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番外451 祝福と感謝を

 魔界の門の移送も無事に終わり、ガブリエラやスティーヴン達はフォレスタニアに顔を出す、という機会が増えた。状況として気軽に遊びに来れるようになったというのもあるが、体調管理のためのデータ収集という理由もあるからだ。


 スティーヴン達の体調管理については――普通投薬と言うと体格や年齢である程度決められるところがあるのだが、子供達の能力は個々人で違うので反動の大きさも違ってくる。だから事細かにそれぞれデータを収集しなければならない。


 同時に封印術を使った魔道具を用意して反動そのもののデメリットを抑えつつ、能力そのものは必要になる事もあるので限界値そのものは弱まらないようにする、という方針だ。


 というわけで常時発動型の能力を持つ顔触れや、能力の調整が効きにくい面々には封印術やそれを応用したリミッターを用意したりといった具合になる。


 封印術の効果を弱め、能力の一部だけは必要な時に解除しないままでも行使できるといった調整をしておけば咄嗟の自衛にも役立つだろうし、反動の大きすぎる能力に上限を設ける事もできる。執務や飛行船建造といった仕事を行いながらも、工房でそういった作業を進めていく。


「この調整だとどうかな?」


 と、ユーフェミアに聞いてみる。ユーフェミアは手の平を空に向けてそこから炎を噴き上げたりしていたが、やがて頷いた。


「――良いわね。夢の世界からの具現も、幻影を映す程度に留めておけるわ。このぐらいなら、周囲の人を無意識に夢に引き込んでしまうような事もない、と思うわ」


 作り出した炎は触れてもすり抜けるだけで幻影と変わらないが、リミッターが無い場合、本当に燃えているかのような熱を感じるし、ユーフェミアが本気で力を込めれば呪力と強烈な暗示により、実際の火傷も負う、という話だ。


 ユーフェミアを中心として、能力を及ぼせる範囲に魔力資質を無視した様々な現象を起こせる、という強力な能力ではあるが、こうしたリミッターを用いる事で幻覚と同程度まで効力を抑えられるという寸法である。


「エイヴリルさんはどうですか?」


 と、シャルロッテが尋ねる。


「良いと思うわ。能力も封印されて、感覚も普通になっていると思う。私の場合、普通の感覚の方が不慣れだけれど……」


 問われたエイヴリルがそう答えて苦笑する。そうして封印術の魔道具を解除したかと思うと、軽く手を振り、そこから青色の靄のようなものを空中に散らしていた。

 エイヴリルは共感覚とテレパスの複合能力だ。だから色や音として感情を視覚や聴覚で観測する事が可能なのである。

 それを自分から発信したり受信したりもできるわけだ。つまり、あの色のついた靄に触れるとこちらも何かしらの感情を想起されたりするのだろう。


「魔道具の起動と解除も慣れてしまえば簡単ね」

「それは良かったです」


 エイヴリルの返答に安心した、というようにシャルロッテが微笑む。

 シャルロッテも封印の巫女の修行の一環として、封印術が絡んだ魔道具作りに加わるようになった、というわけだ。


 リミッターは応用なので、まずは完全なオンオフと、装着者自身によるスムーズな起動と解除に絡んだ魔道具を、というわけだ。

 魔道具用に組んだ術式のチェックはこちらでも行っているし、実動試験はシャルロッテ自身が自分で魔道具の起動と解除が可能かしっかりと試すなど、安全管理もしている。


「これで少し様子を見て貰って、問題がないようなら一応封印術系の魔道具に関しては大丈夫かな」

「ええ。気付いた事があれば連絡するわね」


 ユーフェミアとエイヴリルは揃いのデザインの腕輪に触れて微笑む。

 封印術の魔道具は扱いとしては個々人に合わせた特注品ということになる。

 実用品ではあるが特注品で、しかも身に着けるものなら最初から好みの装飾品で作った方がいい。

 というわけで希望を聞いてみたところ、二人とも揃いの腕輪ということに落ち着いたわけである。能力行使後の体調チェックもできる複合型魔道具でもある。


 ともあれ……これでスティーヴン達の魔道具調整も一段落か。封印とリミッターの複合型というのも作れるので、封印を解除しても反動の大きすぎる力は制限される、必要に駆られた場合はリミッターも解除可能……といったような段階的な安全装置として機能してくれるはずだ。


