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番外455 月神殿での祝い

 アルバート達が月神殿に入ったところで幻影達も揃って月神殿へとちょこちょこ走らせ、マクスウェル達も含めて全員神殿に入ったところでランタンの幻影を解除する。

 先程目に見えるようになった小さな精霊達も周囲に光を散らしながら姿が薄らと消えていき――そうしてこちらに手を振りながらあちこちに去っていった。


 目で見えなくなっただけで片眼鏡を通して見れば……まだそこらで踊っていたり、それぞれの属性に合わせて居心地の良さそうな場所で寛いでいたりと、普段より賑やかな光景ではあるのだが。


 こう……。サラマンダーが串焼きを売っている屋台の炭火の中で風呂でも浸かるように寛いでいるのは中々にシュールな光景であるが……。


 ともかく数多くの精霊達の振る舞いというのは……周囲の雰囲気まで変えるものがあるからな。今回の場合は変えるというより後押しというところがあるが。

 拡声器の魔道具からメルセディアの声が広がり、それぞれの区画の広場で酒と馳走の用意がある事が周知されていた。


 あちこちで酒樽が開けられて嬉しそうな声が響く。酒杯を掲げて乾杯の声と共に打ち鳴らし、腰に手を当てて一息に呷るドワーフや冒険者達。王国から振る舞われる酒の割り当てだけでは足りないならと、あちこちの酒場も盛況になり……と更に街の祝いムードが加速していく。精霊の後押しもあって、皆随分と楽しそうな様子だった。


 そんな街の様子を見てから俺も月神殿に入る。


 そこには祭壇への祈りを済ませて、みんなに囲まれて祝福を受けているアルバートとオフィーリアの姿があった。因みに、王城の婚礼の儀に列席していた面々も、アルバート達が街を巡る前に先に馬車で出て、あちこちのスポットで先程の行進を見ていた。俺達は街を一周してくるので、その間に先に神殿にやってきたという感じだ。


「ああ、テオ君!」


 と、アルバートが俺の姿に気付いて声をかけてくると、みんなの視線もこちらに集まった。


「おお、テオドールか。いや、良い演出であったぞ。付喪神やマヨイガも喜んでおった」

「工房の主人の結婚式ならではの演出といった感じであったな」


 御前やオリエの言葉に、妖怪達や付喪神達、マヨイガと五感リンクで中継しているティアーズもうんうんと頷いていた。


「ヒタカノクニで付喪神達の姿を見ていた影響はありますね。精霊と妖精の飛び入り参加で、予想以上に賑やかになっていましたが」


 そう答えると嬉しそうな声を上げる付喪神達と、さもありなんといった様子で頷く妖精の女王、ロベリアである。


「賑やかで、動きにも愛嬌があって……一緒に進んでいくのは、事前にある程度知らされていても楽しかったですわ」

「確かに、道具によって動きに個性があったよね。あの幻影を一つ一つ制御してたのは、流石というか」


 と、そう言って笑顔を見せるオフィーリアとアルバートである。


「喜んで貰えたようで安心したよ。気に入ってもらえるかなって思ってたからさ」

「勿論、最高だったよ……! うん。忘れられない、楽しい結婚式になった。ありがとう、テオ君」


 そっか。そうやってストレートに言って貰えると、俺としても嬉しいな。


「今日の事も……絵にして、残しておく」


 アルバートの言葉を受けてか、シグリッタがそんな風に言って。みんなからも笑顔が零れていた。先程の街や精霊達の様子も伝えたりして、それでまた笑みを深めてくれるアルバートである。


