバード達によると、テスディロスもウィンベルグも結構酒に強いとのことで。まあ、テスディロスの言うとおり、封印術もあるので酔って暴れる魔人などという、目も当てられない状況にはならないだろうけれど。
そうして、報告を終えたゲオルグ達は一礼して戻っていった。
披露宴の方はと言えば――こちらもかなりの盛り上がりを見せつつもアルバートの挨拶で一応の区切りとなった。この後、招待客はフォレスタニアに泊まっていき、まだ食べ足りないとか飲み足りないという面々はこのまま二次会的な宴会となる。
同盟間での交流が進むということもあり、そういう意味でも貴重な時間であるからか、披露宴が終わってすぐ帰る、という者は1人もいなかった。
「前以て招待を受けて予定を調整していたからな」
「うむ。これも役得といったところか」
と、レアンドル王とファリード王が中々豪快に笑ってそんな風に言っていたけれど。
さて。アルバートとオフィーリアは結婚式と披露宴も終えて、一応の肩の荷も下りたということになる。主催しているのはここまで。後は招待客達が帰る時に見送り等ということになるが、今日のところは即日帰るという者もいないからだ。
動きにくい正装も着替えてきて、折角なので披露宴の一角に持ち込んでいたマッサージチェアを試してみようという話になっていた。
「それじゃあ、少し試してみようかな」
「そうですわね」
アルバートとオフィーリアはそう言って、仲良くマッサージチェアに横になる。操作盤の説明を受け、ゴーグルと足湯部分もしっかりとセットして魔道具を起動させる。
そうして首回り、肩や背中、腰、手足を揉み解すようにしながらも、目と足を温める。フットバスも水流で足裏のツボにも刺激を与えるという仕様になっている。
「ああ……これは……うん。良いな」
「何というか……脱力してしまうと言いますか」
というアルバート達の反応に、ビオラとコマチが笑顔でハイタッチをしていた。釣られるようにエルハーム姫もそれに応じて、はにかみながらも苦笑している。
「目を温めてくれるっていうのが良いね……。これは……技師の仕事で疲れてる時に使ったら心地良くて眠ってしまいそうっていうか……」
「座り心地……いえ、寝心地ですか。それも良くて……雲の上にでも浮いているかのようですわ」
うん。微弱に調整したレビテーションで自身の体重からも解放されるような作りをしている。ロックファンガスのクッションと相まって、水に浮いているかのような安楽ぶりを発揮してくれるというわけだ。
「おお。想像以上に良さそうではないか」
「国元にも一つ欲しくなりますな、これは」
エベルバート王とクェンティンがそんな会話を交わす。
各国の王や国内外の貴族も執務の疲れが取れると聞いてか、興味津々といった様子だった。
やがて規定の時間通りにマッサージが終わる。ゆっくりとゴーグル部分が持ち上がると、アルバートとオフィーリアも揃って上体を起こした。
「……ああ。これで終わりか」
「少し眠りかけてしまいましたわ」
「場所がここじゃ無かったなら、そうなってたかもね。……うん。目もすっきりしたし、身体も軽くなった気がする」
腕や腰を軽く回しながらアルバートがにっこりと笑う。使用感に関してはばっちりといった様子だ。
そうして、アルバートとオフィーリアは顔を見合わせて頷くと、メルヴィン王とフォブレスター侯爵に席を譲る。
「それは願ってもないが……そなた達に贈られたものであろう」
「そう、ですね。みんなからの贈り物ということで最初に使わせてもらいましたが……皆さんも期待していらっしゃるようなので。父上達や招待客の皆さんにも堪能していただきたく存じます」
と、アルバートが答える。
そうだな。みんなから贈られたものということで、自分達が試しに使ってみた後で、招待客のみんなにも試してもらってもいいかと、事前に聞かれている。
話題の種になって客に楽しんで帰ってもらえるのなら、それはそれで贈り物の使い道の一つとして有意義だと思う。それに……工房としては販促にもなるか。
「こうしたものはみんなで良さを共有してこそ、というところはありますわね」
「確かに」
オフィーリアの言葉にビオラ達も笑って頷く。
そうして持ち主と作り手側の両方が快諾したことで、メルヴィン王達から始まり、順繰りに招待客もマッサージチェアを楽しむということになったのであった。
「おお……。これは想像以上にというか……」
「むう。確かに、始まって僅かでこれは効きそうだと実感できますな……」
メルヴィン王とフォブレスター侯爵の反応も上々といったところだ。
基本的にはアルバートとオフィーリアに合わせているが、成長や体格の変化、それにこうした他者が使う場合も想定して、対応できるようにある程度の調整も利くようになっているからな。極端に大柄というわけでもなければ誰が使っても大丈夫だ。いや、小柄過ぎると、足湯に足が届かない可能性はあるが。
「フォレスタニアの城や温泉周り……兵士達の詰所であるとか、割とどこに置いても良いのかも知れないわね」
「疲れを取るのには有用そうだものね」
その光景を見たローズマリーとステファニアが頷く。
そんな調子で二次会とでも言うべき宴はのんびりと過ぎていくのであった。
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。
書籍版9巻が今月25日に発売決定となり、書影も公開となりました!
こうして書籍版の続刊の告知ができるのも、ひとえに読者の皆様のお陰です!
いつも応援ありがとうございます!
さて、特典SSの執筆+αの作業も完了しております。
詳細については活動報告にて告知しておりますのでそちらを見て頂ければと思います。
今後もウェブ版、書籍版共々頑張っていきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします!




