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番外453 術師と技師の絆

 そして――結婚式の当日がやってくる。段取りを確認するリハーサルも済ませているし、諸々の準備もできていて、後は実際の式を挙げるだけだ。

 アルバートもオフィーリアも王城では別々の控室に入り、式が始まるまで新郎も新婦も髪型や衣装、化粧を整えたりと、俺達が付き添うような形を取る。


 このあたりの流れは俺が戴冠式と結婚式をした時と同じではあるな。

 アルバートの控室には俺やエリオット、タルコット、チェスター、それにフォブレスター侯爵。オフィーリアの控室にはグレイスやアシュレイ達が付き添いとして行っている。


 アルバートはと言えば、髪を香油でしっかりとセットし、服もかっちりとした礼装である。宝冠は王子であることを表すものだ。俺は戴冠式を経て公爵位の冠を得たが、アルバートは冠を持っている。

 花婿衣装は金糸の刺繍が入った白いタキシードで、しかも肩章やマントもついたかっちりとしたものだ。


「こういうしっかりとしたものは着慣れてないから困るよ」


 と、苦笑するアルバートである。


「あー。俺の結婚式の時も……そうだったっけな」


 こうした礼服、正装を身につけると気は引き締まるが、万が一にも汚してしまっては困るから窮屈な感覚があるというか。


「私も着替えると俄かに緊張した事を覚えています」

「確かに普通の式典とはまた勝手が違う、ような気はしますな。式典さえ始まってしまえば後は何とかなりましたが」


 エリオットやフォブレスター侯爵にも身に覚えがあるのか、俺の言葉に苦笑して応じる。


「まあでも、アルは俺と違って、礼儀作法も付け焼刃じゃないから良いんじゃないかな」

「はっは。テオ君はそう言って作法もしっかりしてるけどね。もしそう見えるのなら、僕の礼儀作法も捨てたもんじゃないのかな? 普段気にしなくていい生活をしているから鈍っているかなって思うんだけどね」


 俺の言葉にアルバートが笑う。少し肩の力が抜けたようで何よりだが。


「殿下の所作は、流石といった風格です」

「そうですね。見習わなくてはと今から思っているぐらいです」


 チェスターが言うと、タルコットも目を閉じて感心するように頷いていた。二人とも真剣な表情だったりするが……。チェスターもタルコットも、結婚を考えている相手がいる以上はこうした内容も他人事ではない、か。


 そんな会話を交わしたところで、笑っていたアルバートがふと真剣な表情になって、口を開く。


「改めて……ありがとう。みんなから祝福されて、こんな日を迎えられるなんて……少し前には想像もしていなかった。まだ何も成していなかった僕を信じて、力を貸してもらえたからだと、そう思っている。みんなには、何て言ったらいいか……」


 ……そうだな。アルバートはマルレーンやオフィーリアを守りながら自分が生きる場所を作るために、そして、それでも誰かの役に立ちたいからと、王宮では目立たないように立ち回りながら人間関係を築き、そして工房を作った。

 だから、今のようにアルフレッドとしての功績をアルバートとしても認められ、沢山の人に祝福を受けての結婚式というのは考えていなかったというのは、あると思う。


「殿下の思慮深さに最初に気付いたのはオフィーリアですからな。あの子が言わなければ、私も気付いたかどうかは分かりません。娘の事を、よろしく頼みます」

「――はい、義父上」


 フォブレスター侯爵の言葉に真剣な表情で頷くアルバートである。

 オフィーリアが気付いたから、か。それがなければもしかすると別世界の俺も、アルバートとの関わりが少なくなっていた――かも知れない。


 別世界の俺も、アルバートとは協力関係にあった。

 だからBFOで工房の主、アルフレッド=ブライトウェルトとその正体に絡んだイベントもあったわけだが……アルバートとオフィーリアの交流がなければ、フォブレスター侯爵の後ろ盾もなく……工房の成立が遅れたりしていた可能性はある。

 流れが違っていたら今の俺のアルバートとの関係ももしかすると違っていたかも……等と考え出すと、何やら不思議な感覚があるな。


「信じてくれた、というのは、こちらの台詞です。あなたや境界公がいたから俺は歩き出す事ができた。どうか、幸せになって下さい」

「タルコット卿の仰る通り。私も殿下と境界公のお陰で立ち直ることができたのです。王族の矜持、戦う者の覚悟を見せて頂き、騎士たるものが何たるかを見つめ直すことができた。どうかお幸せに」


 と、タルコットとチェスターはそう言って静かに一礼を返していた。


「私は――工房ができてから、知己を得た形ですが。境界公と殿下の魔道具には幾度も命を救われております。私や討魔騎士団の皆だけではなく、その手で作ったもので、沢山の人々を救ってこられた。そんな殿下だからこそ、皆も祝福の言葉を口にするのでしょう」


 エリオットもそんな風に言う。俺も、続けるように口を開く。


「俺も、アルと知り合ったからこそ、今ここにいるっていう部分はあると思うよ。タームウィルズに来たばかりの頃は、俺も今みたいなことになるなんて想像もしていなくて、考え方や大切だって思う事も、今とは少し違っていた。……ただ、アルの自分の場所を作りたいって考えには、共感するところがあったんだ」


 前世の記憶があってもなくても。アルバートと知りあう事が出来ていたらきっと、そうした共感は抱いていただろう。


「だから一緒に組んで仕事をするのは面白そうだって……そう思っている内に、工房の仕事も実際楽しくて、こうなってた。アルの腕が確かだったから、楽しかったっていうのはあるね。さっき、アルは何も成してないって言ったけど、仕上がりを見れば魔法技師として研鑽していたのは一目瞭然だったからね」


 アルバートは王国のため、人のために役に立ちたいと。そういう目的意識を持っていた。だからこそ腕も磨いてきたのだろう。

 そんなアルバートと組んで仕事をしていなければ、今の俺の立場も違っていたというのは有り得る話だ。

 少し前の俺は……守りたい人と生きていける場所があれば、それはどこででも良いと、そう考えていたから。そう考える相手に、段々と工房のみんなや沢山の知り合った人達が含まれていって。だから、今の俺があるのだと思う。


「だから――これからもよろしく頼む」

「――うん。ありがとう、テオ君。ありがとう、みんな。ああ、困るな。式の前からこんな……」


 アルバートはそう言って、涙をこらえるように目を閉じていたが……少しの間を置いて顔を上げると、その表情は晴れやかなものだった。


「僕も、テオ君には――伝えておきたい言葉は色々あるんだ。僕だけじゃなく、マルレーンや母さんの事まで解決をしてくれて……。ローズマリー姉上への誤解も解いて、和解もすることができた。だから僕は……何も迷う事も無く、工房の仕事に打ち込む事ができたんだ。その事が――テオ君や誰かの助けになっていたのなら、こんなに嬉しいことはない。だから……僕の方こそ、これからもよろしく頼む」

「ああ」


 そう言ってから――どちらからともなく握手を交わす。そこに、女官が顔を出し、式の準備が整ったので新郎も準備に入って欲しいと連絡事項を伝えてきた。付き添いである俺達は一足先に謁見の間に入り、列席者として式に立ち会う事になる。


「それじゃ、俺達は一足先に謁見の間で待っているよ」

「うん。いよいよか」


 と、手元の木箱の中の結婚指輪を確認するアルバートである。先程まであった緊張感も取れてきているようだな。これならきっと大丈夫だろう。

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