「実は、あたし達からも、贈り物があるんです」

「何が良いかテオドール様やクラウディア様達にも相談して作ったんですよ」

「気に入ってもらえると良いのですが」


 と、頃合いを見て、ビオラ、エルハーム姫、コマチが言う。


「境界公の術式を魔石に刻む仕事はマルレーン様や、俺とシンディーで担当させてもらった」

「納得の行くものができるまでは、結構苦労しました」


 タルコットとシンディーもそう言って……物品を預かっていた神殿の巫女達が台車を押してそれを持ってきてくれる。台車の上には布で覆われた何かがあって。


「えっ。何時の間に、こんな大きなものを作ってたの?」

「マルレーン様まで魔石の仕事をなさっていたなんて」


 と、目を丸くするアルバートとオフィーリアである。


「ふふ。工房を留守にしている事が多かったですからね」

「そこで、テオドール様の東区の邸宅をお借りして、ですね」

「夜とか朝とか。そういった時間に進めていました」


 と、ビオラ達がしてやったりといった様子で笑う。


「わたしも、てつだったの。おめでとう、兄様、オフィーリア様」


 マルレーンがそう言って、二人に祝福の言葉を伝える。

 演出はサプライズというわけにもいかなかったから、何かしら驚かせる物が欲しいと、工房のみんなで贈り物をしたらどうかと秘密裡に進めさせてもらった。

 俺の組んだ術式をタルコットやシンディーが魔石に刻んだり、ビオラ、コマチ、エルハーム姫は工房から帰るふりをして、東区の屋敷に泊まりこんだりなどして、製造を進めたわけだ。


「マルレーンも頑張ってくれたんだ。何、だろうな。見ても良い?」

「勿論です」


 そんなやり取りを交わしてから、布を取り去る。そこにあったのは――革張りの、高級感のある椅子であった。ゆったりと寝そべるような格好で腰かけられる深い椅子であるが、ヘッドレストにゴーグルのようなものがついている。当然リクライニング可能だ。

 そんな椅子が二台横並びで連結している。


「何だか、変わった形の椅子だね。二人で座れるようだけど……」

「表面は構造強化で破れないようにしたトライオックスの革で、内部にはロックファンガスの硬度を調整して緩衝剤にしてある」


 トライオックスというのは三つの角を持つ牛の魔物だ。迷宮内部の一角に出現する魔物で、鋭い角での突進攻撃を仕掛けてくる割合凶暴な魔物だが……革の質がよく、結構な高級品扱いされる。

 ロックファンガスはハーピーの里で貰ってきて栽培を進めていたものだな。加工次第で建材にもなるし良質なクッションとして使える。


「この背中や肩、腕やふくらはぎに当たる部分なのですが、中に仕込んである球体が動いて疲れた時に揉み解してくれるというわけです」

「この部分は、目を覆うと、ほんのりとした温度の湯気で温めてくれる」

「足元もこの手元の操作盤を使えば良い湯加減のお湯が溜まるようになっていて……要するに揉み解しながらの足湯ですね」


 ビオラの言葉を引き継ぐように、タルコットとシンディーもそんな風に説明する。

 つまりは――多機能のマッサージチェアだな。ゴーグル部分は魔法技師の仕事や書類仕事で疲れた目をホットタオルで温めたような効果を期待できるし、足元も足湯を楽しめる。

 暑い季節も想定して送風機能もついているし、寝落ち対策のために時間が来るとマッサージ等々も自動で止まる。内部のマッサージ機能についてはゴーレム制御の応用だ。


 最初は魔法技師関係の疲れに有効なものをと、目の疲れや肩凝りに効きそうな物をと考えていたが、あれよあれよと言う間に全身の疲れを癒せるようなものをという方向に進んでいたわけだ。そうなると俺としてもマッサージチェアという案に行き着いてしまったというか。


 まあともあれ、人体に負担をかけず、且つ確実に疲れを取る力加減と動きというのを、迷宮核でシミュレーションしてそれを術式化したりと割と手が込んでいる。


「まあ、これから先、魔法技師の他にも領主の執務もあって……夫婦揃って仕事疲れなんてこともあるだろうからね」


 などと言いつつ、そういった機能を説明すると、アルバートとオフィーリアは感動したような表情を浮かべていた。


「これは……すごいな。見た目も高級感がある仕上がりなのは流石だね……」

「着替えないと流石にすぐ試すのはまずい、ですわね」


 そうだな。花婿衣装と花嫁衣装だし。後で感想を聞かせてもらえたら工房のみんなも喜ぶのではないだろうか。


「ふうむ。話を聞いた感じ、ギルドの執務室にも欲しい逸品よな」

「今後……工房で作る予定はあるのかな?」


 と、アウリアや各国の王、貴族といった面々からも割合真剣に質問されたりもして。


「そうですね。ノウハウは既に確立されているので、個々人に合わせて採寸する必要もあるかなとは思いますが」

「注文があるなら作っていきたいね」


 と、アルバートが笑う。その言葉に小さく腰のあたりで拳を握ってガッツポーズをしているアウリアは……まあ、うん。

 ともあれこの後はこのままフォレスタニアの城にみんなで向かい、そこで宴の席ということになっている。結婚式の演出も工房としての贈り物も喜んで貰えたようだし、みんなで賑やかに過ごすというのが良いだろう。

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