「後は訓練とか、迷宮の浅いところで何度か能力行使をして試していけばいいのかな」

「もう少し情報を集めれば、みんなの投薬量なんかも問題なさそうよね」


 レドリックとイーリスがそう言って笑う。

 そうだな。データ収集だけなら訓練だけで済ませてしまう事もできるが……スティーヴンはどうせなら能力を活かして将来冒険者としても食っていけるか試したい、とも考えているようだし。

 実地で稼いでみて続けていけるかどうか、というのは重要かも知れない。この辺は……生き方の問題でもあるしな。


 と、工房にアルバートとオフィーリアがやってくる。


「やあ、みんな揃っているみたいで何よりだ」

「こんにちは」

「ああ、二人とも。どうだった?」


 顔を合わせて尋ねてみると二人は笑顔になる。


「衣裳の仕上がりも確認してきたよ。いやあ、何というか、うん。嬉しくなってくるね」


 アルバートが言うとオフィーリアも頷く。


「準備も整って段々日程も近付いていますからね。あちこち顔を出すと沢山の人達が祝福の言葉を下さるので……確かに嬉しくなってきますわね」

「ああ。それは分かる気がする」

「私達の時もそうでしたからね」


 と、俺達の結婚式の時の事を思い出して言うと、グレイス達がにっこりと笑い、シーラも腕組みしてうんうんと頷いて同意を示していた。


「衣装の仕上がりはどうだったのかな?」

「概ね注文通りに応えて貰えたと思うよ。実際出来上がったのをみると装飾も細かくて、想像していたより立派だったね。花嫁衣裳の方もしっかりできあがっていたみたいで……ええと、楽しみだね」

「ふふ。アルバート様の花婿衣装も楽しみですわ」


 少しはにかんで言うアルバートに、楽しそうに肩を震わせて答えるオフィーリアである。ともあれ、二人の反応は上々といった様子だ。衣装の仕上がり具合も推して知るべしといったところか。


「そのあたりは流石デイジーさんですね」

「腕前の確かな方ですからね。頼んで良かったと思っていますわ」


 と、アシュレイが微笑むとオフィーリアも嬉しそうに笑みを深める。

 今回は……進捗の確認というよりは実際の衣装合わせをしてきたらしい。


 花婿、花嫁衣裳の仕立てはデイジーの店で。生地はアルケニーとオリエ達が提供。それが出来上がったのでそれぞれ試着して仕上がりを見てきたというわけだ。

 結婚指輪はと言えば……台座とその装飾はビオラ達が。宝石の仕入れはミリアム。宝石のカッティングは南区のドワーフであるゴドロフ親方が……と、工房と商会の関係者やアルバートと繋がりの強い面々がそれぞれ担当していたりするのだ。


 衣装もできあがったとなると、準備はもう万端整ったと言っていいだろう。そんなわけで、改めて当日の段取り等も確認しておく。

 王城の謁見の間から大通りを通って……街を巡るようにして。それから月神殿へ向かうわけだ。そこでペネロープから祝福を受けて、といった流れになる。


 俺が演出を行うのはその街を巡る場面で、ということになるな。

 各国から沢山の人達も集まるし、招待客から結婚式の話も広まるだろうから、更に人通りも多くなるだろうが……何はともあれアルバートとオフィーリアの結婚式だからな。

 きっちり演出を仕上げて、俺からも日頃世話になっている感謝や祝福の意を示したいところだ。

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